朝香豊:東京五輪「中止」の危うい既成事実化

朝香豊:東京五輪「中止」の危うい既成事実化

東京五輪「中止・延期すべき」が8割?

 東京オリンピック・パラリンピックの開催に関して中止を求める声が各方面から高まっている。勤務医の労働組合である「全国医師ユニオン」が「オリンピックは無観客であっても世界中あらゆる国から選手やコーチ、大会運営者、報道関係者らが日本に来ることになる。東京が危険なウイルスの培養の場になってしまいかねない」として中止を強く求める要請文を厚労省に提出したことが大きく報じられた。

 大会運営の人員確保にも困難が出てきている。競技会場となる鹿島サッカースタジアムでは、選手らのケアを担当する予定だったボランティア看護師の約7割が辞退する事態が生じた。政府はオリンピック用の指定病院として、都内で10カ所それ以外の自治体で20カ所病院を確保する方針を立てていたが、茨城県の大井川和彦知事は「県民より五輪選手を優先するのは認められない」、千葉県の熊谷俊人知事は「希少な県内のコロナ用の病床を確保したり専有することは考えていない」、神奈川県の黒岩祐治知事は「特別に病院を用意するのはとても対応できる状況ではない」とし、政府の方針に応じられないとする姿勢を見せた。

 こうした報道を含めて、コロナに関する不安を煽る報道が相次ぎ、また気温が上昇しても感染拡大がなかなか止まらない状況になって、国民の中でもオリンピック・パラリンピックの開催によって国内で感染拡大が進むことを恐れる声が高まっている。オリンピックの開催に関する世論調査では、再延期を求める声と中止を求める声を合わせると8割を超えるとの調査結果すら出ている。
朝香豊:東京五輪「中止」の危うい既成事実化

朝香豊:東京五輪「中止」の危うい既成事実化

東京五輪反対デモ

「ワクチン接種」を大会参加の条件にせよ

 これに対して菅総理は「国民の命や健康を守り、安全・安心の大会を実現することは可能」との立場を示した。このこと自体はよいとしても、果たしてそんな「安全・安心の大会」を絶対に実現させるリーダーシップを菅内閣は発揮しているのかと問うたときに、私には大いに疑問である。

 コロナについては指定感染症の2類相当以上から5類への指定替えを見送ったことで、対応できる病院がひっ迫している現実がある。コロナの感染については現在がほぼピークと思われ、減少し始めた兆候も出ているようにも見えるが、今後期待通りに下がっていくかどうかは必ずしも明確ではない。このような状況の中でオリンピック用の指定病院を確保してくれと言われても、県知事たちがなかなか首を縦に振れないのは仕方がないだろう。新たにプレハブで病院を建て、オリンピックの選手団が来日するまでに稼働させる方針を立てないと、この問題は解決しないと考える。

 五輪参加条件としてワクチン接種の義務づけ案が出てきたときに、日本側はこれに反対する姿勢を国際オリンピック委員会(IOC)に示し、IOCがこれを了解した経緯がある。このような綺麗ごとを条件にしたことで、オリンピックの開催を非常に厳しいものにしたことについて、日本側は反省すべきである。ファイザーやモデルナのワクチンの安全性と有効性がともに非常に高いことが確認できたことを受け、選手や大会関係者に接種を義務づけても問題はないと方針変更したとすればいい。今からでもワクチン接種を来日の条件にすべきである。

 ワクチン接種の義務づけは外国人だけに限らない。ボランティアスタッフや報道関係者を含めた日本の大会関係者にもワクチン接種を義務づけて、ワクチン接種が終了していなければ大会会場に入ることができないようにすべきである。

明確なプランで東京五輪を成功に導け

朝香 豊:東京五輪「中止」の危うい既成事実化

朝香 豊:東京五輪「中止」の危うい既成事実化

今こそ確かな「プラン」を示すべき
 菅総理は「選手や大会関係者と一般の国民が交わらないようにする」との方針を示しているが、この結果として選手たちの行動を大きく規制することになれば、大会開催で約束した「おもてなし」が実現できないことになる。ワクチン接種さえ進むのであれば、こうした規制もいらなくなるだろう。義務づけされなくてもワクチン接種している選手たちからすれば、どうして自分たちの行動まで制限されなければならないのかとの思いを持つのは当然である。開催できるかどうかだけでなく、選手たちを日本国を挙げて大いにおもてなしできるかどうかは、国際スポーツ界での日本の評判に大きく関わることになる。

 観客にもワクチン接種を義務づけて優先接種できるようにすれば、無観客にする必要もない。観客は日本人ばかりになるだろうが、目一杯詰め込んで大いに盛り上げればいいではないか。敵国選手に対しても常に公平な姿勢を示す日本人の礼儀正しさを示す機会となれば、それは別の意味でもこの大会が成功を収めたことになる。

 高齢者などのハイリスクを抱えた人たちのワクチン接種も、少なくとも都内23区や開催予定の周辺自治体の住民に対しては、選手団が来日する前に終わらせておくべきである。こちらは希望者に限定される形でよい。

 そして最も大切なのは、「安全・安心」の大会開催に至るまでのこうしたプランを現段階で具体的に国民に示し、6月末までに今の感染状況をしっかりと抑え込むことを国民に対して約束することだ。国民に対する安心とは、しっかりとしたプランを立て、それを確実に実行していく姿勢を明確にし、実際にプランを実現していくことで成り立つ。そして6月末になって約束していた通りの状況が実現できれば、国民は菅政権に対する信頼を大きくすることであろう。大会終了後の秋に総選挙を考えているのであればなおさら、この問題でのハンドリングは菅政権にとって極めて重要である。

 決然とした姿勢で進む方向とそれを実現できる青写真を示し、実際にそれを実現していくというのは、国民に政治に対する安心感を与えるために極めて重要なものである。だが、日本の政治家でこれを行っている姿はほとんど見かけない。今回の騒動をこの日本の政治のあり方を変えるきっかけに是非ともしていただきたいものである。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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