意味不明な「無観客開催」
この処置に納得できる国民がどのくらいいるのだろうか。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら「専門家」の見解を、菅首相は素直に聞いたということなのだろうか。「大丈夫」と口にして感染拡大したら責任を負わされることから、彼らが極端な保身に走っていることに、菅首相はいまだに気づいていないのか。
現在世間では、街中を歩く際のマスクの着用など、非科学的な「感染症対策」が広がっている。こうしたおかしな実情を修正させるような提言を、彼らは積極的に打ち出してさえいない。彼らはなるべく国民の負担を軽くしながら、効果的に被害を抑制することを科学的に追求する立場には立っていないのである。
世界は「ポストコロナ」に向かって着々と動いている。イギリスはその典型だ。1月には1日の新規養成者数が6万人近くまで増えていたのが、ワクチン接種の効果によって、4~5月にかけてはおおむね1日2千人程度にまで下がった。それが直近では、3万人を超えるところまで再び広がっている。それでも、イギリス政府は制限処置を事実上完全に排除する方向に動いた。なぜか。1月には1日に2千人近く亡くなる日もあったのが、ワクチン効果で1日30人程度まで減っているからだ。今後死者数は、若干は増えていくだろう。だが、通常の経済活動を妨げる理由にはならないことをジョンソン首相は理解している。事実、ジョンソン首相は今月中に1日あたりの陽性者数が5万人まで増える見込みであることも述べている。それでもウィンブルドンの決勝は満員の観客で行われた。
日本においても高齢者のワクチン接種がどんどん進んでいて、新規陽性者のうち東京都内の65歳以上の高齢者の割合は、2月半ばに25%程度だったのが、直近では6%程度まで引き下がった。高齢者の割合がここまで大きく引き下がったのはワクチン効果であるのは明らかだ。ワクチン接種者なら重症化をかなり食い止めることができるし、死亡するリスクも大きく引き下げることができる。この感染症は高齢者を除けば「ややタチの悪いこともある風邪」レベルにすぎない。高齢者の希望者全員に対するワクチン接種が順調に進んでいるなかで、若者や働き盛りの人たちの行動をどうして強力に抑制させなければならないのか。まったく意味不明である。
ちなみに、最近日本の新規陽性者数が増加傾向にあるとはいえ、1日あたり2千人を超える程度である。イギリスの3万人と比べれば15分の1だ。しかもイギリスの人口は日本の半分程度である。一体、菅首相は何を恐れているのだろうか。
事実上の「禁酒令」で酒屋を苦しめる菅政権
極めつけは西村経済再生担当大臣の問題発言だ。西村大臣は、酒類販売業者に「休業要請に応じない飲食店との酒類取引停止」を求めただけでなく、酒類を提供する飲食店が休業要請に応じなければ、取引先の金融機関に店舗情報を提供して働きかけを行う旨の発言を行なった。
後者は国民の猛反発を喰らって事実上の撤回となったが、これに関しても、実は西村大臣単独の暴走ではない。金融機関に店舗情報を提供して働きかけを行ってもらうとの案は、7月8日に開催された新型コロナウイルス感染症対策本部の会議でまとめられたものであったことを、加藤官房長官は認めている。そしてこの対策本部の本部長は菅首相であり、この会議に菅首相も出席していたのである。
前者については撤回されず、休業要請に応じない飲食店との酒類取引を停止することを求める「依頼書」を、国税庁酒税課が酒類業中央団体連絡協議会各組合に対して配布するところまで進んだ。当然ながら、酒類販売業者は大いに猛反発している。
やはり「安倍晋三」の登板を
「ホテル・旅館」の倒産も97件(5.6%)とかなり多い。東京五輪を当て込んで都内に建てられたホテルは数多いが、無観客決定による影響は甚大だろう。
政治の決定に合理性・納得性がなければ、国民はついていかない。おそらく今回の緊急事態宣言に従わない飲食店、酒類販売業者は相次ぎ、事実上無効化されていくだろう。そうなることが国家的危機であるとの認識を、残念ながら菅首相は持っていないようだ。そこに菅首相のセンスのなさが明確に示されている。
格好は悪いだろうが、菅首相に対しては今からでも方針を完全にひっくり返すことを求めたい。
オリンピックは、ワクチン2回接種の証明書か陰性証明があれば観戦できることにしたらどうだろうか。これは今年のウィンブルドンで採用されたやり方でもある。政治的見地から満席が難しいのであれば、半分でもいい。オリンピックは単なるスポーツの記録会ではない。人間的な触れ合い、交流がなければ、オリンピックにはならない。観客の拍手や声援もオリンピックを構成する不可欠な要素なのだ。
全国的に行われている緊急事態宣言も蔓延防止処置も、7月末で完全撤廃してはどうだろうか。希望する高齢者に対するワクチン接種が予定通り完了する目処が立ったので、今後のリスクはインフルエンザと同程度と見なすとし、指定感染症の2類相当以上(事実上の1類指定)から5類に引き下げるとすればいい。
そしてオリンピック終了後には、体調不良で代役を務めてきた首相から身を引き、体調回復した安倍氏に再びバトンタッチをする意向を表明する。ここまでの決断を菅首相に求めたい。
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。