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悠久の歴史に対する謙虚さがない野田佳彦元首相

民意を無視する野田元首相

 2022年4月5日の毎日新聞で、民主党政権で首相だった野田佳彦氏が毎日新聞のインタビューを受け、次のように述べている。

「私が首相を務めているとき、皇族の減少対策として女性皇族が結婚後も皇室に残れるようにする『女性宮家』創設を検討したが、政権交代があり、論点整理までしか進めなかった」
毎日新聞「皇位継承議論を封印するな 危機感がない政府の報告書」

 このインタビューで、野田氏は首相として女性宮家の創設を実現しようとしていたことを堂々と吐露しているのである。

 皇族の男系継承というシステムには2000年をはるかに超える歴史がある。悠久の歴史を有し、時代に荒波に耐えてきたこのシステムを、明らかに野田氏はたいした議論をすることもなく、自らの一存で変えようとしたのである。しかも、それを臆面もなく新聞紙上で明らかにしたことには呆れるほかない。

 民意をないがしろにして、「女性宮家創設が正義だ」と言わんばかりのこの態度には、悠久の歴史に対する謙虚さがない。

どこに「保守」があるのか

 野田氏が女性宮家の推進者であることは首相になる前から知られていており、民主党政権になったときには、保守論者の一部にはある程度は警戒されていたと記憶している。 

 ところが、その警戒心はすっかり薄まっていた。それは、野田氏の前々任者と前任者があまりにも酷かったからだろう。

 言うまでもないが、1人は「日本列島は日本人だけのものではない」と言い放って、主張をころころと変えて、国民からも中国や韓国など以外の外国からの信用を失い、日米関係を壊して、沖縄基地問題を再び悪化させた鳩山由紀夫氏。もう1人は福島原発事故の最中に現地視察を強行して現場を混乱させて、なぜか首相でありながら脱原発運動家となった菅直人氏だ。

 この2名と比べれば、野田氏は保守的な立場で、安定した政権運営をおこなうだろう期待された。また自らを「どじょう」にたとえるなど地味さを強調していたことから、まさか過激なことはしないだろうと思われて、皇室典範改正論者であることはすっかり忘れ去られていたのかもしれない。

 また、いずれの人物にも共通するのは、自己評価がやたらと高いことだ。

 鳩山氏は首相を辞めるときは「国民が聞く耳を持たなくなった」と、自らの失政の連続など無視してすべてを国民の責任に押しつけ、菅氏は原発事故で復興庁の設置や補正予算やがれき処理などあらゆることを遅れさせたのに「日本を救ったと思っている」と言い放っている。

 たしかに野田氏は前の2人よりは政権運営の点ではましだったかもしれないが、尖閣諸島の国有化を強行して、中国における激しい反日デモを誘発させて、尖閣周辺への侵略のきっかけをつくった、とんでもない“政治オンチ”をさらけ出している。

 野田氏には両者にはない謙虚さはあるものの、鳩山氏の「沖縄基地問題」や、菅直人氏の「エネルギー危機」などをはるかに超える、「尖閣問題」という負の遺産を後の政権に押しつけたのである。政治が結果責任だとすれば、野田氏も前任2人と同じようなものだろう。

 その野田氏が、2000年以上もの伝統あるシステムを自分の一存で変えようとしていたという事実には呆れるほかない。いったいその態度のどこに「保守」があるというのか。
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あまりにも酷かった“元首相”の2人(鳩山由紀夫氏〈左〉・菅直人氏)

伝統に対する謙虚さのかけらもない

 2000年以上の歴史を持つ伝統に対しては、まず守ることを優先すべきである。なぜなら、それほど長きにわたって存続してきたという実績があるのだから、システムとして優れている点があるのは間違いない。

 だったら、どうやったらその伝統が存続できるかを優先して考えて、そのための工夫をすることが先決だろう。工夫ができないのは知恵が足りないからであって、システムのせいではない。なにしろ2000年以上にわたって存続してきたのだから、それが短期間でおかしくなっているのであれば、従来は機能してきたものが機能しなくなっているためだと、まずは考えるべきだ。

「すべて変えろ」という人間ほど、実は優秀ではない。それは既存のシステムの良さがわからず、「工夫する能力」に欠けているからだ。改革を連呼する政治家に何事もなしとげられない者が多いのは、そもそもそのシステムを熟知できていないからというのがほとんどだからである。

 野田氏は彼で皇室を長く存続させるための信念で動いているのだろうが、2000年以上続いた伝統的な制度を変えられるほどの見識を持ち合わせているつもりなのか。少なくとも私は女系宮家に反対であるし、そういう人は特に保守的な国民にはかなり多いだろう。

 国民的な議論もなしに女性宮家創設を首相として進めようとした野田氏の態度は、尖閣国有化で日本の領土問題を悪化させた政治オンチのそれと同じだ。伝統に対する謙虚さのかけらもない者に、皇室を語る資格などあろうはずがない。
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伝統に対する謙虚さのかけらもない者に、皇室を語る資格などあるのか
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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