新型コロナウイルスの日本の第3波は、1月10日に明らかにピークを迎え、その後は新規陽性反応者も重症者と急速に減り、病床使用率も激減した。
菅首相も3月4日、「第3波自体は明らかに収束している」との認識を明確にした上で、それでも宣言延長という苦渋の決断に追い込まれた理由として「医療体制の逼迫」を挙げた。
この連載で繰り返し指摘してきたように、陽性者/重症者が欧米の数十分の1という日本が「医療体制逼迫」に陥ったのは、東京都を始めとする自治体が、冬の感染拡大への備えを怠ってきたからだ。
こうした「地方自治体の不作為による医療逼迫」という根本的な問題を脇に置いたとしても、今回の宣言延長の背景には、不可解な点が少なくとも5つある。
① 動く「解除の目安」に翻弄される都民
「東京都で言えば1日500日という数値、これをしっかりと都民の皆さん、事業者の皆さんとともに目指していきたいと考えております」
「陽性者500人というのは、それに従って、ベッド数などもそれに応じて下がってくるわけです。それに対しての対策もそれだけ負荷が下がってくるということですから、レベル3ということ、国が定めているところのレベル3が1つの目標になろうかと思います」
そして、1週間の平均値で1日500人をクリアしたのが2月11。その後さらに新規陽性者数は下がり続け、3月に入ると解除目安の半数である250程度、1月上旬のピーク時の1割程度にまで急減したのである。
この数値は、政府分科会の基準でみると「ステージ2」であり、小池知事が事前に示していた解除の目安を十分過ぎるほど達成している。ところが東京都は、今なお感染状況を「ステージ4」、すなわち最悪の状況であるとの判断を維持したままだ。知事自ら明言した目安など、まるでなかったかのようだ。
首都圏の飲食店や関連産業に従事する方々は、小池知事が示した「目安」を頼りに営業時間を検討し、あるいは休業や廃業といった重い決断を含めて、生業のあり方を日々検討してきた。
ところが、都知事自ら都民に示した目安を十分に達成すると「陽性者数の減少度合いが鈍化している」というような、「全く新しい基準」を突然示した。このような方針変更をするのであれば、最初から「解除の目安」など示すべきではなかったのではないか。
緊急事態宣言に苦しみぬいた飲食店にとって、3月中旬から4月にかけて新学期、春休み、歓送迎会という、起死回生の時期を迎える。
宣言解除の目安を「1日500人」と明確に示した小池知事の言葉を信じて、新規陽性反応者の慎重に見極めながら営業再開や従業員の雇用、仕入れの計画を立てていた飲食店関係者は無残に愚弄された。
② 病床数操作という「悪意」
厚労省は毎週金曜日に各都道府県からの報告に基づき、「新規感染者数」など感染状況を示すデータと、「コロナ対応病床占有率」など医療体制の現状を示す各指標を公表している。
そして、政府は首都圏の1都3県に出ている緊急事態宣言の解除の目安として、最も深刻な「ステージ4」からの脱却を挙げている。だから、各都道府県が取りまとめる各種データは、政府の政策を左右する最重要の材料である。
東京都の数値だけが突然半数以下に下がったのは「重症者向け病床の使用率」で、「重症患者数」を「重症者対応病床数」で割って算出するデータだ。
重症患者について国は、
▷体外式膜型人工肺(ECMO)などでの管理が必要な人と
▷集中治療室(ICU)や高度治療室(HCU)を使用している人を足し合わせた数値
と定義している。
だから、重症者対応病床数も、国の基準では「ECMO等対応病床」+「ICUとHCU対応病床」となる。
ところが東京都は、患者数は「ECMO病床使用者+ICU、HCU病床使用者」を報告していたにもかかわらず、分母は「ECMO病床数」だけを計上していたのである。
都のECMO等病床数は500床だったが、「ECMO病床使用者+ICU、HCU病床使用者」が一時的に500人を越したため、「使用率が100%を超える」というあり得ない事態となり、東京都のウソがバレた。
このため、都はこれまでの「ECMO等対応病床500床」に「ICU、HCU病床500床」を足し合わせ、「重症者対応病床数」を1000床に倍増させたため、「病床占有率」が急減したのである。
都が独自の基準で重症者を定義したのであれば、分母も分子も「ECMO等病床」で統一すべきだった。あえて分子が大きくなるようにデータを歪曲し、占有率が高めに出るよう都民を欺いていたと言わざるを得ない。
緊急事態宣言の行方を左右する重要なデータの扱いについて不適切な対応が明らかになった以上、都知事自らその事実を公表し、都民に謝罪すべきだ。
そして、少なくとも重症者対応占有率という観点からは、「医療リソースは十分に足りている」と認識を訂正するのが責任ある知事のとるべき行動だろう。
ところが、小池知事は都の不手際には頰被りをしたまま、政府に対して緊急事態宣言の延長に向けたプレッシャーをかけ続けた。これでは、知事自らが都民と国民を欺き、悪意を持って危機を誇張し、あえて緊急事態宣言を延長させるよう画策してきたと非難されてもやむを得まい。
③ もともと延長狙いだったのでは?
その時の言い方はこんな具合だった。
「新規陽性者数は減少しているが依然として、感染状況、医療提供体制は厳しい。危機的状況だ。宣言延長は今後の感染状況によるが、今のような状況が続く場合はさらなる対策の強化も選択肢としてあり得ると思う」
こうした過去の発言を精査すればするほど、感染者数や病床占有率など、自らが示した解除目安がどうなろうと、緊急事態宣言延長を狙っていたのではないかとすら思えてくる。
政府が出す緊急事態宣言を延長されれば、都民の怒りが直接都知事に向かうリスクは下がると考えたのかもしれない。
しかし「ポピュリズム」と「責任回避」だけが小池知事の行動規範なのであれば、今回は単に宣言解除を支持すれば良かったのであって、知事自らあえて宣言の再延長に向けた動く必要はなかった。
過去の発言や重症者病床占有率の水増しの経緯を精査すればするほど、小池知事の心の奥底には、「コロナ禍を誇張し長引かせる」という、ある種の意思と目的意識が働いているのではないかとすら思えてくる。
④ 効果がほとんどなかった緊急事態宣言
⑤ 「第4波阻止」という欺瞞
この論法は、小池知事に限らず、政府や医師会の会見でも頻繁に使われる。
しかし、パンデミックがどのようなカラクリで始まり、収束するのかは、全く解明されていない。
例えば第3波は昨年12月初頭に始まったものと見られているが、そのキッカケは何だったのか全く解明されていない。そして、今年1月4日の「仕事始め」という全国的な国民の行動変容も、感染を拡大させなかったことは前回記事でも詳述した。
簡単に言えば、緊急事態宣言があろうとなかろうと、感染拡大は起こるときは起こる。逆に、国民が一斉に活動を開始するようなタイミングでも、感染拡大が発生しないこともあり得るのが、今回改めて明確になったのである。
ところが、今回の「宣言延長」を巡る小池知事や日本医師会の発信を見ていると、感染拡大の全ての責任を都民国民に押し付けることが当然であるかのような物言いが目につく。
もし、不幸にも「第4波」に見舞われた際の、知事や医師会の上目線の恫喝が今から目に浮かぶ。しかし、そうした都民国民への批判や非難には、何の根拠もない。
十分な時間と資金がありながら、医療体制の拡充に取り組まず、その結果として生じた医療逼迫の数値すら誇張する。そして第3波がなぜ始まったのかすらわかっていないのに、「第4波は絶対に起こしてはならない」と都民国民を恫喝する自治体と医師会。
「必要な対策を取らず」
「データ歪曲の説明責任も果たさず」
「感染拡大の責任を都民に押し付ける」
あらゆる意味で無能で無責任な知事が全く糺されない異常事態を引き起こした主犯は、ジャーナリズムの精神を失い、科学的論理的分析を行わず、必要な追及を放棄した、全ての大手メディアである。