ステマまがいのネット対策?
問題の所在をようやく察知した津田大介さん以下、ジャーナリストや有識者の人たちの抗議声明を号砲として「ステマまがいのネット対策」に対する議論となり、大騒ぎになっております。
それも、後述する問題含みの広告代理店などを経由して立憲民主党からコンテンツ制作の資金が提供されていたことが明らかになりました。それにも関わらず、その事実を伏せたままクラウドファンディングを行い、現状では2000名ほどいるとされる月額課金のサポーター会員を擁する「Choose Life Project」は中立を装って公共メディアを標榜(ひょうぼう)しており、これらがただちに違法とは言えないにせよ、利益相反とステマ紛(まが)いの批判は免れ得ませんでした。
事実上、立憲民主党のネット広報の一角を請け負っていたことになるのですから、事情を聴かされないまま出演したり、集客したりして片棒を担がされた形になる津田さん以下、ジャーナリストや有識者の人たちも筋論からして抗議せざるを得ないのも分かります。
また、先に問題となったネット上での野党攻撃を繰り返していたアカウント「DAPPI」について、立憲民主党では議員・小西洋之さんを筆頭に、自由民主党とかかわりが深いネット工作要員だったのではないかと国会で質問をするまでしていました。今度は自ら批判するところが自党でも行われていたこと明らかになったので、見事な「ブーメラン」が突き刺さるとともに、ネットでの情報工作と政党の関与という非常にセンシティブな問題に発展しております。
リベラル色が強かった
その内容は、明らかに左派系野党側が問題視したい政権や政府の施策への批判に誘導されるものであって、いわばマスメディアにおける社会問題の議題設定能力の機能をネットでも持たせて運動化しようという考えがあったことは間違いなさそうです。
※参考記事
立民、ネットメディア「Choose Life Project」への支援認める 番組への関与は否定
ここで気になるのは、TBSの番組ディレクターなどの経歴を持つ共同代表の佐治洋さんと設立に関与したA氏(声明の中では匿名)の絡みと、そもそもまだ法人設立前の段階で立憲民主党から「番組制作費」の名目で約1000万円強と見られる費用を「広告代理店」経由で受注している点です。
実のところ、佐治洋さんについては非常に力量のある番組制作者である一方、極めて社会主義的で主観の強い報道を行い、勇み足をすることで知られている人物でもあり、過去にも報道やインタビューにおいて幾度となく事実関係と180度異なる内容に仕上がる編集を行い、問題視された経緯もあったとされています。
一方で、「Choose Life Project」立ち上げに際して立憲民主党が支払ったとされる約1500万円という金額と動画の放送内容を見る限り、一連の制作委託が法外に高い金額だった(≒何らか裏金などをつくるために高い金額でわざと発注した)とは思えません。
ただ、冒頭にも書きました通り、そもそも法人設立前の段階からすでに立憲民主党とズブズブの関係にあった「Choose Life Project」が、その深い関係を対外的に示すことなくクラウドファンディングをやり、公然と一般の人からサポートのおカネを取るやり方は適切だったのかという筋論の問題になるのではないかと思います。逆に言えば、そのような利益相反について事前に示して活動していれば、動画を観る側も「ああ、立憲民主党系のネットメディアなのね」と分かるだけで、利益相反があったとしてもそれが前提である以上、違法性どころかまったく問題のないサイトとして成功していたかもしれません。
自民党も「DAPPI」問題で野党やハフポストなどのメディアから追求されているのは、その関係性の明示が無かったことに加え、DAPPIアカウントが左派系野党に対してデマと思われる内容を多数Twitterなどで摘示し、意見論評を超えた発言を繰り返し攻撃しているようにとらえられたことが背景にあります。
しかし、本件では自民党から具体的にどんな話がありおカネが流れたのかは実はまだ良く分かりませんし、むしろ日本維新の会のほうが近かったのではないかという情報も出回っており、事実関係ははっきりしません。
巨額の資金が流れていた
※参考記事
「Dappi」裁判始まる 「ツイートは名誉毀損」立民議員が提訴、被告側は請求棄却求めるも出廷せず
裁判の帰趨(きすう)は裁判官が判断されることですが、この「DAPPI」問題で立憲・小西洋之さんらの代理人になっている弁護士こそ、竹内彰志さん(早稲田リーガルコモンズ法律事務所パートナー弁護士)です。ジェンダー系の永田町ロビーの世界では、ちょっとした有名人でもあります。
※参考記事
「平日の昼間から、なぜ」野党批判繰り返した「Dappi」の正体は誰?立憲議員が提訴し会見
その弁護士・竹内彰志さんは、先に触れた「広告代理店」であるブルージャパン社の代表取締役であり、先の衆議院選挙で全トヨタ労連からの組織支持を請けることができず出馬を断念した古本伸一郎さんの元政策秘書です。
※参考サイト:竹内彰志氏
そして、旧民進党とも関係が深く2015年に相応のムーブメントとなった左派系市民団体「SEALDs」との関わりとして、その「SEALDs」の創設者のひとりである奥田愛基さんは、2015年12月に代表理事として一般社団法人「ReDEMOS」を設立しています(現在は解散)。その「ReDEMOS」の理事として、竹内彰志さんと同じ早稲田リーガルコモンズ弁護士事務所の弁護士・水上貴央さんや、先に自民党・世耕弘成さんへの名誉毀損を繰り返して訴えられた青山学院大の中野昌宏さん(※)も就任されています。さらに、設立時の住所はこの早稲田リーガルコモンズ弁護士事務所と同一と見られ、立憲民主党とブルージャパン社という政党とその仕事を請ける広告代理店という関係だけでなく、立憲民主党議員の法律顧問的な役割やまだ若い「SEALDs」元幹部の面々の雛箱的な機能をも果たしていた可能性は否定できません。
※読者の指摘により、この部分を1月13日修正しております(編集部)
その立憲民主党の広報の一環として、法人設立前から立憲民主党の枝野執行部が費用を丸抱えして設立した組織だったのではないか、と見受けられます。そればかりか、今回の「Choose Life Project」やブルージャパン社の周辺を見ていると、いわゆる左翼界隈のお仲間を支えるための広報とお金と活動のネットワークがあるようにすら感じられます。
例えば、共産党への支持を明確にし、沖縄・辺野古周辺での米軍基地反対デモに家出少女を送り込み排除する警察に対する肉壁にしたりしていた社団法人「Colabo」(代表理事・仁藤夢乃さん)のところにも、理事として元「SEALDs」創設者・奥田愛基さんの御父上、奥田知志さんが就任しておられます。おそらくは、立憲民主党と共産党、れいわ新選組、社民党による野党共闘路線を推進したい左翼系活動家や左派知識人のハコとしてこれらの組織が機能し、ここで棲息する立憲民主党の知名度のある支持者やその支持基盤を維持するための資金提供を党費で行うためにブルージャパン社に億単位の税金が使われてきたことは容易に類推できます。政治の世界ですし、自由民主党やその他政党がみんな身綺麗かと言われるとまったくそういうこともないでしょうし、一連のやりようは適法である限り、もはやこれは筋論の問題です。
また、この早稲田リーガルコモンズ法律事務所のパートナー弁護士である竹内さんを代表取締役とした法人にリーガルコモンズ社(法律事務所と同じ住所)が設立されており、2016年には約4600万円、2017年には約6100万円(旧民進党と立憲民主党からの支出額の合計)が振り込まれていることが分かります。
ここから、上記「ReDEMOS」で活動していたSEALDs奥田さんら元メンバーが合流する形で「広告代理店」ブルージャパン社が設立されて、2018年には約1億7000万円が、2019年には3億8000万円が立憲民主党から支払われていた形になると見られます。
旧民進党の元代表・前原誠司さんが東京都知事・小池百合子さんとの連携を視野に設立した旧希望の党を設立し、そこからはじき出される形で枝野幸男さんは立憲民主党を立ち上げました。2017年の第48回衆議院議員総選挙において、立憲民主党代表の枝野さんと元「SEALDs」の奥田さんは共に街頭演説を行い、また、立憲民主党の初代幹事長となった福山哲郎さんとも選挙活動に従事しております。今回の件で、立憲民主党の枝野執行部と旧SEALDsの関係は一層覆い隠しようのないものとなったのも事実です。
ブルージャパンの果たした役割とは
今回の「Choose Life Project」は、一連のSEALDs旋風で若者・ネット対策と動員を行う上で重要な役割を果たした人たちを「広告代理店」ブルージャパン社として囲い、その立憲民主党の広報の一環として、法人設立前から立憲民主党の枝野執行部が費用を丸抱えして設立した組織だったのではないか、と見受けられます。
ここで取り沙汰されるのが旧民主党、旧民進党から枝野さんが設立した立憲民主党に馳せ参じ、左派系野党の事務方として長らく精励してきた秋元雅人さんという存在です。すでに某月刊誌で誰かが記事にしてますが、左派系野党の支持層拡大のための舞台装置として「Choose Life Project」もその広報手段のひとつにするため、手塩にかけて育ててきたのが今回立憲民主党のお家騒動でいよいよバレてしまい、どこかに記事にされて大炎上する前に先手を打って津田さん以下ジャーナリストや有識者からの抗議声明という形でダメージコントロールをしようとしたのではないかなあと思うわけであります。
※参考記事
立憲事務局のドン「秋元雅人」の火種
津田さん以下ジャーナリストや有識者の皆さんは、動画サイトで何度も出演をしているにもかかわらず、これらの支出とは桁が随分少ない金額で、ご多忙の中、時間を割いて「Choose Life Project」にご協力をされていたようです。
何ともご苦労なことですが、もしもいま密やかに問題となっている立憲民主党内部での内ゲバ騒動の理由の一端がこの問題にあるのだとするならば、実際には菅直人政権で太陽光パネルをふんだんにつかったメガソーラープロジェクトに関連して多額の広報宣伝予算やプロジェクト費用を担った政治家や企業もまた蒸し返されることになるのではないかと思っています。
違法とは言えないけど……
今回の「Choose Life Project」も、SEALDsの元メンバーの皆さんが政党広報を支える企業の一員として頑張っておられることも、これそのものは適法です。
SNS上で特定の議員や組織に対してデマと受け取られてしまうような情報を流してしまうのは問題ですが、それは刑事事件というよりは当事者同士、民事でわいわいやってもらうしかありません。
ただ、やはり道義上は、
「政党が自分たちのシンパを養うために広告代理店を設立し、そこに多額の発注をして彼らの生活や政治活動を維持していながら、その政党が丸抱えしている実態を隠したままこれらのネット工作部隊がクラウドファンディングをやり、月額課金のサポーター制度をつくるような仕組みは、ただちに違法とは言えないけど、ステルス・マーケティング紛(まが)いだし、よろしくないのではないか」
というような感じでしょうか。
それを言い始めたら、実質的に左派野党の機関紙も同然となっている東京新聞や、新聞に載せられない際どいネタを訴訟上等で放り込む先になっている週刊誌界隈などはどうなってしまうのか、という点は改めて「政治とメディアとネット対策のあるべき姿とは何なのか」という文脈で真剣に考えていかなければならない部分です。
食えないと、岩上安身さんのIWJみたいに年がら年中潰れそうだから金をくれというキャンペーンをしなければなりませんし、新聞社も紙で読む読者の激減からいつまで体制を維持できるか分かりません。
テレビ局も、つまりはそういうことであって、言われてみれば今回の「Choose Life Project」だってTBSで番組制作の経験のある人たちだからこそ、法人設立前に少なくない金額の制作費をもらえていたことを忘れてはなりません。まさか、TBS時代からそのような政治家からの意向を受けて番組づくりをしていたとは思いませんが、このあたりの問題も含めて、津田さん以下ジャーナリストや有識者の皆さんも抗議だけでなく実際の調査報道まで完遂していただきたいと願っています。
無理だと思いますけれども。
1973年、東京都生まれ。個人投資家、作家。慶應義塾大学法学部政治学科卒。一般財団法人情報法制研究所上席研究員。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行なっている。