【門田隆将】厚労省はなぜ国民の「命の敵」なのか

【門田隆将】厚労省はなぜ国民の「命の敵」なのか

ワクチン接種も始まったが…
 自宅等で悪化し死亡が急増 新型コロナ 1月だけで132人──2月13日、FNNからそんなニュースが流れた。

 イギリスで感染力の強いコロナ変異株が発見され、世界に緊迫感が増していた頃、日本は入国緩和による〝フリーパス〟政策で2020年11月と12月の2カ月間で計「13万6千人」の外国人が入国、一挙に〝感染爆発〟したのは周知のとおりだ。

 だが、日本はフリーパスをやめ、入国管理を厳しくするのかと思ったら、さにあらず。全く無関係な〝GoTo〟を槍玉に挙げ、更なる医療逼迫を呼び込んだ。

 その皺寄せを受けたのが、都市部の新たな感染者たちだ。東京などでは自宅療養とホテル隔離が増加し、そこで「死に至る」ケースが目立ち始めたのだ。そのことを報じたのが冒頭のFNNニュースである。
 
 警察庁によると2020年3月から今年1月末までに自宅などで容体が悪化して亡くなった人は全国で254人。〈特に1月は132人にのぼり、全体の半数以上を占めたほか、1カ月間で初めて100人を超えた〉と伝えたのである。私は記事やネット、ツイッター等を通じて一貫してこの問題点を指摘してきた。

 それは、自宅やホテルで隔離中に「治療も薬の処方もしてもらえない」という実態についてだ。赤痢やコレラより重いとされる「2類」相当の新型コロナが、いざ隔離されると放ったらかしにされ、〝各々、自己免疫力で闘え〟とされるのだ。信じ難いことである。

 「治療もしてもらえないまま重症化して命を落とす感染者が増えてくる」と危機感を覚えた私が、実際に1月下旬にホテル隔離になった人物(50歳男性)に取材すると、こんな有様を伝えてくれた。

 「ホテル隔離中に39度5分の高熱になり、ホテルの別室でオンライン診療を受け、初期に効くと言われているアビガンの名を出して『投与をお願いします』と頼みましたが、『そこは医療施設ではないので薬の処方はできません』と断られました。
 看護師に相談したら市販の風邪薬を渡されただけでした。翌日一旦下がった熱が再び上がって40度近くになり、『早く入院させてくれ』とお願いし、幸いベッドに空きが出たので、やっと入院させてもらえました。病院ではアビガンを投与してもらいましたが、最初の2回は9錠ずつ、あとは4錠という大量投与。しかし、さすがにあっという間に症状が改善しました。まだアビガンが効く時期でよかったです」

 幸いにもこの男性はアビガン投与後6日目で退院し、自宅療養10日余りで、無事、職場復帰を果たした。

 都の1月のコロナ死者は過去最多の259名。症状が悪化してからの入院では〝手遅れ〟になる人間がいるので当然だ。だが、なぜホテルを「仮の医療施設」として認め、早めに薬の投与をおこない、またそれぞれの地区の医師会に巡回チームでもつくってもらい、隔離されている患者をケアしていかないのか。
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なぜ早くにホテルを「仮の医療施設」として認めなかったのか?
 厚労省はやっと2月2日、高まる非難を前に全国の自治体に対して一本の「事務連絡」を出した。在宅又は宿泊療養施設で〈治験薬ごとに、安全性に関する情報や投与経路等の特徴を踏まえ、安全な実施が可能かどうかを評価すること〉との内容である。つまり、入院前の隔離中でもアビガンやイベルメクチンなどの未承認薬の投与が可能になったのである。

 厚労省のコロナ対策を一言で表わすなら「不作為」である。武漢で感染爆発し、中国からの入国禁止を打ち出さなければならない時に「武漢からの航空便に発熱と咳の有無を聞く質問票を配布する」という驚愕の対策でお茶を濁した厚労省。その後も、37度5分以上の発熱が4日以上続かなければ受けつけない方針を出し、貴重な国民の命が手遅れで失われていった。

 さらには人口比世界一の160万床というベッド数を誇りながら、民間病院や医師会の協力さえ取りつけられず、わずか3万床しかコロナに対応できない状態を続けた。また製薬業界以外の開発によるアビガンへの未承認という徹底的な苛めも酷かった。そして台湾や中国、ベトナムなどが実施している入国者の自己負担による「厳格なホテルでの二週間隔離」を政府方針に組み込むこともできなかったのである。

 サリドマイド事件や薬害エイズ事件等々の過ちを一向に顧みない同省は、未だ専売特許の「不作為」を続けており、何ひとつ国民の命を守るために役立たなかった。これが〝秀才君〟や〝マニュアル君〟たちの寄せ集めである霞が関の実情だ。「自分たちは国家・国民のために存在する」という根本を彼らに気づかせることが、日本再生の第一歩だろう。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第19回山本七平賞を受賞。最新刊は、古森義久氏との共著『米中"文明の衝突" 崖っ淵に立つ日本の決断』(PHP研究所)。

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