【深川保典】コロナ危機下での格差拡大を許すな

【深川保典】コロナ危機下での格差拡大を許すな

 新型コロナウィルス感染者拡大の第3波を受け、2020年12月14日、政府は「Go Toトラベルキャンペーン」の全国一時停止を決定した。今年6月からの利用者は3,000万人以上にも上り、一定の効果を生み旅行関連業者も一息付けたところだっただけに、また谷底に突き落とされる悲鳴が聞こえてきそうだ。

 私の周りのライブ出演を生業にしている仲間たちの窮状は、目を覆うばかりだ。かなり腕を磨いて来てこれからだという時に、先が見通せないと辞める決心をした20代のドラマーは、またガテン系の仕事に戻っていった。音楽の道で食えかかっていたのに、結婚するからとアパレル関連の契約社員になったピアニストもいる……。アンビバレント(二律背反)な世界で綱渡りしている者たちは、まず食って行かなければならない。世情が落ち着いたところで復帰しようとしても、旬の伸び盛りの才能を逃せば開花することなく枯れていく。

 ライブを収録して配信すればいいじゃないかと簡単に言うが、そのコスト負担もそうだが、ライブをステイホームで見てどこが楽しいのか。まだ世に出ていないアーティストの粗削りなプレイスタイルに間近で触れながら、その未完のピュアな醍醐味を楽しむために客は足を運ぶのだ。ライブハウスも常時営業している店はかつての半数くらいに激減した。開いている店でも店長がたった1人で店を切り盛りしている。ただでさえ音楽で食っていくのは至難の業なのに、そこにコロナショックが襲い、一層狭き門へ蟻地獄と化している。

 コロナ時代という新たな環境に順応して行かなければ生き残れないことはわかっている。だから店でも検温、消毒、換気、ディスタンスを心掛け、飲食するたびに「マスクを外してまた戻す」を客に推奨している。ここまでマメにやっていても客離れは止まらない。

罠に嵌るな

 この武漢風邪の対処法がPCR検査1つ取っても、ウィルスの専門家の中でも割れているということは、我々の常識を働かせよということを示唆している。萎縮しながらステイホームを続けるのか、風邪に気を付ける程度の意識は持ちつつ、日常の行動を普段通り続けるのか。

 すべては数字が物語っている。12月16日現在で、世界の感染者数7351.8万人の内、163.6万人の死者で、2.2%の致死率。米国のそれは1671.6万人の内30.3万人で、致死率1.8%だ。日本では全人口の0.14%の18.5万人が感染しており、その内の1.4%の2581人が死亡している。それは全人口の0.002%である。インフルエンザの死者数が18年で3,325人となっており、それに比べればこの数字は無視できるほどに小さい。

 東京都の武漢風邪の死者の平均年齢は79.3歳だ。亡くなった方にはお気の毒だが、少しだけ寿命を奪われただけのこと。それを伸ばすために若者たちの可能性まで奪ってはならない。

 決して馬鹿にしてはいけないが、小学校で踏襲されている通常の10%の罹患率で学級閉鎖といった程度の対策で十分ではないのか。それなのに大学のキャンパスは今も閉鎖されたまま安易なオンライン授業だけが行われ、授業料だけは全額取られていく。個が分断され、大学という出会いの場を奪われた学生たちは飼い慣らされた家畜のように怒らない。

 過度に恐怖心を煽り、国民を委縮させているオールドメディアと知事だけが一番得している。経済が停滞している中で独り勝ちで業績を伸ばしているICT(Information & Communication Technology)関連企業は悪乗りして自粛を誘導しているように見える。

 まんまと乗せられたら彼らの思う壺だ。会議も授業も飲み会も、イベントも、そして初詣までもオンライン。オンラインが何かトレンディでカッコよく見えだしてきたら要注意だ。オンラインは飽くまで従で、主はライブ(生)のはずだ。本末転倒になってはいないか。「デジタル・トランスフォーメーション」とカッコつけて社会をスマート化したがっている勢力がいる。デジタル庁を21年9月に発足させる菅総理はその筆頭格だ。彼らをグローバリストと呼びたい。

 私は反グローバリストではないが、「半グローバリスト」ではある。手段であるべき国際化の流れを何でも否定しようというのではない。和魂洋才、いや「和魂地(球)才」は有用だが、今進行しているコロナ禍に乗じたこれらの悪乗りには異を唱えたい。

 この流れが進むと、これまでの経済社会秩序を破壊し、文化までも破壊する。彼らに言わせると、「新たな経済秩序や文化を創造している」となる。これは人間らしさを削いで、血の通わない冷たいAI主導の社会へと導く。そして「集会結社の自由」という民主主義の肝を根こそぎ破壊する。

 産業に抑え込まれてきた奴隷のような非正規雇用の者たちのエネルギーが遂には暴発し、SNSで暴徒化し、これまで積み上げてきた文明をも破壊するだろう。いや、もうそんなエネルギーはその日暮らしの彼らには残っていないのかもしれない。だが残り火のようなテロや国家転覆にも似た騒擾が一旦起これば、これを封じ込めようと最後に登場するのは、中共が先導している「デジタル全体主義国家」なのだ。この罠に嵌ってはならない。

 民主主義はボトムアップのプロセスを重んじる。時間もかかればコストも掛かる。それをすっ飛ばして即断即決のトップダウンに切り替えようというのがデジタル全体主義だ。

開く格差社会

 ICT関連企業の正社員にとってコロナはどうってことないというより、千載一遇の商売のチャンスだ。それに公務員も大手企業のサラリーマンも平均年収600万円以上の彼らはリモートワークを積極的にやり、業績も上がり、休業補償もある。痛くも痒くもない。毎日通勤電車に乗らなくて済むし、子供と過ごせる時間も増え、むしろ充実感を覚えている。

 一方、平均年収300万円以下の非正規雇用者たちはこのピンチをどうやってチャンスに変え得るのか。答えが出ぬまま、実労働時間を減らされたり、雇止め(雇用期間満了後に更新しないこと)に合い職場を失い途方に暮れている。令和元年の金融広報中央委員会の調べでは、貯金ゼロが3人に1人(単身者世帯、2人以上世帯は4人に1人)いる。ということは、そのほとんどは借金を抱えているはずだ。

 日本ではバブル崩壊以降、失業率が1%上がる毎に2,400人余りの自殺者が増えている。2019年の自殺者総数は20,169人とこの10年間減り続けていたのに、今年になり7月から急速に増加し、この10月だけでも自殺者が2,153人となり、前年同月比で39.9%も伸びた。その多くは経済死だ。コロナの累計死者数2,581人と比べてもその爆発的増加がわかる。この経済死を食い止めることが優先されるべきではないのか。

 飲食店関係者、特に水商売関係者は棄民のように扱われている。1番弱い者に1番大きな皺寄せが来ている。新宿歌舞伎町でホストが逃げまどい路上でリンチを受けている場面に遭遇したことがある。キャバ嬢を巡るそのスカウト同士の縄張り争いに巻き込まれたのだ。都会の裏の闇社会で壮絶なシノギが展開されているのを感じる。

 虫けらのようなヒトの悲劇など何の興味も湧かないとばかり、タワーマンションのペントハウスから下界を見下ろし、サンルーフのある部屋では真冬でも半袖で降り注ぐ陽光を浴びて読書に耽り、夜はバスに浸かりながらワイン片手に煌めく星空を美女(美男)と眺めている…そんな億万長者(個人金融資産1億円以上)が日本にも少なくとも200万人以上(中国には1,000万人、米国には2,000万人)はいる。この2%の世界に入りたくて下界でアリたちが蠢いている。

 バイデン優勢の選挙結果のニュースを受け、11月4日の日経平均も29年振りにバブル崩壊後の最高値(24,325円)を記録した。米国でもダウジョーンズが跳ね上がった。米中経済戦争が終息することを大企業関係者がいかに望んでいたかを示す指標だ。更にその奥の院(ディープ・ステイト)には、本物の戦争も散発的に起こさせ、武器もある程度売れるようにせねばと国際金融資本家たちが目論む。「死の商人」と呼ばれる人たちは今も昔もいる。

 ジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットのような資産何十兆円といった、国家をも動かせる桁違いの大富豪たちが、常人にはわからないレベルで暗躍している。今回の米大統領選挙でも民主党に資金提供して、中国とも共闘していることがはっきりと分かった。だが実態はそんな単純な構図ではない。資産家たちは、両陣営に資金提供しているのだ。バイデンに6割、トランプに4割とポートフォリオを組んでいる。どちらにも保険をかけるのが彼らの手口だ。

 こうして日米共に、親の世代よりも子供の世代が確実に貧しくなって行っている。それは中間層が先細っているからだ。これまでアメリカの安定を支えていたアッパーミドル層は衰退し、ロウアーミドル層に転じて行く。三菱総研の推計では27年に中国がGDPでアメリカを抜く。

本気で地方移住に舵を切れ

 このような激変する国際環境の中で、日本は隣国に負けない強い体質の国を作れるのか。

 東京は脆いが、地方はもっと脆い。

 今回のコロナ禍を契機に、まさに「窮すれば、即ち変じ、変ずれば、即ち通ず、通ずれば、即ち久し」と易経にもあるように我々は身を処すことができるか。

 若者ほど敏感にリアルに感じ取り、危機感を持っているはずだ。

 片道1時間以上もかけて職場に通っている非正規雇用の手取り20万円もない若者たち。スマホやゲーム中毒になって、出逢いを見つけようにも出来ないでいる彼ら彼女ら。そんな20代で、エンタメビジネスでメジャーデビューすることなど考えてなければ、即刻地方への移住を勧めたい。男女を問わず必ず歓迎される。このままでは正社員どころか家族も作れない、貧窮難民いや棄民になってしまう。もっと怒らねば!

 人間としてこの世に生まれてきて何一つ意のままにできぬ現状は、産業のただの奴隷だ。これまで親や教師の言うことを素直に聞いて健気に生きてきた若者が、今アリ地獄に落ちている。これは国力を削ぐことにもつながる。少し柔軟な発想と勇気さえあればまだ人生はいかようにも開けてくる。今回のコロナ禍がひょっとして後押ししているのかもしれない。

 しかしそれはこのICTでガチガチに出来上がった飽和状態の大都会にしがみついていては無理なのだ。時給1,000円の仕事などあと20年でほとんどAI(人工知能)に取って代わられる。千葉や栃木や長野では東京圏だ。どうせなら北海道や九州くらいを視野に入れてほしい。経験を積み資金力も多少ある30代前半の若者も大歓迎だ。

 ところが日本人の伝統的な「弱み」は、この移動の出来なさ。土着性があまりにも強過ぎる。これは農耕民として「強み」ではあったが今では裏目に出ている。遊牧民の逞しさは移動を意に介さないところだ。15年のシリア難民もまずはEU加盟国のギリシャやブルガリアに移動して行った。それはちょうど東京から北海道や九州くらいの距離に当たる。

 生活の拠点が地方にあり、時には東京の実家に帰って都会の空気を吸うというのが一番の贅沢だ。最大の「強み」と言っていい。次に贅沢なのが地方出身者の東京暮らしだ。1番貧しいのが東京出身の東京暮らし。盆や正月の醍醐味も知らない。彼らは時々旅行で地方に行くのが贅沢だと思っているが、イザという時東京しか行き場のない人は脆い。地方と東京を行き来できる人は両方を堪能でき視野も広まればイザという時にも対応できる。そんな生活を目指したらどうだろう。

 高知県梼原町(人口3,500人)は、1862年春に坂本龍馬が澤村惣之丞を連れ立って高知から下関へ至る「脱藩の道」の通過点に当たり、そこにある「維新の門」で有名だ。そして、隈研吾設計の町総合庁舎や雲の上の図書館、マルシェ・ユスハラなどでも注目されている。標高が1,400㍍もあるので「雲の上の町」として、女子旅の人気スポットになっている。そんな下地があってか、2014~19年に90組187人が移住してきた。その平均年齢が39歳と若い。

 地域ジャーナリストの甲斐かおり氏は、梼原町の「空き家活用促進事業」のユニークさををこう語る。「町が10~12年、家主から家を預かり、最低限の改修をして移住者に貸し出し、かけた費用を回収できた後に家主に空き家を戻す」と。450~700万円の改修費は国庫補助が2分の1、残りを県と町が折半するので、月家賃1万5,000円でも町としては約10年で回収できるのだ。そして「移住定住コーディネーターのフォローが大事」と言う。

 まだ地味だが全国の市町村にこの方式が広まれば活路は見えてくる。

「新屯田兵」を作れ

 北海道の人口は1995年の570万人をピークに過去20年間で5%減り、20年4月現在で525万人。2040年には419万人になると予想される。かなり危機的状況にある。だから道にも道内市町村にも移住相談窓口があり、住居・就労・子育てについてのきめの細かいサポート体制が整っている。だが、国がもっと積極的に乗り出す時だ。

 「自衛隊レーダー基地の喉元に迫る中国資本」の見出し(産経新聞11月28日)が飛び込んできた。北海道稚内市の土地購入をしたのは中国資本、そこで風力発電の事業をしているのは別企業と言う。そして間近の山上には自衛隊分屯地のレーダーサイトがある。

 政府は目下、安全保障上重要な土地の外国資本による買収についての「実態調査を可能にする」法整備を進めているが、どこまで能天気なのだ。調査すらこれまで行われなかったということだ。やっと重い腰を動かし始めたが、即刻これらの「土地買収の取り消し」と「その締結禁止」の法整備をしなくてどうする。

 1868年、幕府海軍副総裁の榎本武揚が、貧窮士族を北方警備と開拓のため蝦夷に移住させようと思い、立ち上がったのが箱館戦争である。これが後年「屯田兵制度」となった。新政府軍から函館五稜郭を奪取し、最後まで粘った榎本の「蝦夷共和国」も69年5月に降伏した。この共和国の総裁を務めた榎本はまだ32歳だった。この時、敵方の新政府軍の指揮を執った陸軍参謀・黒田清隆は、オランダ留学までした優秀な榎本の助命嘆願のため剃髪して東奔西走し、後の第1次黒田内閣(1888年)では榎本を逓信大臣に抜擢している。

 現代版屯田兵を募集してはどうか。おもに農林業に従事してもらうのだ。17年の全国の耕作放棄地は38万6,000㌶(農水省調べ)で埼玉県の面積を上回る。荒れた山林も増えてスキだらけだ。だから中国が買い漁る。食料自給率を高め輸出競争力のある強い農林業を再生すると同時に、外国に侵略されないための先兵になってもらうのだ。彼らに武器を持たせるのではなく、鍬や鋤を持たせるのだ。

 日本人のDNAを受け継ぐ者を減らしたくない。しかし現時点では2つの方法しかないのだ。1つは、既存の夫婦に3人以上の出産にインセンティブ(住宅・教育・医療補助)を強力に与え促進する方法。これは富める者をさらに富ますことになり公平感に欠けるが、人口を減らさない方法としては有効だ。

 そして残るのがこの地方移住によって、人間らしく生活しやすい環境を若者に整備してやることだ。それはひいては日本の辺境を豊かな土地に変え、実質的な国土防衛に繋がるのだ。政府も海外移民からこちらに舵を切るべきだ。
深川 保典(ふかがわ やすのり)
1954年、宮崎県日南市生まれ。中央大学法学部法律学科卒、ニューヨーク市立大学バルーク校大学院にて公共経営学修士号取得。ニューヨーク市都市計画局勤務後、白鷗大学講師、千葉県市川市議会議員、英国国立ウェールズ大学経営大学院東京校教授、宮崎県日南市議会議員などを経て現在に至る。主な著書に『愛国者のための東京案内』(扶桑社)、『東京改都―時代は「ネオ中世」』(中公新書ラクレ)、『文明の法則』(祥伝社)。自ら作詞・作曲した100曲余りのオリジナルがあり、プロのジャズ歌手としても活躍中。

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この記事へのコメント

2020/12/21 13:12

民主主義の崩壊は不正をただすことが基本。バイデンの大掛かりな不正投票の8000万票をまことしやかに喋っているアホには腹立たしい。これだけの証拠が出されても嘘ぶく世間に失望する。演説会場の閑散とした雰囲気が何より真実を語っている。不正を報道しないマスコミ、TVの仕事が欲しいあまり不正を口にしない連中。正に旧約聖書の終末論を呼び込んでいるようである。

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