若者は「ワクチンを打ちたくない」のではない

 高齢者のワクチン接種率が90%に近付いている中で、政府と自治体が若者の接種率を上げることに注力し始めた。この記事では有効的とそうではない戦略について、20代の立場から意見を述べたいと思う。

 まず、日本の政治家はなぜか「若者はワクチンを打ちたがらない」という偏見を持っているが、同年代の人と喋って、そういう印象を一度も受けたことがない。反ワクチン運動に熱心なのはむしろ中年の方だろう。若者の場合、「打ちたいのに年上の人が優先されるせいでまだ打てない、もしくは予約取れない」(一番多いパターン)と「重症化しないからコロナにもワクチンにも関心が低い」という人が圧倒的に多い。後者もワクチンを嫌がるのではなく、打つメリットがわかっていないという印象だ。
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【ナザレンコ・アンドリー】「若者はワクチンを打ちたがらない」のウソ

ワクチン接種のため、混乱する渋谷の様子
via twitter
 ところが、この現状を理解せずにか、意図的に無視したかわからないが、東京都は若者の間にワクチンを「PR」するために約10億円も投入した。これは税金の酷い無駄遣い以外何物でもない。PRしなくても、渋谷で事前予約なしでワクチン接種を受けられる会場が設置された時、接種の開始を12時から予定していたのに7時頃に既に希望者数が定員を超えていて、大混乱が起きた。需要が供給より何倍・何十倍も高い時期に巨大なPRキャンペーンを開始することはナンセンスであり、そういう方針を取った小池知事が若者の世論を全く把握していない証である。

 敢えて予約なしのシステムにしたことも疑問に思う。おそらく気軽に立ち寄れることを心がけていたが、スマホやネットサービス利用に慣れていて、タイムパフォーマンスを重視する若い世代からすれば、打てるかどうかすらわからない状態で何時間も行列に並ぶことは時間の無駄でしかない。渋谷接種会場の状態を見て、「面倒くせー、どうせ行っても接種できないだろう」と思い、諦めた人も少なからずいるだろう。9月4日から導入された、LINEを使ったオンライン抽選制のほうがずっと優れており、普通に考えたら最初からそれを使うべきだっただろう。

「人流抑制」一辺倒では納得できない

 最近Instagramを始めた尾身会長の論法も若者には響かない。「若い人も重症化する可能性あるよ、軽症でも辛いよ」という脅し文句は何千回も聞かされたわけで、有効期限がとっくに切れた。初期の頃はマスコミから情報を得るしかなく、恐れていた人も沢山いたが、感染が拡大したことに伴い、今では殆どの人はコロナを経験しているか、罹った知り合いがいる。そしてテレビの論調と対照的に、「2日で治った」や「インフルより症状が軽かった」などという楽観的な話を友達から聞くことが増えた(重症化の確率は0.1%以下なので当然だろう)。尾身さんの話と現実の友達の話と、どちらのほうをより信じるかは言うまでもないだろう。

 まして、低い上に目に見えないリスクよりも、毎日感じている精神的・経済的な害のほうが大きい。コロナ禍でも安定収入があって、貯蓄を持って、収入源が飲食店やイベント開催と関係なければ、いくらでも安易に自粛しろと若者叱れる。しかし10代~20代の大半は経済的弱者であり、学費も生活費もアルバイトで稼がなければいけない人が多い。つまり、コロナよりも、コロナをめぐるパニックのほうが彼らの生活を脅かしているのだ。たとえ話をすると、「0,001%の確率で実弾が撃たれるロシアンルーレットを一度だけやってみるか、毎日例外なくゴム弾を撃たれるか」という選択肢をさせられているようなもの。最初は恐れて後者を選んでも、一年半以上にゴム弾が撃たれる状況(=自粛生活)が続くと、もう我慢できないからリスクを取る方を選ぶ人が増えてしまうのは自然な流れであろう。緊急事態宣言が9月以降もまた再延長するのであれば、宣言を軽視する若者や自営業者は増えていくに違いない。
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ナザレンコ・アンドリー:「若者はワクチンを打ちたがらない」のウソ

インスタを始めても「人流抑制」一辺倒?
 そういう状況の中で一番正しい戦略を取ろうとするのは政府だ。読売新聞の記事によると、ワクチン接種が進んだ10~11月の段階で、緊急事態宣言の発令地域でも感染対策を行った飲食店では酒の提供や時間制限を緩和するほか、接種済みの人の外出や県境をまたぐ移動も原則認める方針が決まりそう。どんなコロナ怪談よりも、「ワクチンを打てば日常を取り戻せる」というアピールのほうが若い世代に響く。また、行動制限の緩和が本当に実現したら、接種率は爆上げするであろう。

 が、もし政府が約束を守らず、このまま人流抑制に拘り続けるのであれば、若者の信頼は取り戻せなくなる。若者の投票率が「低い」と思って対応を後回しにすれば、将来的にしっぺ返しを喰らうのは政府であり、日本そのものだ。今からでも政府・地方自治体には世代間のバランスをとれた政策実行を期待する。
ナザレンコ・アンドリー
1995年、ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、「新欧米側学生集団による国民運動に参加。2014年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語にも堪能。著書に『自由を守る戦い―日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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