【濱田浩一郎】文科省ダブスタ検定疑惑と「従軍慰安婦」の復活

【濱田浩一郎】文科省ダブスタ検定疑惑と「従軍慰安婦」の復活

「従軍慰安婦」の呼称復活

 本年4月から、山川出版社の中学校歴史教科書においては「従軍慰安婦」の記述が復活する。かつての歴史教科書には「従軍慰安婦として強制的に戦場に送り出された若い女性も多数いた」、「多くの朝鮮人女性なども、従軍慰安婦として戦地に送り出された」などとの記述があったが、従軍慰安婦との呼称に疑問が呈されてきたことから、現在の教科書には使われなくなっていた。それが今回、従軍慰安婦との呼称が復活するのである。

「新しい歴史教科書をつくる会」などは、これは「明らかに検定基準に反する」として、改めて同社側に記述削除を勧告するよう同省に申し入れをしている(1月28日)。これは正しい申し入れというべきだ。なぜか――文科省の検定基準は、教科書の記述内容について「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」(義務教育諸学校教科用図書検定基準)を要求しているからだ。

 第一次安倍晋三内閣(2007年)のとき、慰安婦の強制連行を示す証拠はなかったということを閣議決定している。従軍慰安婦という用語は、「強制連行」という言葉と深く結び付いて、使用されるようになってきたという歴史がある。よって、ここに来て教科書に「従軍慰安婦」の用語を掲載するということは、また「従軍慰安婦=強制連行=性奴隷」という間違った認識を国内外に定着させたり、拡散させる危険性があろう。

〝従軍〟慰安婦など存在しない

 そもそも、従軍慰安婦という用語は、戦時中には存在していなかった。当時は「慰安婦」や「特殊婦女(慰安婦)」と呼ばれていたのだ。従軍慰安婦という言葉が広まるのは、戦後になってからである。書名で使われたのは慰安婦に関する著作が複数冊ある作家・千田夏光の著書『従軍慰安婦』が最初であろうと思われる。

 従軍とは「軍隊に所属または従属して戦地へ行くこと」(『大辞泉』)、「軍人・軍属など軍に所属する人が戦場に行くこと」(『日本国語大辞典』)の意味である。よって、戦地で将兵の性の相手をした女性を「従軍慰安婦」と呼ぶことに問題はないと感じる人もいるかもしれない。「従軍慰安婦」という用語が現在「広く社会一般に用いられている」から、それで良いではないかという人もいるだろう。

 しかし「従軍」というのは「従軍看護婦」「従軍記者」などのように、軍と公的な関係を持つ人々に付ける用語であり、業者(慰安所経営者)と私的に雇用契約している慰安婦に付けるのは適切ではないとの見解もある(慰安婦は民間の斡旋業者によって集められ、慰安婦は軍属ではなく、民間人の扱いであった)。

 「日本軍の性奴隷」が慰安婦の実態を示すとする人々であっても、従軍慰安婦という呼称は適切ではないとしていることをご存知だろうか。「女性たちの戦争と平和資料館」のホームページには、次のように記されているのだ。

 「奴隷状態におかれた被害の実態を明確にするために、自らすすんで軍に従ったという意味にもとれる従軍慰安婦は使いません。従軍慰安婦が戦後になって使われ始めた造語だということもあります」。

 同ホームページの「従軍慰安婦ではないのですか?」には結論として、慰安婦が当時の日本軍の文書にも使われていることから、歴史用語として、カッコをつけて「慰安婦」と表記するとしている。これが歴史を真正面から見据えた見解ではないだろうか。「従軍慰安婦」ではなく「慰安婦」と教科書には記載すべきなのだ。歴史を記述する教科書は、歴史に対して謙虚でなければならない。前述したように「従軍」という言葉は「慰安婦の強制連行」(日本軍が婦女子を強制連行し、性奴隷にした)という偽りの言葉につながりかねないのである。
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「従軍」ではないのだ

歴史教育の正常化

 ちなみに、文科省は今年の1月8日に従軍慰安婦の記述について「教科用図書検定調査審議会の学術的・専門的な審議の結果、検定意見は付されなかったものなので、記述の訂正を勧告することは考えていない」と文書で回答している。

 最近の文科省は、明らかにおかしいことでも、「おかしいじゃないか」という声を聞き入れず、安易に突っぱねるような気がしてならない。2020年、私も執筆者として参加した「自由社」の歴史教科書が不合格になったが、この時の教科書検定でもおかしな事が散見された。自由社の教科書の記述はダメ、でも他社はオーケーということが見られたのだ。例えば、私の専門の中世史で言うと、「元寇防塁 福岡県博多湾に築かれた石塁の跡(福岡市提供)」とのキャプション(写真説明)に「生徒が誤解するおそれのある表現である」との検定意見がついた。その理由としては「防塁が復元されたものであることがわからない」というもの。しかし、他社の教科書の同じ教材には検定意見は何も付いていない。これを二重規範(ダブルスタンダード)と言わず、何と言おうか。このようなことが、他にも見られるのである。

 文科省は教科書検定において「手続き的な観点」から「不正は行われていないことを確認した」というが、私には理解できない。とても、合理的な回答にはなっていないだろう。「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長・藤岡信勝氏が議員から聞いた話として「文科省側は、自由社は一線を越えた」とその議員に話していたという。

 自由社の教科書は、共産主義の悪を記述し、ウイグル、チベット問題も書いたが、これが官僚と検定審議会の学者たちに気に入らず、検定不合格になったというのである。これが本当ならば、とんでもない話である。親中を通り越して、媚中の空気が、政官界、学界にも蔓延していると言えよう。自虐史観と媚中――これを取り払うことが、政治や歴史教育の正常化に繋がるであろう。
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「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長・藤岡信勝氏
(参考引用文献一覧)
・『高校日本史B』(山川出版社、2014)』(2019・7・6)
・「新しい歴史教科書をつくる会教科書 検定で不合格に」『NHK NEWS WEB』 (2020・2・26)
・「つくる会の教科書不合格 中学歴史、検定非公開破る」『日本経済新聞』(2020・2・21)
・「特集 教科書検定を斬る」『正論』(2020・4月号、産経新聞社)
・藤岡信勝「つくる会教科書不合格を決めた文科官僚の不正」『月刊Hanada』(2020・4月号、飛鳥新社)
・藤岡信勝「文科省ダブスタ検定疑惑」『夕刊フジ』(2021・1・18、⑲) 
・新しい歴史教科書をつくる会「文科省教科書検定の不正行為を糾弾し不合格処分の撤回を求める声明」(2020・2・21)
・『史』(2020・3月号、新しい歴史教科書をつくる会)
・自由社版「新しい歴史教科書」執筆者グループ「これが文科省のトンデモ検定だ」
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

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