有事は目前
有事は目前に迫っている──。
北朝鮮による度重なるミサイル発射、中国による台湾周辺での軍事演習、加えてウクライナ戦争。これらを通じて最も重要なことは、わが国自身が、ウクライナのように「自分の国は自分で守る」ことができるのかどうか。その点が問われていると考えるべきでしょう。
わが国は戦後、77年間、戦争を経験することなく、平和憲法のもと、わが国が戦場となることを想定することもなく、平和な世界だけを思い描いてきましたが、現実に有事は差し迫っており、日本は翻弄(ほんろう)され続けています。まさにロシアにクリミア半島を簡単に併合された2014年当時のウクライナと同じ状況のようです。
しかし、わが国の防衛は、自衛隊のみが対応するものであるような錯覚を与えてはいないでしょうか。国家防衛の意思決定は国民の賛同を得たものでなければなりませんし、防衛出動の決定は、国民の代表である国会で決議されることになっており、戦場での戦闘行為以外にも全ての国家としての機能が国家防衛に直結してくることを忘れてはなりません。国家としての世界的世論の形成から、戦争行為の継続のためのいわゆる銃後の守りは国家総動員となるでしょう。ここに、さまざまな問題をはらんでいます。
陸上自衛隊の現在の編成では8~24時間、同一人物が任務の遂行を担当することになっています。戦闘が長引き、24時間昼夜を分かたず戦うとなれば、現在の人員では対処できません。24時間機能するためには3~4交替が必要です。
米国はこのような場合、有事編成をします。そして有事体制にするために動員をかけ、予備役兵が現役兵として編成されます。そうすると3交替制も可能です。
日本の場合、予備自衛官は5万人弱です。現役の陸上自衛官は15万人。つまり平時を想定した小規模な対処兵力です。3交替制となれば、単純に考えると45万人必要です。予備自衛官で足りなければ、自衛官の緊急募集をしなければなりません。
しかも自衛隊が動員できる人的戦力は、平時の基盤的防衛力に基づいています。有事の場合に必要となる部隊編成と、それに必要な人数は確保されていません。1個連隊が戦っただけで、多くの負傷者が出るので、その穴埋めが必要です。さらに兵站(へいたん)部分を担う人たちを予備自衛官で充当することになるでしょう。戦闘損耗(そんもう)した人たちに代わる戦力をどうやって補っていくのか、そのことも考えなければなりません。
一案として元自衛隊員の活用が考えられます。陸上自衛隊の予備自衛官は5万人弱、陸上自衛官の退官者は約20万人以上と想定されます。彼らを全員予備自衛官として平時から登録制にし、緊急時、優先的に召集するのはどうでしょうか。確かに人的兵力を平時から確保するのは予算の面でも厳しい。
しかし、有事の際に所要兵力を満たす計画を平時から準備することが必要です。日本にはこれだけの予備役があり、有事には兵力を拡充できることを示すことが抑止力につながるからです。
北朝鮮による度重なるミサイル発射、中国による台湾周辺での軍事演習、加えてウクライナ戦争。これらを通じて最も重要なことは、わが国自身が、ウクライナのように「自分の国は自分で守る」ことができるのかどうか。その点が問われていると考えるべきでしょう。
わが国は戦後、77年間、戦争を経験することなく、平和憲法のもと、わが国が戦場となることを想定することもなく、平和な世界だけを思い描いてきましたが、現実に有事は差し迫っており、日本は翻弄(ほんろう)され続けています。まさにロシアにクリミア半島を簡単に併合された2014年当時のウクライナと同じ状況のようです。
しかし、わが国の防衛は、自衛隊のみが対応するものであるような錯覚を与えてはいないでしょうか。国家防衛の意思決定は国民の賛同を得たものでなければなりませんし、防衛出動の決定は、国民の代表である国会で決議されることになっており、戦場での戦闘行為以外にも全ての国家としての機能が国家防衛に直結してくることを忘れてはなりません。国家としての世界的世論の形成から、戦争行為の継続のためのいわゆる銃後の守りは国家総動員となるでしょう。ここに、さまざまな問題をはらんでいます。
陸上自衛隊の現在の編成では8~24時間、同一人物が任務の遂行を担当することになっています。戦闘が長引き、24時間昼夜を分かたず戦うとなれば、現在の人員では対処できません。24時間機能するためには3~4交替が必要です。
米国はこのような場合、有事編成をします。そして有事体制にするために動員をかけ、予備役兵が現役兵として編成されます。そうすると3交替制も可能です。
日本の場合、予備自衛官は5万人弱です。現役の陸上自衛官は15万人。つまり平時を想定した小規模な対処兵力です。3交替制となれば、単純に考えると45万人必要です。予備自衛官で足りなければ、自衛官の緊急募集をしなければなりません。
しかも自衛隊が動員できる人的戦力は、平時の基盤的防衛力に基づいています。有事の場合に必要となる部隊編成と、それに必要な人数は確保されていません。1個連隊が戦っただけで、多くの負傷者が出るので、その穴埋めが必要です。さらに兵站(へいたん)部分を担う人たちを予備自衛官で充当することになるでしょう。戦闘損耗(そんもう)した人たちに代わる戦力をどうやって補っていくのか、そのことも考えなければなりません。
一案として元自衛隊員の活用が考えられます。陸上自衛隊の予備自衛官は5万人弱、陸上自衛官の退官者は約20万人以上と想定されます。彼らを全員予備自衛官として平時から登録制にし、緊急時、優先的に召集するのはどうでしょうか。確かに人的兵力を平時から確保するのは予算の面でも厳しい。
しかし、有事の際に所要兵力を満たす計画を平時から準備することが必要です。日本にはこれだけの予備役があり、有事には兵力を拡充できることを示すことが抑止力につながるからです。
煙突の煙のよう
「日本の兵役制度は煙突の煙のようだ」と評されることがあります。パッと出て、パッと終わる。一度、退官をしたら、自衛隊との縁が完全に切れてしまう。そういう制度になっています。このような状況を変えるためにも、予備役制度のさらなる拡充が求められます。
米国をはじめ、他国では退役軍人には軍人恩給制度や退役軍人特権が与えられ、国家有事の場合には武器をもって招集に応じることを義務付けています。恩給の額は階級によって違いますが、軍人恩給は、米国軍人には20年以上勤務したものに支払われ、退職時の直近俸給に基づき、最高75%ももらえる制度となっています。再就職を考えなくて済むので、多くの退役軍人はボランティア活動に勤しんでいます。
たとえば学校の教師などで軍事に関わる教育を担当します。あるいは専門分野によっては民間企業と軍隊のあり方などを教えたりします。ほかには、民間企業の顧問やロビイストになったりしています。
ところが、日本の場合、予備役を拘束できる法律がなく、終身自衛官という意識が植え付けられていません。特段の補償もない。そのため多くの自衛官は退官年齢の54歳に達したら、第2の就職先を探す必要があります。かつての帝国陸・海軍のように、予備役に編入されても、事態が起これば現役に戻し、軍役に就くことができるようにすることが肝要です。
ただし、退職自衛官を全員集めても、所要の戦力を埋められないかもしれません。これまでは、毎年、自衛官を退職する人数は陸上自衛隊で1万人以上でしたが、さらに募集環境が改善され、制度の整備など自助努力もあり、現在の退職者数は8000人前後に落ち着いています。ここ10年で退職した人たちの人数を合わせると陸上自衛隊で8万人程度。しかも、全員が現役と同等の体力と精神力があるかどうかは別問題です。人数としては少ないと言わざるを得ません。
編成上、組み込まれている隊員が病気や負傷、戦死した場合も考えなければならない。そうなると、予備役を10万人規模以上集めなければ、余裕のある対応はできないでしょう。
今の戦力は平時戦力を想定して設計されています。それぞれの事象に応じ、必要な戦力を算定していますが、北海道や北朝鮮で有事が発生したら、対空ミサイル対処や難民対処も考えなければならない。台湾有事の場合、南西諸島での戦闘も想定されます。戦力推進の作戦が島嶼(とうしょ)作戦ですから、陸続きの道路が網の目のように使用できる環境とは異なります。離島の連続で、輸送手段が陸路のみならず海路や空路と連接しなければなりません。困難な戦力推進の状況が予想されます。
さらに航空・海上については空港と港湾を抑えることもポイントになります。空中接触戦闘の交戦維持となると、基地から発着するための距離が短いほうが在空滞在時間が多くなり有利です。なおかつ、空中給油をするにしても、それを可能にする地域が限定されている場合もあります。それらを考えると、航空基地は固定化せず、予備的に利用可能な場所に多くあったほうが被害を局限できていいでしょう。そのような飛行場を自衛隊、そして米軍が常時使用できる環境になるよう整備する必要があります。
米国をはじめ、他国では退役軍人には軍人恩給制度や退役軍人特権が与えられ、国家有事の場合には武器をもって招集に応じることを義務付けています。恩給の額は階級によって違いますが、軍人恩給は、米国軍人には20年以上勤務したものに支払われ、退職時の直近俸給に基づき、最高75%ももらえる制度となっています。再就職を考えなくて済むので、多くの退役軍人はボランティア活動に勤しんでいます。
たとえば学校の教師などで軍事に関わる教育を担当します。あるいは専門分野によっては民間企業と軍隊のあり方などを教えたりします。ほかには、民間企業の顧問やロビイストになったりしています。
ところが、日本の場合、予備役を拘束できる法律がなく、終身自衛官という意識が植え付けられていません。特段の補償もない。そのため多くの自衛官は退官年齢の54歳に達したら、第2の就職先を探す必要があります。かつての帝国陸・海軍のように、予備役に編入されても、事態が起これば現役に戻し、軍役に就くことができるようにすることが肝要です。
ただし、退職自衛官を全員集めても、所要の戦力を埋められないかもしれません。これまでは、毎年、自衛官を退職する人数は陸上自衛隊で1万人以上でしたが、さらに募集環境が改善され、制度の整備など自助努力もあり、現在の退職者数は8000人前後に落ち着いています。ここ10年で退職した人たちの人数を合わせると陸上自衛隊で8万人程度。しかも、全員が現役と同等の体力と精神力があるかどうかは別問題です。人数としては少ないと言わざるを得ません。
編成上、組み込まれている隊員が病気や負傷、戦死した場合も考えなければならない。そうなると、予備役を10万人規模以上集めなければ、余裕のある対応はできないでしょう。
今の戦力は平時戦力を想定して設計されています。それぞれの事象に応じ、必要な戦力を算定していますが、北海道や北朝鮮で有事が発生したら、対空ミサイル対処や難民対処も考えなければならない。台湾有事の場合、南西諸島での戦闘も想定されます。戦力推進の作戦が島嶼(とうしょ)作戦ですから、陸続きの道路が網の目のように使用できる環境とは異なります。離島の連続で、輸送手段が陸路のみならず海路や空路と連接しなければなりません。困難な戦力推進の状況が予想されます。
さらに航空・海上については空港と港湾を抑えることもポイントになります。空中接触戦闘の交戦維持となると、基地から発着するための距離が短いほうが在空滞在時間が多くなり有利です。なおかつ、空中給油をするにしても、それを可能にする地域が限定されている場合もあります。それらを考えると、航空基地は固定化せず、予備的に利用可能な場所に多くあったほうが被害を局限できていいでしょう。そのような飛行場を自衛隊、そして米軍が常時使用できる環境になるよう整備する必要があります。
ロシアの混乱
ロシアでは予備役の召集を受け、大きな反発が巻き起こっています。その状況を見て、果たして日本は大丈夫なのかと思った方もいるでしょう。しかし、ロシアはかなり特殊な状況とみるべきです。
それまでロシア国民は現戦力で十分戦えると思っていた。ところが、ロシア国内には約200万人の予備役兵がいると言われていますが、その全員を召集するとなれば、ロシアと日本の人口はほとんど同じなので混乱を来(きた)すのは当然です。プーチン大統領の強引なやり方に、ロシア国内で反発、拒否反応が沸騰し、国外退去する予備役候補が続出したのではないかと思われます。今回のウクライナ戦争におけるロシア兵の練度の低さや経験値の足りなさを見ると、予備役もそこまで期待はできません。
冷戦が終わり、ロシアも軍部を縮小しています。軍隊の兵役義務期間も1年と短くなっているようです。
防衛予算にしても日本と比べて、あまり変わらない規模のようで、システムを維持するだけでもギリギリでしょう。ロシア軍の大量のトラックがウクライナで立ち往生しましたが、一説によれば、新しいタイヤが足りず、古いタイヤのままで走り出したらすぐにパンクしたとも言われています。ミサイルやサイバーなどの分野には投資していますが、通常兵器や通常装備品への予算が充当されていないのではないでしょうか。
目に見える抑止につながる兵器は十分に維持・整備に努めていたのですが、通常兵器は手薄になっている。冷戦後の経済復興まで20年かかっており、冷戦時代のソ連のように世界第2位の軍事力を保持できるまで復活できなかったのではないか。
軍事力を支えるのは、国の経済力です。ロシアのGDPは世界11位で、韓国と同等(韓国は10位)。そのような経済力で、あれだけの兵器を維持・整備するのは、相当な負担だと思われます。通常戦力の分野は、どうしても疎(おろそ)かにならざるを得ない。その結果、苦戦を強いられています。
ロシア政府は予備役の一部の約30万人を召集するそうですが、そこまで予備役を召集するからには、今は有事なのか、政府がその認識を示しているのか。そこが問われています。
それまでロシア国民は現戦力で十分戦えると思っていた。ところが、ロシア国内には約200万人の予備役兵がいると言われていますが、その全員を召集するとなれば、ロシアと日本の人口はほとんど同じなので混乱を来(きた)すのは当然です。プーチン大統領の強引なやり方に、ロシア国内で反発、拒否反応が沸騰し、国外退去する予備役候補が続出したのではないかと思われます。今回のウクライナ戦争におけるロシア兵の練度の低さや経験値の足りなさを見ると、予備役もそこまで期待はできません。
冷戦が終わり、ロシアも軍部を縮小しています。軍隊の兵役義務期間も1年と短くなっているようです。
防衛予算にしても日本と比べて、あまり変わらない規模のようで、システムを維持するだけでもギリギリでしょう。ロシア軍の大量のトラックがウクライナで立ち往生しましたが、一説によれば、新しいタイヤが足りず、古いタイヤのままで走り出したらすぐにパンクしたとも言われています。ミサイルやサイバーなどの分野には投資していますが、通常兵器や通常装備品への予算が充当されていないのではないでしょうか。
目に見える抑止につながる兵器は十分に維持・整備に努めていたのですが、通常兵器は手薄になっている。冷戦後の経済復興まで20年かかっており、冷戦時代のソ連のように世界第2位の軍事力を保持できるまで復活できなかったのではないか。
軍事力を支えるのは、国の経済力です。ロシアのGDPは世界11位で、韓国と同等(韓国は10位)。そのような経済力で、あれだけの兵器を維持・整備するのは、相当な負担だと思われます。通常戦力の分野は、どうしても疎(おろそ)かにならざるを得ない。その結果、苦戦を強いられています。
ロシア政府は予備役の一部の約30万人を召集するそうですが、そこまで予備役を召集するからには、今は有事なのか、政府がその認識を示しているのか。そこが問われています。
中国産アプリの利用?
現代の戦争において「サイバー・電子戦」も重要な役割を果しますが、日本はこの分野でも対応が遅れています。サイバー対応能力は世界と比較して最下級といっても過言ではありません。日本ではサイバー攻撃を受けたとき、最初に対応するのが警察です。ところが、他国では軍のサイバー担当が全面に出たり、ウクライナのようにデジタル省が他の省庁をまとめ、さらに民間まで巻き込んでロシアに対抗しています。
日本においてサイバー攻撃からの対応技術が一番高いのは民間企業ですが、国家的意識が希薄で、しかも警察・防衛省・民間が縦割りで分断されています。
国家として総合的かつ強力な統制力をもって官民横断的に特定の組織に一元的に権限を付与し、かなりの強制力をもって改革しなければ現状は改善しないと思われます。
では、デジタル庁が横断的な防衛システムを構築できるのか、疑問です。河野太郎デジタル改革担当大臣が動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を広報活動に利用していますが、そもそも中国産アプリですから、中国に情報を吸い上げられるだけ。防衛も何もあったものではありません。
横断的にサイバー・電子戦に対抗するには、政府がNSC(国家安全保障会議)を中心にして戦略的なグランドデザインを描くことが必要です。
それとともに日本が立ち遅れている理由の一つに、防衛戦略があげられます。特に「専守防衛」がネックになっている。サイバー・電子戦においては、攻撃されたら反撃し返さなければ意味がありません。ところが、専守防衛の日本ではサイバー攻撃ができない法体系になっている。これではどうにもならない。
サイバー・電子攻撃を防ぐ一番の方法は何か。それはシステム内で閉鎖すること。つまり、ネット環境から孤立することです。つなぐことで、さまざまなところから敵は進入してきます。しかし、そのような閉鎖されたシステム内では、同盟国や、他のシステムから所要の情報を取得することはできず、情報戦で立ち遅れてしまう。
積極的な防衛戦略としては、検知しながら排除し、なおかつ敵に対して反撃をすることが必要と思われます。そこまでできなければ、サイバー・電子攻撃から防衛することはできません。
日本が専守防衛に縛られているため、米軍も日本と協力したくてもできない状況にあります。日米のセキュリティレベルがどこまで均等なのか、そこを把握できなければ対応できません。米国のサイバー担当者を育成する組織に、自衛隊のメンバーが参加しているとも言われていますが、日本側も実力をつけることが重要であり、自国内でそのような組織を形成することが求められます。
日本は戦後、防諜分野が否定的に扱われ、スパイのような存在はつくらないとしています。そのため、他国のスパイは日本で情報取得し放題となっている。
しかも、日本はスパイ防止法すら制定していない。米国から信用を得られず、まともな情報提供を受けられないのは当然です。
有事にどう備えるのか。予備役、サイバー・電子戦対策……検討すべき課題は多数あります。
しかし課題があるということは、改革・改善できる大きなチャンスととらえることもできるわけです。時代の変化に乗り遅れてはなりません。「自分の国は自分で守る」という気概が真の抑止力となることを信じて。
日本においてサイバー攻撃からの対応技術が一番高いのは民間企業ですが、国家的意識が希薄で、しかも警察・防衛省・民間が縦割りで分断されています。
国家として総合的かつ強力な統制力をもって官民横断的に特定の組織に一元的に権限を付与し、かなりの強制力をもって改革しなければ現状は改善しないと思われます。
では、デジタル庁が横断的な防衛システムを構築できるのか、疑問です。河野太郎デジタル改革担当大臣が動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を広報活動に利用していますが、そもそも中国産アプリですから、中国に情報を吸い上げられるだけ。防衛も何もあったものではありません。
横断的にサイバー・電子戦に対抗するには、政府がNSC(国家安全保障会議)を中心にして戦略的なグランドデザインを描くことが必要です。
それとともに日本が立ち遅れている理由の一つに、防衛戦略があげられます。特に「専守防衛」がネックになっている。サイバー・電子戦においては、攻撃されたら反撃し返さなければ意味がありません。ところが、専守防衛の日本ではサイバー攻撃ができない法体系になっている。これではどうにもならない。
サイバー・電子攻撃を防ぐ一番の方法は何か。それはシステム内で閉鎖すること。つまり、ネット環境から孤立することです。つなぐことで、さまざまなところから敵は進入してきます。しかし、そのような閉鎖されたシステム内では、同盟国や、他のシステムから所要の情報を取得することはできず、情報戦で立ち遅れてしまう。
積極的な防衛戦略としては、検知しながら排除し、なおかつ敵に対して反撃をすることが必要と思われます。そこまでできなければ、サイバー・電子攻撃から防衛することはできません。
日本が専守防衛に縛られているため、米軍も日本と協力したくてもできない状況にあります。日米のセキュリティレベルがどこまで均等なのか、そこを把握できなければ対応できません。米国のサイバー担当者を育成する組織に、自衛隊のメンバーが参加しているとも言われていますが、日本側も実力をつけることが重要であり、自国内でそのような組織を形成することが求められます。
日本は戦後、防諜分野が否定的に扱われ、スパイのような存在はつくらないとしています。そのため、他国のスパイは日本で情報取得し放題となっている。
しかも、日本はスパイ防止法すら制定していない。米国から信用を得られず、まともな情報提供を受けられないのは当然です。
有事にどう備えるのか。予備役、サイバー・電子戦対策……検討すべき課題は多数あります。
しかし課題があるということは、改革・改善できる大きなチャンスととらえることもできるわけです。時代の変化に乗り遅れてはなりません。「自分の国は自分で守る」という気概が真の抑止力となることを信じて。
はやし なおと
1948年、福岡県生まれ、71年、防衛大学(土木工学専攻)卒業、陸上自衛隊入隊。90年、米国陸軍戦略大学留学、95年、陸上幕僚監部防衛部運用課長、99年、統合幕僚会議事務局第1幕僚室長、2001年、統合幕僚会議事務局第3幕僚室長、02年、第3師団長、04年、陸上幕僚副長、05年、西部方面総監、07年に退官。日本戦略研究フォーラム理事。
1948年、福岡県生まれ、71年、防衛大学(土木工学専攻)卒業、陸上自衛隊入隊。90年、米国陸軍戦略大学留学、95年、陸上幕僚監部防衛部運用課長、99年、統合幕僚会議事務局第1幕僚室長、2001年、統合幕僚会議事務局第3幕僚室長、02年、第3師団長、04年、陸上幕僚副長、05年、西部方面総監、07年に退官。日本戦略研究フォーラム理事。