島田洋一:残念な政治家たち

島田洋一:残念な政治家たち

 「信頼を失うのは一瞬」という言葉がある。残念なことに、この一カ月、そうした瞬間を何度も目にすることになった。

 まずは小野寺五典衆院議員である。過去に防衛相を三度務めるなど、特に安全保障問題に見識を見せ、手堅い仕事をしてきた。三度目は、前任の稲田朋美防衛相が定見なく右往左往したあげく、崩れ落ちるように辞任した後のピンチヒッターだったが、そつなくこなし、「防衛はいつでも小野寺に任せられる」との評価を高めた。

 その小野寺氏が7月2日にこうツイートした。

 《福田康夫元首相らしいです。……官僚組織だけでなく御自身にも厳格な総理。本当に尊敬できる方です》

 ここまで小野寺氏が感動した福田氏の言動とは何か。引用記事を見ると、福田氏が講演で、森友学園を巡る財務省の決裁文書改竄を批判し、保存すべき公文書が正しく保存されていないのは「国民に対する背信と言わざるを得ない」と指摘、「健全な民主政治を進めるにはまず国民が真実を知ることだ」と力説したというものである。

 自然に眠気を誘う平板な内容で、小野寺氏が無理やり褒めにいったとしか思えない。

 しかも福田氏は首相時代、気に入らない記者の質問には木で鼻を括ったような応答に終始し、「健全な民主政治を進めるにはまず国民が真実を知ること」を実践していた「本当に尊敬できる方」とは到底思えない。

 また、小泉第一次訪朝前の日朝秘密協議を担った田中均外務省アジア大洋州局長(当時)が最も重要な時期の交渉記録を残していなかった問題を、安倍前首相は厳しく、公然と批判してきたが、福田氏は常に田中氏の側に立ち、拉致問題に冷ややかだった。一体どこが、「官僚組織だけでなく御自身にも厳格な総理」なのか。

 小野寺氏のこのツイートには、「見損なった」とする批判のコメントが多数寄せられたが、同氏は無視の構えである。これは長年支持してきた「国民に対する背信」だろう。

 そうした事後の対応も含め、私の同氏に対する信頼や期待の念は地に堕ちた。小野寺氏がこの発言を「福田先生の長寿を祝う会」の演壇で行ったのなら、別に問題はない。そうした場では、歯の浮くような挨拶が定番だからだ。

 しかし広く一般に向けたツイッターでの発信となると、少なくともその政治感覚を疑わざるを得ない。褌を締め直してもらわねば困る。本当に福田氏を心から尊敬しているのなら、何をかいわんやだが。
島田洋一:残念な政治家たち

島田洋一:残念な政治家たち

残念…な小野寺氏のツイート
 次に失望したのは、7月8日、4回目の緊急事態宣言発令(および一体としての五輪無観客)を決めた菅首相である。これで、菅は決定的局面で勝負ができない男だ、という評価が定まった。ワクチン接種拡大で武漢ウイルスの死者、重症者数が減り続け、さあ有観客での五輪開催で日本の力を示せ、と首相を応援してきた人々はみな梯子を外された。

 おりしも開催中のウィンブルドン・テニスが満員の観客の熱気で盛り上がる中、続く東京五輪が、政府の怯えのため無観客となる。この情けない対応は、国史に汚点として残る。菅氏は、日本の名誉を背負って歴史の舞台に立っているという意識を著しく欠いた。

 のみならず、逃げの緊急事態宣言のため、飲食業・旅行業中心に経営破綻が続くだろう。これは権力犯罪に近い。

 ほとんどが無症状の若者の感染者数が増えたから経済を止めるとなれば、毎年風邪を引く者が増えるたびに倒産、失業を出さねばならない。正直、菅氏がここまで腰砕けになるとは思わなかった。

 結局、感染症原理主義者「尾身先生」に迎合した事実に鑑み、菅氏が首相を続ければ、次は脱炭素原理主義者の小泉進次郎環境相に引きずられ、日本のエネルギー基盤を回復不能な形で壊しかねない。

 緊急事態宣言に関連し、休業要請に応じない飲食店に金融機関から圧力を掛けさせ、また酒の卸売業者に配送を止めさせるとの方針を表明した西村康稔経済再生相が強い批判を浴びた。

 これは西村個人の問題ではない。灘高、東大、経産省を経た西村氏は受験秀才官僚の典型である。彼は、習近平の意向を受けた香港行政長官のように、ひたすら模範解答的に弾圧に出た。トップに方向感覚がないと、優秀な官僚ほど西村氏のように動き、日本を壊していく。

 菅氏は手堅いキャッチャーだったが、いきなり任されたピッチャーはやはり無理だった。日本を救うには安倍前首相の再登板しかない。
島田洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。

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中央車線少々右側 2021/8/2 15:08

政治生命をかけて立ちはだかってくれるのは、安倍さんだけですかね。菅さんは日本の将来より自身の政治生命を取りました。あの時の菅直人に引けを取らない政治判断になったと思います。近い将来、歴史に裁かれることでしょう。

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