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ロシアによるウクライナ侵攻を中国(習近平)はどう見る?

中国とは良好な関係のEU

 中国はもともと、アメリカ・日本・EU・オセアニアなど、先進国と経済的に深くつながっており、それは基本的に現在も続いている。

 ただし、ウイグル人への人権問題をきっかけに外交的な批判を受け始めており、貿易面でもアメリカでトランプ政権以降、日米からはハイテク製品を中心に経済制裁を受け、ハイテク産業が大きなダメージを受けるようになっている。

「アメリカ(日米)・EU・中国」を経済の3つの極として設定すると、現在はアメリカと中国がEUをめぐって争っている状態にある。

『ドラえもん』でたとえるなら、アメリカと中国という2人の「ジャイアン」が覇権争いを繰り広げている中で、どちらとも関係を良好に保っている出来杉君(EU)をめぐって、星ジャイアン(アメリカ)と赤ジャイアン(中国)が争奪戦を繰り広げているようなイメージだ。もともと星ジャイアンが優勢だったが、赤ジャイアンもかなり食い込んできている。

 米中関係が冷え込む一方で、EUの中心国ドイツに対して中国は市場を開放する政策に出ており、ドイツとの関係を深める努力を惜しまなかった。また、EU全体にとっても中国は重要な「市場」であり、アメリカに追随して中国と敵対することで、わざわざその市場を捨てる必要はないというのが、大方の流れだった。

中国が抱えこんだ矛盾

 だが最近、この雰囲気が変わるきっかけが立て続けにあった。

 EU加盟国であり、バルト3国のリトアニアで、台湾代表部(大使館に当たる)が開設されることが公になってから、中国はリトアニア製品を輸出禁止にするなど、リトアニアに対して露骨な嫌がらせをするようになった。

 これをきっかけに、EU内の他国でも、中国に対して警戒感を隠さないようになっている。

 また、ウイグルの人権問題を問題視するオーストラリアなどに対して、中国は容赦ない経済制裁を仕掛けてきたが、EU加盟国には一定の配慮を続けてきた。

 だが、リトアニアの台湾問題の「干渉」には我慢ならなかったようで、中国政府がついにリトアニアに露骨な制裁を仕掛けるようになった。それを受け、ヨーロッパ各国に不信感が芽生えるようになったのである。

 それにもかかわらず、中独関係は良好だった。たしかにドイツはウイグル問題でもなにがしかの批判をしている。台湾問題についても、2021年8月に南シナ海にオーストラリアと共同訓練し、11月にも日本にフリゲート「バイエルン」を派遣し、中国への批判行動はとっている。
 だが、中国を挑発しない程度に留めており、「中国を真っ正面から非難する」という態度とは、ほど遠いものだったと言っていいだろう。

 ところが、ここにきて、そんなドイツですら流れが変わる大きな出来事があった。それがロシアによるウクライナへの軍事侵攻である。

 特に、軍事侵攻前、北京冬季五輪で習近平主席がプーチン大統領と蜜月関係を演じたことは決定的だった。結局、ロシアは軍事侵攻をし、ロシアとは「限りない友情」を有す中国に対して、警戒心を抱くようになっている。

 というのも、現在の中国の立場は、これまでの中国とは一線を画すからである。

 これまでの中国は、あくまで「現状変更はしない」という建前を守っており、ウイグル問題で非難を繰り返す他国に対しては、「内政干渉をするな」と警告するだけにとどめていた。

  だが、ロシアのウクライナ軍事侵攻は、中国が批判する「内政干渉」を上回る「現状変更」である。中国は、台湾が中国の一部であるという「1つの中国」を主張して台湾併合を正当化してきたが、ウクライナを軍事侵攻したロシアを許容したために、これまでの主張が説得力を失い、自己矛盾に陥っている。

 これまで蜜月関係を維持してきたドイツも、中国に対して警戒心を持たざるを得なくなっているのだ。
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リトアニアは、台湾代表部(大使館に当たる)が開設され、中国から非難を浴びている

それでもEUには期待できない

 アメリカは、このチャンスにEUを中国から引き離すために、ウクライナ問題を最大限に利用するつもりであることがうかがえる。

 ただし、それでも中国・EUの貿易規模はいまや100兆円規模の貿易額であり、太い経済関係を保っている。

 ロシアであれば経済関係を絶つのは全く不可能ではないかもしれないが、中国との関係を絶つことは不可能である。EU経済が2010年のソブリン危機(イタリア、スペイン、フランス、ドイツまで巻き込むユーロ圏全体の金融危機)を乗り越えて堅調に推移できたのは、中国の経済成長を取り込むことができたことが大きかった。

 また、中国は地理的にも遠く直接の脅威を受けないことが、EUが中国の問題に直接コミットしない理由になっている。

 しかも、トランプ前大統領がEUに対して強調路線をとるどころか、鉄鋼関税など制裁関税をかけてきたことで、両者の関係はかなり冷え込んでいる。バイデン政権になって対立はかなり和らいだものの、以前のような親しい関係に戻ることは考えにくい。EUがこれからも中国に対して強硬に転じることないだろう。

 実際、EU加盟諸国の多くが「中国と仲良くやるべき」だと考えている。また、これは逆説的だが、ウクライナ問題についても、中国ならロシアを説得できるのではないかという期待感も残っており、「ロシアは話せないが、中国は話せばわかる国」という認識がまだまだ根強いのだ。

 最近も、リトアニアが「中国がロシアに着くかどちらを見極めるまでEU・中国首脳会議の開催見合わせるべきだ」と提案すると簡単に拒否されている。実際のEUの雰囲気は「中国包囲網」とはあまりもほど遠い。

 EUが本気で中国包囲網に参加することはないと考えるのが無難だろう。やはり日米英豪を中心にして中国に対峙し、EUは人権問題で協力を仰ぎ、南太平洋に領土を持っているフランス、いまだに安全保障上の対立を避けているインドをなんとかこちら側に引き受けるというのが、現実的な選択肢ではないだろうか。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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