橋本琴絵:日本人へのヘイトを止める術はないのか

橋本琴絵:日本人へのヘイトを止める術はないのか

百科事典に虚偽の「慰安婦」解説

 ポプラ社が児童向け百科事典として新たに発売した『ポプラディア』において、次のような記述がされていることが明らかになった。

 慰安婦:「朝鮮や中国、東南アジア各地に占領された地域の女性たちが強制連行で慰安婦にされること」

 これに対して、自民党の山田宏参議院議員は自身のツイッターで「早速確認しました。酷い「百科事典」ですね。対応策を検討します。」と述べた。しかし、ポプラ社はこの記述について「記述の主旨を訂正する必要がないと判断しております」と公表した。

 慰安婦問題については多くの研究者がその仔細を論じているため、本稿では結論のみ記す。

 米クリントン政権時代に成立した「1998年ナチス戦争犯罪開示法」と「2000年日本帝国政府開示法」という法律がある。この法律は、第2次世界大戦中に日独の戦争犯罪情報の開示を徹底させるため、米政府に調査を義務付けたものだ。国防総省、国務省、中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)が総力を挙げて、未公開資料の調査を含む「戦争犯罪の捜査」を行ったものである。

 クリントン政権とブッシュ政権にまたがり、約8年の歳月を費やして「日本の戦争犯罪」を調査し続けた結果、日本軍が女性を組織的に性奴隷にした「戦争犯罪」の証拠は一切存在しないことが確認され、「ナチス戦争犯罪と日本帝国政府の記録の各省庁作業班(IWG)米国議会あて最終報告」と題され、2007年4月に議会報告された。
wikipedia (11091)

米国調査でも、日本軍が女性を組織的に性奴隷にした「戦争犯罪」の証拠は一切存在しないことが確認された(写真は海岸で遊んでいるとみられる慰安婦)
via wikipedia
 これを受けて、慰安婦問題を公娼制度の延長、すなわち任意の職業売春婦の集まりであった事実を分析した米ハーバード大のマーク・ラムザイヤー教授の論文が公表された。

 また、日本政府も次のように「慰安婦」について閣議決定している。

政府としては、慰安婦が御指摘の「軍より「強制連行」された」という見方が広く流布された原因は、吉田清治氏(故人)が、昭和58年に「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」旨の虚偽の事実を発表し、当該虚偽の事実が、大手新聞社により、事実であるかのように大きく報道されたことにあると考えているところ、その後、当該新聞社は、平成26年に「「従軍慰安婦」用語メモを訂正」し、「『主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した』という表現は誤り」であって、「吉田清治氏の証言は虚偽だと判断した」こと等を発表し、当該報道に係る事実関係の誤りを認めたものと承知している。》(内閣衆質204第97号令和3年4月27日)

 つまり、ポルノ小説が執筆され、それを朝日新聞が事実であるかのように報道したが、ついに虚偽であることを認めている。

 以上の経緯を鑑みれば、ポプラ社が米国政府機関以上の調査能力を有して「慰安婦は強制連行であった」という新証拠を発見した事実があるとは到底思えない。
 そうなると、虚偽の流布によって人種差別の煽動を目的に出版物を刊行した事実が浮き上がる。端的に言えば、ポプラ社の日本人に対する「ヘイト」であろう。

日本人へのヘイトを誘発

 実は、こうした問題はこの百科事典だけではなく、あらゆる出版物で起きている。
 その原因は、日本では「ヘイトスピーチ」を規制する法令が未整備のままであり、それどころか「日本人へのへイトスピーチは認める」という効果を持つ法令を施行していることが考えられる。

 というのも、国連や欧州などのヘイトスピーチの定義と、日本のヘイトスピーチの定義は全く異なるのだ。

 国連は「アイデンティティの要素に基づいて攻撃したり蔑視(べっし)や差別の言葉を使うこと」であり、欧州議会は「憎悪を広め、煽動し、促進し、正当化するあらゆる表現形式」であり、アメリカ合衆国は「あるグループまたはあるクラスの人々を誹謗、中傷、または憎悪を引き起こすような表現」がヘイトスピーチの定義である。
 しかし、日本は「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」であるとして、日本人への憎悪表現や人種差別の煽動を法律が認めている。

 これは非常に恐ろしいことである。そして、その弊害はすでに起きている。
gettyimages (11092)

日本でのヘイトスピーチの定義は「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」。日本人は保護対象ではない。
 今年1月22日、金杉憲治駐インドネシア大使が自身のインスタグラムに地元の学生らとの昼食画像を投稿すると、外国人とみられるアカウントから日本政府の「コロナ対策による入国制限」について、苛烈な人種差別表現が無数寄せられた。

 同様の現象は岸田文雄総理のツイッターアカウントのリプライ欄も同様であり、「日本人は人間ではなく、広島長崎の原爆で焼いたのは実に良いことであった。3発目は是非東京に」であるとか「日本人は猿であり人間ではない」というものであった。

 これらの人種差別投稿に併せて記述されていたのが「従軍慰安婦を強制連行した性犯罪者民族である」というコメントで、つまり、日本人へのヘイト動機の形成に「慰安婦」が大きく寄与しているということである。

 慰安婦捏造報道から約40年の歳月をかけて、憎悪は大きく成長した。次は、実際に海外の日本人が被害を受ける段階にあっても不思議ではないだろう。実体験として、私はイギリス留学中に「慰安婦を強制連行したのだから、日本人のお前を俺が強姦しても文句はないよな」といった脅迫を何度も外国人から受けている。

提言!日本人ヘイトを止める方法

 いままでは、「慰安婦は強制ではなく職業売春婦であった」という事実の立証が重要であったが、これからは、慰安婦が強制されていたという類の人種差別の煽動をどのように処罰していくかの議論が重要である。

「日本国憲法第21条第1項は表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものである」(最高裁判所第二小法廷・平成20年4月11日判決)という判例が示すように、どのような表現行為でも常に許されるという理由はない。
 虚偽の流布や人種差別の煽動が、これにあたることは言うまでもない。

 今後は、「強制連行」という虚偽の流布と「慰安婦」が世界各国にいた存在という視点を欠き、まるで日本特有のものであるかのような記述は、悪質な人種差別煽動として、厳しく刑事的に処罰、または行政的に制限していかなければ、日本人の基本的人権を守ることはできない。

 具体的には、現行ポルノ雑誌が18歳未満購入閲覧禁止となっている措置を「慰安婦強制連行」の記述をする図書に適用する方向性や、タバコの箱の3分の2以上の面積で「健康を害する恐れがあります」という表示がされていることと同じように、「虚偽の記述がある図書です」と表紙3分の2以上で表示することを義務付けるなどの対応策も検討すべきである。

 実際に、女性が海外に在留しなければわからない経験だと思うが、「慰安婦強制連行説の流布」はダイレクトに「日本人女性への性犯罪の正当化」につながっており、事態は極めて深刻であることを改めて強調したい。

 付言すると、もし教科書に「慰安婦」について記載するのなら、それは本当に「強制連行」されていた慰安婦についてであるべきだ。終戦後、アメリカ軍への人身御供にされた日本人女性約5万5千人の存在「特殊慰安婦」(特殊慰安施設協会〈Recreation and Amusement Association〉)である。
 表向きは「任意で募集した」こととされているが、そのような根拠は一切なく、主権喪失下の状況で警察も捜査権がなかったため、「事務員募集」などと欺き、銃口を突き付けられて慰安婦にされたことを証言する声はけっして少なくない。

 敗戦直後、アメリカ軍による集団強姦が連日起きており、日本の警察は捜査はできないが必死に事件を記録していた。女子高に乱入して生徒を集団強姦してトラックで連れ去った例、病院に乱入して看護婦らをトラックで連れ去った例、女子小学生や女子幼稚園児らの肛門と膣をナイフで切り裂いて「強姦できるサイズ」に加工した例など、残虐な性犯罪の記録は今も残っている。

 このような状況下で、特殊慰安婦に「強制連行」(主権がないので任意契約であることを証明する権限を持つ司法機関が存在しない)された日本人女性たちが米兵の相手をしていたものの、女性を面白半分銃殺して遊ぶなどの事例も記録されている。「主権が存在しない」とは、このようなものであると後世の日本人に語り継ぐべき史実である。

「慰安婦問題」の放置は、将来にわたって深刻な問題を残し、それを増強させる。政府は、悪質な人種差別の煽動を放置することなく、対処していくべきだ。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。

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