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橋下徹氏の原点は、19年前の著作にあり?

謝らない橋下徹

 元大阪府知事の橋下徹氏は連日、ツイッターでロシア・ウクライナ戦争に関する文章を書き連ねているが、その矛先が在日ウクライナ人のナザレンコ・アンドリー氏(国際貿易関連の会社員。言論活動も行っている)に向けられたことは、Daily WiLL Onlineに寄稿した通りである。

 橋下氏は、ナザレンコ氏が娯楽で北海道に行ったかのように記し、ナザレンコ氏を非難しているが、それが事実誤認であり、一方的なレッテル張りであることも、拙稿で指摘した(ナザレンコ氏は観光や娯楽ではなく、講演という仕事で北海道を訪問したのである)。

 私は、橋下氏がその事実を知ったならば、ナザレンコ氏に謝るものと思っていた。
 例えば、「事情を深く知らないにもかかわらず、ナザレンコ氏が娯楽で北海道に行ったかのように記したのは、勇み足でした。ナザレンコさん、申し訳ありませんでした」のように(橋下氏が問題の発言をしたのは、3月25日)。

 ところが、現時点(4月1日)に至るまで、橋下氏はウクライナ関連の文章を連発しているが、ナザレンコ氏への謝罪の言葉はどこにも見られない。

 それどころか、中日スポーツ(3月27日)に掲載された記事「橋下徹さんと激論を交わした政治評論家と政治学者が皮肉『僕の考えた正しい当事者論』はいらないし妄想」を引用しつつ、次のようにツイッターで述べたのだ。

《感覚、価値観の違いやなー。僕が外国に滞在しているときに、仮に日本が侵略されたなら、どんな手段を使ってでも日本に戻るか、もし外国に滞在したままなら、日本国内の戦闘員には申し訳ない気持ちと敬意を表しつつ、一般市民にはとにかく生き延びて、無理せんでええから、日本がどんな判断をしても構わんからという気持ちになるけどな。自分は命が守られる外国にいたまま、戦うしかない、一般市民の犠牲も已むなしとは口が裂けても言えんわ。価値観の違いや》(3月27日)
 と。
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橋下徹のツイッター(3月27日)

この2人の周辺?

 ちなみに、前述の中日スポーツには、次のような文章が記載されている。

《2日前、自衛隊駐屯地での講演に向かった北海道での写真に対し、橋下さんから「あなたがいくら立派なことを主張しても全く説得力がなくなる」などと厳しい言葉をかけられた政治評論家のナザレンコ・アンドリーさんだ。

「戦時を体験したこともなければ現地の人と話したこともない弁護士にはわからないかもだけど、近くに砲弾の雨が降る中でも、子供が遊んで笑うし、人は誕生日も祝うし、結婚式もあげるし、犬と散歩したり音楽を楽しんだりもする。人は辛い時こそ幸せを感じたいもの。(橋下さんが展開する)『僕の考えた正しい当事者論』要らない」と皮肉を込めてツイートした》


 連日のように、ツイッターを見て、情報発信している橋下氏のことなので、おそらく、ナザレンコ氏が娯楽で北海道に赴いたのではないことは、すでに知っているものと思うし、何より中日スポーツの記事を見ているのなら、そのことは分かるであろう。

 しかし、橋下氏のツイートにそれに関する文章はない。そればかりか、ナザレンコ氏を飛び越えて、なぜかその「周辺の人々」への批判を展開し始めたのだ。

《この2人はどうかしらんけど、この2人の周辺にいる人たちは「コロナワクチンを強制するな!」「打つも打たないも自由だろ!」と叫んでおきながら、戦地から逃げる自由は叫ばない》(3月27日)
 などのように。

 橋下氏が言う「この2人」とは、在日ウクライナ人のナザレンコ・アンドリー氏と国際政治学者のグレンコ・アンドリー氏のことである。「この2人の周辺」が誰を指すかは、分からないが、橋下氏が後で靖國問題を持ち出しているので、かつて、靖國問題で論争していた作家の百田尚樹氏や、ジャーナリストの有本香氏らを指しているのではないかと私は勝手に推測している。

 ウクライナ戦争から、なぜ急にワクチン接種や靖国問題に飛躍したのか。橋下氏は、《「2人の周辺」の人々が(戦争において)「一般市民の犠牲已むなし!というスタンス。自分はコロナワクチンすら打たない自由を認めろ!と言うのに、他人の場合には戦地から逃げる自由を叫ばない》(3月27日)論者であると批判している。

 要は、橋下氏は、「周辺の人々」が自己中で、他人のことなど考えていない、自らの主義主張にこだわっていると非難しているのだ。
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橋下徹のツイッター(3月27日)

まずは「ごめんなさい」だろう

 しかし、橋下氏は、2人の周辺の人々が、ワクチン接種をしていないことを確認したのであろうか。そうでもないのに、2人の周辺にいる人たちは「コロナワクチンを強制するな!」と叫んでいたと言われても、机上の空論、一方的な決めつけであろう(ちなみに、有本香氏は、ツイッターでワクチン接種したことを公表している。2021年8月21日)。

 橋下氏は、なぜここまで持説に固執し、他人の名誉を損なうような間違いが認められても、謝りもしないのか。同氏が2003年に出版している書籍『最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術』(日本文芸社)のなかに答えがあるように思う。

橋下氏は同書のなかで、交渉や論争において、自分の発言の不当性や矛盾を相手に気づかれた時には、
《相手に無益で感情的な論争をわざとふっかける》
《さんざん話し合いを荒らしまくって最後に決め台詞に持っていく。「こんな無益な議論はもうやめましょうよ」「こんなことやってても先に進みませんから」自分が悪いのにこう言って終わらせてしまうのだ》

 と主張しているのだ。

 つまり、いかに自分が悪くても、謝らないことを良しとしていると言えよう。

 また同書には、
《ありえない比喩による論理のすり替え》
《どんなに不当なことでも、矛盾していることでも、自分に不利益になることは知らないふりを決め込むことだ》
 との記述もあり、今の橋下氏の論法そのままである。

 橋下氏が、急にワクチン接種や靖國問題に触れ出したのも、問題の本質から人々の目を逸らそうとしているように思えてならない。しかし橋下氏の「名誉」のためにも、ナザレンコ氏にはちゃんと謝った方が良いと思うのだが……。

 ナザレンコ氏は、3月30日にツイッターを更新し、
《橋下氏を無視しない理由の一つは、ロシアが悪い前提があるからです。親露派は「ウクライナ軍が自国民を殺してる」とか、「ウクライナはナチ」とか、「生物兵器」とか、妄想しか語らないから、現実社会では相手にされないです。議論より治療が必要。橋下氏は認識が違えど事実も言うので議論する意味ある。第三者のため》
 との文章を綴ったが、橋下氏はそれに対し、同日、
《ナザレンコさん、ありがとう。祖国のことは辛いやろうけど停戦が訪れることをとにかく願おう》
 と応答した。

「ありがとう」ではなく、まずは「ごめんなさい」だろうと思うのは、私だけであろうか。
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橋下徹氏のツイッター(3月30日)
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』『日本会議・肯定論!』『超口語訳 方丈記』など。

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