【安積明子】中曽根氏合同葬に思う:政府に期待する「伝統...

【安積明子】中曽根氏合同葬に思う:政府に期待する「伝統・文化」の尊重

 日本学術会議の新会員候補6名の任命拒否問題を巡り、静岡県の川勝平太知事が「菅義偉首相の教養のレベルが図らずも露見した」と述べ、物議を呼んだ。後に川勝知事が菅首相が人選の起案をしていないことを知ってこの発言を撤回したが、まさに「教養のレベル」が露見した問題が勃発(ぼっぱつ)した。
 故・中曽根康弘元首相の政府・自民党合同葬を神嘗祭(かんなめさい)の日にぶつけた件だ。

 神嘗祭とはその年の初穂を天照大御神に奉る祭りだ。1948年に「国民の祝日に関する法律」が制定されるまで、10月17日は大祭日とされていた。現在も今上陛下が御遥拝され、賢所(かしこどころ)で親祭が行われる。皇族方も参加され、新嘗祭とともに最も重要な皇室行事となっている。

 にもかかわらず、政府は国立大学に弔旗・半旗をたてるように通達を出した。最高裁にも弔意を求めた。これについて10月16日午後の官房長官会見で筆者が質問したところ、加藤勝信長官は「日取りはそれぞれの理由で設定された」と述べ、弔旗掲揚については正午を過ぎてからと改めて求めたと回答。政府にはタブーの意識がなく、騒がれ始めてから慌てて弥縫策を講じたことが露呈した。

 現行憲法下では天皇は政治的権能を有さず、象徴としての役割しか有しないとされているが、政府は国会開会日や組閣の日程などを決める際には天皇に配慮し、そのスケジュールを最大に尊重している。合同葬には悠仁(ひさひと)親王以外の秋篠宮家、常陸宮家が参加されることが決まっていたので、神嘗祭についてもわかっていたはず。ただ神嘗祭の重要性についての認識がなかったのだろう。

 そもそも最近の政府は日本の伝統や文化を軽視していないだろうか。昨年11月に行われた大嘗祭についても、本来なら茅葺きにすべき大嘗宮の屋根を板葺きに変更した。大嘗祭は天皇陛下が即位の直後に行う新嘗祭で、1世1度きりという最も重要なもの。しかも宗教行為である神事であるにもかかわらず、「経費節減」という名目での変更だ。政治による宗教への干渉という危険性も多分にある。

 昨年11月に亡くなった中曽根元首相の合同葬は、当初は3月15日に行われる予定だったが、新型コロナ感染症の拡大で延期されていた。感染状況を見ながら慎重に日程を模索していたつもりだったのだろうが、思わぬところでボロが出たことになる。

「保守という政治を掲げる自由民主党は、日本の歴史、伝統、文化というものを非常に大事にし、その精神を受け継ぎながらも、常に新しい社会、新しい世界へ挑戦していく姿勢をもっている」

  これは中曽根元首相が『保守の遺言』(角川oneテーマ21)の前書きで記した一部だ。まずは日本の歴史、伝統、文化を尊重した中曽根元首相、この現状を見たらどう思っただろうか。
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安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

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