サンデーモーニング|TBSテレビ (12009)

TBSの看板報道番組『サンデーモーニング』

ご長寿番組『サンデーモーニング』で起こった異変

 日曜日の朝、TBSテレビ系列で『サンデーモーニング』という番組が放送されている。

 放送開始は1987年のこと。司会は最初から関口宏氏なので、同一司会者による報道番組では最も古い番組だという。日本を代表する長寿番組で、かつTBSを代表する看板番組ということになるだろう。

 基本的な内容は、その週に起こった時事問題や社会現象を紹介し、コメンテーターが解説するもの。

 この番組の最大の特徴は、新陳代謝を拒否するかのような出演者の固定化だろう。同じ出演者であれば年配者ほど安心感を与える。視聴者の中には日曜日にこの番組を見るのが習慣になっている人も多いことだろう。

 この番組の人気を支えてきたのがスポーツコーナーである。そして、その名物コメンテーターが関口氏とともに番組を支え続けてきた人気野球評論家の張本勲氏だ。

 番組当初から張本氏は「親分」こと大沢啓二氏と張本氏のコンビで担当していたが、叱咤激励型のコメンテーターだった大沢氏が逝去して、辛口コメントが特徴の張本氏が中心となった。

 基本的に「説教スタイル」の解説をして「頑張っている若者に喝を入れる」というやり方が人気だった。

 だが、そんな人気コーナーに大きな異変が起こる。

 きっかけは、2021年の東京オリンピック金メダルを獲得した女子ボクシングの入江聖奈選手に対して、張本氏が「嫁入り前のお嬢ちゃんが、顔を殴り合って。こんな競技、好きな人がいるんだ」と発言したことだった。

『サンデーモーニング』の出演者が左派リベラルでがっちり固められているのだが、保守的なスタンスの張本氏はその中でも異才を放っていた(番組内で当時の安倍晋三首相の支持を口にしたこともある)。

 張本氏は舌禍(ぜっか)問題なりそうな発言をしばしばやってきたが、「治外法権」にでも置かれているのか、「張本だからしょうがない」という空気があり、問題化されることはさほどなかった。

 だが、この入江選手の発言については、異例なほどかなりくすぶり続ける。そこに「女性差別」を見る人が多かったからだろうが、それにしても、これまでの発言と比べて特段ひどいとも思えなかった。

 だが、考えてみると、いろんな問題が起こった東京オリンピックで、特に日本中を騒がせた森喜朗氏の組織委員会の会長辞任も「女性差別発言」がきっかけだった。「女性は話が長いものだが、当委員会の女性たちはわきまえている」といった年配者が話すにはごくありふれたものだったが、これが女性差別だとリベラル側は大騒ぎしたのである。

 だから、入江選手へのこの発言を見逃すと、リベラルで売る『サンデーモーニング』にとっては大きな汚点になりかねないと判断したのではないだろうか。結局、張本氏は2021年いっぱいでレギュラーを降りることになった。

 この降板劇についても、気に入らないものはとことん貶(おとし)めるが、身内には大甘なこの番組らしく、入江問題に触れることなく張本氏本人の希望で年内番組卒業と発表して、「円満退社」を演出した。安倍氏など保守政治家を口汚く罵(ののし)る一方で、リベラル政治家には甘い「ダブルスタンダード」はこの番組の持ち味だと言っていいだろう。

日本の悪い部分を集約した番組

 『サンデーモーニング』の特徴は出演者の頭数が多いことだろう。番組側が編集した映像を交えたダイジェストが終わると、コメンテーターが次々とコメントをつける。多くのコメンテーターに短めにコメントを言わせるというのが、番組当初からの一貫した特徴である。

 ここがこの番組のキモだ。コメンテーターの数は多いのに、意見が分かれることがなく、似たりよったりの分析や感想で終始させるのである。

 もともとコメンテーターという存在は、内容を堀り下げ視聴者の理解を促す役目をするものだが、『サンデーモーニング』には専門家はあまり出てこず(出演者が固定されるからだが、たまに問題のほうがコメンテーターの専門に当たることはある)、多くの場合はめいめいがリベラルの立場から、それらしいコメントをつけていくだけである。

 この点は近い時間帯にあるフジテレビの『日曜報道THE PRIME』と比べてもらうとわかりやすいだろう。

 この番組ではレギュラーの橋下徹氏以外に、意見が対立する複数の専門家や政治家を出し、極力左右それぞれの立場でコメントを出させて、報道番組では「基本のキ」である両論併記の原則を守っている。

 それに対して『サンデーモーニング』は、曲がりなりにも報道番組でありながら、両論併記の原則を無視し、公共の電波を使ってリベラルの立場だけからの意見を垂れ流し続けているのである。

 報道でなぜ両論併記の原則が必要かというと、どの立場が正しいかは視聴者にゆだねられなければならないからである。ある問題について、それぞれの立場からの見方や、そのプラス面・マイナス面の両方をあぶり出さなければ、適切な判断はできない。立場が違えば見方が違うのだから、視聴者はそれぞれの見方を提供しなければならない。
 
 ところが、『サンデーモーニング』のコメンテーターたちは、気持ち悪いほど意見が揃っている。おそらくコメンテーター側も番組側の意図に沿ったコメントを出しているのだろう。

 では、なぜそんなことになるのか。それはコメンテーターが固定されているからだ。出演者を固定してしまえば、そこでは日本文化に独特の「空気」が支配するので、その空気に従ったコメントしか出せなくなるわけである。

 まさに日本型の「年功序列」の空気がこの番組を支配しているのである。

 であるから、この番組の出演者は1つの「ファミリー」を形成している。新入りは年長者の顔色を見ながら、無意識のうちにコメントを調整しているのかもしれない。

 実際、あるコメンテーターが専門分野から深い意見を出すと、意外と「そんなの求めてない」といった無言の反発を感じることがある。また、そのような「空気の読めない」コメンテーターは排除されているのではないか。
日曜報道 THE PRIME - フジテレビ (12010)

両論併記の原則を守る『日曜報道THE PRIME』(フジテレビ系)

戦後平和主義という「かさぶた」

 しかし、これは報道番組と言えるのだろうか。

 報道番組だとしたら、中立性を保っておらず、放送法違反の可能性があるのではないか。

 私はこの番組が戦後平和主義をいたずらに温存してきたガラパゴスのように感じる。実際、出演者はGHQが日本に与えた戦後平和主義を後生大事にしてきているような古くさい価値観の者ばかりだ。

 しかも、これほど長きにわたって放送されているうちに、この番組の「戦後平和主義」は膿(う)んで大きなかさぶたになっている。かさぶたを剥(は)がしたくても、皮膚にどれほど食い込んでいるかわからず、結局放置されたままになっている。

 誰もちゃんと治療しようとは思わず、視聴率がいいからと見ないフリをし、惰性で続けているのである。日本の弱点を集約したようなこの番組がいつまで続くのかは、「万年平和ボケ」を脱しきれない日本が変われるかどうかを占う意味でも興味深い。
白川 司(しらかわ つかさ)
評論家・翻訳家。幅広いフィールドで活躍し、海外メディアや論文などの情報を駆使した国際情勢の分析に定評がある。また、foomii配信のメルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評を博している。

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