2021年5月24日、東京と大阪に設置された大規模接種センターで新型コロナワクチン接種が開始した。接種前には、東京・大手町の大規模接種センターで200人のエキストラを使った予行演習が行われた。

 自衛隊は、約25万人が所属する政府最大の組織である。医師免許を持つ医官と看護師免許を持つ看護官、それぞれ1000人ずつ所属しているのだが、それが自衛隊がワクチン接種を行う理由だ。

 2020年、ダイヤモンド・プリンセス号では乗客のクラスターが発生したが、同船にも自衛隊員が乗り込み、目覚ましい活躍をされた。乗り込んだ自衛隊員から1人の感染者も出さなかった事は、自衛隊の感染症対策の質の高さがうかがえる。その事も、菅義偉首相が自衛隊にワクチン接種を命じた大きな理由であろう。

 大規模接種センターで予約も含めた会場の運営まで行う事は、自衛隊にとって大きな負担だったかもしれないが、民間業者を活用して、予約システムを構築し乗り切り、接種スタートまで漕ぎ着ける。
濱田浩一郎:

濱田浩一郎:

大手町・合同庁舎前の大規模接種会場
via twitter

スムーズな手順とスピード感のある仕事ぶり

 私は、2021年8月7日土曜日、東京大手町の大規模接種会場で新型コロナウイルスワクチンを接種することになった。自衛隊が構築したワクチン接種システムを間近で観察する機会に恵まれたのだ。

 先ず、大手町にある自衛隊東京大規模接種センターに向かう直通バスに乗車させて頂く。東京駅丸の内南口側にあるバス停から出発した。バスは皇居周辺を通り、会場へ。出発から12分で大規模接種センターに到着。

 会場入口には、熱中症対策のミストクーラーが設けられていた。消毒、体温チェックをし、受付書類を提示してから建物の中に入る。人と人との距離は適切にとられ、密になることはなかった。
 ある部屋に入ると、椅子が並べられおり、その椅子には黄色緑青ピンクの札が付けられていた。私は黄色の椅子に座るよう指示される。ここは、人と人との距離は1メートルくらいだったので、少し近いかと思ったが、向かい合わせではなかったし、換気音もし、何よりすぐに別部屋に誘導されたので問題ないように感じた。

 別の部屋に行く途中、年配の自衛官と思われる女性がユニークな声音で次のように我々に対して話かける。「さぁ、これから大変ですよ。立ったと思ったら座ったり。座ったと思ったら立ったり。何度も繰り返します。大変、大変」と。

 この声音を聞いて、緊張がほぐれた人も多いのではないか。今回のワクチン接種で一番インパクトがある場面だった。
濱田浩一郎:

濱田浩一郎:

綿密な打ち合わせがスムーズな作業を実現する
via twitter
 エレベーターに乗った際には「壁に向かい乗ってください」のアナウンスがあった。これも感染症対策であり、密室で人と人とが向き合う事を避けるためだ。ある部屋に入ったところでは、看護師さんから「これまでワクチン接種をして気分が悪くなった事はありませんか」「今日の体調はどうですか」との質問を受けた。この問いかけは、その後、医師からもあった。

 そしていよいよワクチン接種の時を迎える。いざ注射針が右腕に入っていくと意外に痛かった。痛いといった顔をしたのであろう、終わってから医療従事者の方に「痛かったでしょう。ごめんなさいね」と言われた。

 予約が終わると、ショック症状が起きないかを見るため部屋で待機する。私の場合は15分間だった。ワクチン接種はまさにあっという間であった。白昼、夢を見ているかのようだった。感染症対策も万全で、スピード感を持って任務に当られている自衛隊、医療従事者、スタッフの皆様には感謝と敬意を捧げたい。

相変わらず難癖をつける『赤旗』

 自衛隊の仕事は当然、ワクチン接種だけではない。訓練もあるし、自然災害に際しては被災地に派遣される。今はオリンピック・パラリンピックの支援もある。そうした事を考えた時、本当に頭が下がる想いだ。

 そのような中、自衛隊に難癖を付けるかのような記事が目に入った。日本共産党の日刊紙『しんぶん赤旗』(7月29日)に「自衛隊目立つ東京五輪 8500人動員 迷彩服姿で警備も」との記事が掲載されていたのだ。

 記事の中には「軍隊が本格的にオリンピックにかかわる契機は、ナチス・ドイツ下のベルリン五輪でした」との文章が見え、東京五輪とベルリンオリンピックを結び付けようとの思惑が透けているのだが、それは牽強付会というものだろう。

 五輪開催国の軍隊が警備や運営支援に参加するのは当然であるからだ。『赤旗』は、「自衛隊は、100条を打ち出の小づちにしてオリンピック等で国際的認知を得て、米軍等との一体化を進め、憲法の制約を超えようとしています」と記事を結んでいる(ちなみに、100条とは自衛隊法100条3項「運動競技会に対する協力」のことである)。

 同紙は「100条はもともと、雑則として土木工事の受託を定めただけのものでした。しかし現在に至るまで15の項が新設され、オリンピック、国連平和維持活動(PKO)、米軍等への物品・役務の提供などが加わりました」とも書いているが、結びの言葉はその事を言っているのであろう。
濱田浩一郎:

濱田浩一郎:

東京五輪に反対していた人たちと根っこは同じか??
 防衛省は7月30日、陸上自衛隊の「第1空挺団」が在日米軍とともに米領グアムのアンダーセン空軍基地でパラシュートの降下訓練を実施したことを発表したが、その事も赤旗記者を刺激したのかもしれない。

 しかし、国防を担う自衛隊が同盟国と訓練を行うことは当然の事である。訓練を行った事を称賛こそすれ、非難するのはおかしいだろう。訓練しなければ、いざ有事の時に適切に動く事はできないだろう。共産党は自衛隊が米軍とともに「侵略戦争」を行う事ばかり、想像しているのだろうか。

 中国の脅威が増し、台湾有事がいつあるか知れないなか、米軍と協力し、訓練しておく事は極めて大切だ。

 また、自衛隊を徒らに「危険視」する事は、日々、懸命に訓練や災害支援に励む自衛官に失礼であろう。それよりも、自衛隊の最高指揮官というべき、総理大臣の識見や手腕こそ問われるべきである。無能な総理が居座った場合、最悪の場合、自衛官が行かなくて良い死地に赴く事になるからだ。近いうちに自民党総裁選が行われるが、誰がなるにしても、自衛隊の最高指揮官に相応しい見識の人に就任してもらいたい。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く