森田 洋介:医師がひも解く~コロナ・今後の"波”の行方...

森田 洋介:医師がひも解く~コロナ・今後の"波”の行方と"ワクチン接種"の判断

ワクチンの接種はスピードアップしているが、接種自体に反対の人もー

マスコミは"減少傾向"は伝えない

 オリンピック、緊急事態宣言、ワクチン接種…複雑な要素が絡み合い、コロナ禍の社会は何が〝正解〟なのかわかりません。今回はさまざまなデータと医師の視点から、〝正解〟に近づいてみたいと思います。

〝第4波〟では東京や大阪など、局地的に新規感染者数が増加しましたが、日本全体で見れば、新規感染者数は5月12日から減少傾向にあります。新規感染者数と比例して重症者数や死亡者数も減り続け、実効再生産数(「一人の感染者が、平均して何人に感染させるか」を表す指標)は0.77まで下がっている(いずれも執筆時、6月10日の数値)。5月中旬から、〝第4波〟は明らかに収束に向かっていたのです。
 この傾向は東京都や大阪府も変わらないので、緊急事態宣言の6月20日までの延長決定には、オリンピックの直前まで延長しておこう、という政治的な思惑が透けて見えました。

 感染症の流行曲線は、〝波〟を繰り返します。この〝波〟は、しばらく上昇を続け、次第に下降していく。これまでの日本の〝波〟を見れば、急激な乱高下は起こりにくいことがわかります。〝波〟は上昇中なのか、下降中なのか──感染症では〝波〟の傾向が何よりも重要です。
 しかし、マスコミは東京都の新規感染者数は速報で取り上げるのに、日本全体のそれが減少傾向にあることはまったく報じない。コロナ禍がはじまってから、悲観的なデータばかりを強調するマスコミの姿勢には違和感を覚えます。

 マスコミは「変異株」の脅威も盛んに取り上げました。そもそもウイルスは、生き残りをかけて変異し続けるものです。とはいえ、変異株といえど「新型コロナウイルス」には変わりがない。それほど神経質になる必要はありません。日本は何度 〝波〟やって来て変異株が流行しても、欧米のような感染爆発は起きていないのですから。
 マスコミからは「若者でも重症化する変異ウイルス」というフレーズがよく聞かれました。しかし、あらゆるデータを渉猟している私は、それを示すデータを見たことがありません。ちなみに6月2日時点では、日本で新型コロナによる未成年の死者数は0人、20代は7人です。

ワクチンの効果にも地域差が?

 次に、ワクチンについて──。

 英国や米国、イスラエルは、ワクチン接種が開始された時期とほぼ同時に、新規感染者数が減少に転じました。これはワクチンの効果である可能性が高いでしょう。ワクチン接種率と新規感染者数が反比例する──ワクチン接種後の理想のかたちです。

 一方、アジア各国はどうか。アジアは欧米やイスラエルほどワクチン接種が進んでいません。それでも6月上旬現在、国民のワクチン接種率が50%を超えている国が3つあります。ブータン、モルディブ、モンゴルです(※)。

 ブータンは接種率が60%を超えてもなお、新規感染者数が上昇し続けています。英国や米国、イスラエルと異なり、ワクチン接種率と新規感染者数が比例しているのです。
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ワクチン接種の効果にも地域差が?(写真はインドネシアの接種会場の模様)
 モルディブの場合、ワクチン接種率が50%を超えた4月中旬以降、新規感染者が急激に増加しました。

 モンゴルにいたっては、ワクチン接種がはじまった途端に新規感染者数がこれまでの100倍近くにまで激増しています。

 このデータから、何がいえるのか。

 私はさまざまなデータや論文を確認し、ワクチンの効果はあると考えています。ただ欧米とアジアの感染者数や死者数が大きく異なったように、ワクチンの効果も地域によって大きな差があるのかもしれない、といえるでしょう。

 データが揃い切っていないなか、日本人の多くは、ワクチン接種率とともに感染者数が減った国だけに注目しています。政府も、国民も、みんなにワクチンが打ち終われば安心だと考えている。

 しかし、ブータンやモルディブ、モンゴルのデータを見ればわかるとおり、英国や米国、イスラエルのような成功例が日本にも当てはまると妄信することはできません。
 ※ブータンとモルディブのワクチンは、アストラゼネカ コビシールド(インド)製。モンゴルのワクチンは、アストラゼネカ コビシールド(インド)製、中国医薬集団(シノファーム)ほか

長期的な副反応は〝わからない〟

 次に副反応について──。

 ワクチンの副反応には、「短期的」な副反応と、「長期的」な副反応があります。

 短期的な副反応については、データが揃ってきました。高齢者はピンピンしている人が多いですが、若者を中心に、ほかのワクチンと比べて、腕が腫れたり、高熱を出す人が多いようです。

 ただアナフィラキシーショックのような重篤な副反応はそれほど多くないことから、短期的な副反応はあまり心配する必要はないでしょう。

 深く考える必要があるのは、長期的な副反応です。当たり前ですが、ワクチン接種がはじまってから時間が経っていないので、長期的にどのような副反応が出るのかはわかりません。
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医学も全知全能ではない―
 たしかなことは、医学は全知全能でないということです。いまだに〝わからないことだらけ〟で、現在の医学では考えられない理由で重篤な副反応が出る可能性もゼロではない。

 たとえば、1950年代後半から睡眠薬などで処方されていたサリドマイドという薬は、服用していた女性から奇形児が生まれやすいという副反応がありました。日本では発売から4年後の1962年、販売停止となった。しかし驚くべきことに、奇形児が生まれやすいメカニズムが解明されたのは、2010年になってからのことでした。

 また1994年以前に製造されたフィブリノゲンという血液製剤を投与された方は、肝ガンのリスクを高めるC型肝炎に感染している可能性がきわめて高いことがわかっています。ところが、当時の医学では〝C型肝炎ウイルス〟という存在自体が明らかになっていなかったのです。
 医学の世界では、このような〝昨日の正解が今日の禁忌〟という、どんでん返しが、しばしば発生してきました。

 もちろん、数ある薬のなかで薬害を起こすものはごくわずかです。医学界では新型コロナのワクチンについて、体内に入るとすぐに消滅すること、また細胞の核の中には入らないことから、長期的に重篤な副反応が出ることは考えにくいといわれています。

 その一方で、新型コロナのワクチンはメッセンジャーRNAワクチン、DNAワクチン、ウイルスベクターワクチンなど、まったく新しい手法でつくられていることから、とくに妊娠・出産の可能性がある世代の場合、次世代への影響がまったくないとは断言できないのです。

若者は接種すべきか

 ワクチンを接種するかどうかは、〝メリット〟と〝リスク〟を比較衡量する必要があります。

 ワクチン接種には、新型コロナに感染しない、もしくは感染しても軽症ですむというメリットと、副反応というリスクがある。

 新型コロナは年代別に見ると、若者よりも高齢者が重症化・死亡する確率のほうが圧倒的に高い。高齢者は若者に比べて、余生が長くありません。よって、副反応というリスクよりも、感染しない・重症化を防ぐというメリットのほうが大きいといえるでしょう。

 しかし若い人は、重症化して死亡する確率がとても低い。若者のワクチン接種のメリットとリスクを天秤にかけると、やはり若者の未来をギャンブルにさらしてしまうリスクのほうを重く見たほうが無難なのではないでしょうか。
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ワクチン接種の判断はメリット・デメリットを比較衡量すべき
 メディアはワクチンのメリットばかり語るなら、「そもそも若者は、新型コロナで死亡する可能性がほとんどない」ということも伝えなければなりません。

 また人口比で見れば、日本の感染者数や死者数は欧米の数十分~百分の一です。日本の新型コロナが〝ライオン〟なら、欧米のそれは〝ゴジラ〟級。連日、一千人単位で死者が出る状態を改善する必要がありました。

 だからこそ、副反応のリスクがあっても幅広い世代にワクチンを接種する〝賭け〟に出ることは理解できます。しかし、日本はもともと新型コロナの被害が小さいので、〝賭け〟に出るだけのメリットが見えにくいのです。
 6月中旬から、64歳以下のワクチン大規模接種の受付がはじまりました。今後は若年層へのワクチン接種も話題に上がるでしょう。また医学生や看護学生のなかには、ワクチン接種を求める〝同調圧力〟で苦しんでいる人が多くいます。

「高齢者に感染させないために接種を」という主張も理解できますが、それは高齢者の利益であって若者の利益ではありません。同調圧力をかける人々も、将来に発生する可能性があるリスクの責任は取ることはできない。

 若者のワクチン接種については、各々が熟考し、誰もその答えを否定すべきではありません。

自殺者増はいいのか

 5月中旬から、台湾で新規感染者数が激増しました。これは〝ゼロコロナ〟政策の反動といえます。ウイルスを完全に封じ込めることは、限りなく不可能に近い。少なくとも、数年間は鎖国状態を維持しなければならず、出口が見えません。

 ワクチンによるゼロコロナを期待したい気持ちもわかりますが、前述のとおり、少なくとも現在のアジアでは〝高接種率=感染抑制〟とはいえない状況です。日本でも一部野党がゼロコロナを掲げていますが、得策ではありません。

 むしろ日本の場合、常に各都道府県に感染が〝薄く〟拡がっていたので、台湾のような爆発的な感染者増は想定しにくいでしょう。

 そんななか、日本の昨年の死亡者数は前年より約9000人減りました。このことからも、日本における新型コロナが死亡統計に影響をおよぼすほど危険なものではないことがわかります。
医師がひも解く~コロナ・今後の"波”の行方と"ワクチン...

医師がひも解く~コロナ・今後の"波”の行方と"ワクチン接種"の判断

経済活動の停滞が及ぼす影響にも言及せよ―
 そうでありながら、コロナ対策によって経済は疲弊し、昨年の年間自殺者数は11年ぶりに増加しました。東京都の今年4月の自殺者数に注目すると、前年比で6割も増えてしまっている。

 これらの数字を見ると、日本の新型コロナの対応は〝オーバーリアクション〟だったといわざるを得ません。マスコミがあおり、世論が形成され、政治もそれに合わせざるを得なかったという側面もある。

 一方で、ワクチン接種が進んだとはいえ、日本より新規感染者数がケタ違いに多い英国や米国は、マスクを外してスポーツ観戦などを行っている。

 コロナ対策の〝正解〟を決めつけることなく、海外の状況や数字を分析して柔軟に対策を変えていくことが、コロナ禍を終わらせるカギでしょう。

 ただ最近、このように主張する私にも、地上波のテレビから声がかかるようになりました。一年前に比べれば、日本人も広い視野を持てるようになったとホッとしています。
森田 洋之(もりた ひろゆき)
1971年、神奈川県生まれ。南日本ヘルスリサーチラボ代表。一橋大学経済学部卒業後に、宮崎医科大学医学部に入学し医師となる。宮崎県内で研修を修了し、2009年より財政破綻した北海道夕張市立診療所に勤務。現在は鹿児島県で「ひらやまのクリニック」を開業、研究・執筆・講演活動にも積極的に取り組んでいる。専門は在宅医療・地域医療・医療政策など。『日本の医療の不都合な真実』(幻冬舎新書)など著書多数。

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