朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

銀行法改正の焦点

 銀行法改正案が衆議院本会議で可決され、成立した。これに対して保守派とされている人たちの一部から、「稀代の悪法である」との批判が飛び出していることに驚いている。その批判は、実際には現実を反映したものではない。

 まず国会において、この法案に反対したのは日本共産党のみであったことを確認しておきたい。つまり、他党はそれぞれこの法案について検討したであろうが、その結果として特に反対する理由はないと考えていたということになる。批判する立場の人たちは「中国や国際金融資本を利するための売国条項が密かに埋め込まれていたのだが、共産党以外の議員はそのことに誰一人気づかなかったのだ」とか、「菅政権が非効率だとされる中小企業の解体を目指すために用意した日本破壊工作だ」と言いたいようだが、そのようなことが本当にあり得るのだろうか。冷静に考えてもらいたい。

 今回の銀行法改正の焦点は、今や構造不況業種のようになってしまった地方銀行をどうすれば生き残らせることができるのかということにあった。そのため、従来の貸金業を中心とした固定的な業務に限定せず、銀行にさまざまなことが行わせられるように、業務範囲を拡大させることにしたものである。銀行による出資が大幅に緩和されたほか、広告、人材派遣、コンサルティングなどの業務が広く認められるようになった。これはセブン銀行やソニー銀行など、他業種から銀行業への参入が相次ぐなかで、もともとの銀行業は厳しい規制に阻まれて他業種になかなか進出できないという不公正さを是正する意味合いも有するものだった。

 また、コロナなどの影響によって疲弊している地域型の中小企業をどうすれば再生できるのか、後継者がいなくて近い将来に消えてしまいそうな企業をどうすれば生き残らせることができるのか、勢いのあるベンチャー企業をどうすれば育てられるのかといったことにも焦点が当てられていた。これらの問題解決を銀行のビジネスチャンスを拡大させる方向と組み合わせる形で用意されたのが今回の銀行法改正である。
朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

他業種からの銀行業参入が盛んな中、銀行はその業務拡大の手足を縛られてきた

的はずれの日本共産党

 さて、日本共産党はアベノミクスによる超低金利政策が銀行の業務圧迫の原因だという見立てを行ってきた。したがって、地方銀行の経営環境が悪化しているとしても、銀行法改正によって銀行の収益機会を広げる必要はないとの立場に立っていた。すなわち、超低金利政策を改めれば銀行の収益構造は改善するから、銀行法改正は必要ないとの見解だ。

 私は金融政策よりも財政政策のほうが効果が高いとの考えで、財政を中心にしながら金利が上昇しないように金融緩和も進めるべきだという考えである。したがって金融緩和に偏った政策については、資産価格の歪みを生じさせることもあり、批判的な立場ではある。

 だが、民間投資がなかなか進まない時に金利を引き上げたら、民間企業の資金需要はさらに抑制されることになる。民間の設備投資需要がなかなか増えないから低金利になっているという側面を見落とすべきではない。低金利政策をやめて金利水準を引き上げたら、地方銀行の収益改善はなおさら見通せなくなる。民間の資金需要が高まり、金利が多少上がっても借りたいという力が出てくるようになって初めて、結果として金利は上がっていくに過ぎない。この点で日本共産党の視点は、原因と結果を完全に取り違えた議論である。

 また、日本共産党は経営統合によって地銀が地域独占状態になることを大問題だと扱っている。今回の法改正では地銀の合併を推進し、システム統合にかかる費用を手厚く支援することまで進めているから、確かに地銀は地域独占のような流れになっていくと言われればその通りである。だが信用金庫、信用組合、農協など、地銀と競合する金融機関がたくさんあることからすれば、独占批判は的はずれである。

技術革新の影響

朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

いまや残高確認をはじめ、銀行の手続きはネットやスマホで可能
 銀行の支店が統廃合されることがサービス低下につながるとの批判もなされているが、この点については金融における技術革新が進んでいることを考慮に入れなければならない。たとえば振り込みを行うのにパソコンやスマホだけで済む時代になってきており、金融機関が一等地に広い店舗を構えておく必要性はなくなった。融資に関することは出張対応でもできることであり、大きな店舗を必要としなくなっている。中小企業と地域住民が不利益を被るというのが共産党の主張だが、ATMコーナーさえあれば店舗自体がいらなくなっているのが実際だ。今後スマホ決済が進むようになれば、ATMさえ必要なくなる時代もやがてやってくることになる。

 さらに言えば、融資ですらオンラインで完結することもあり得る時代が始まっている。こうなると、地域の枠に限定されない金融サービスが展開できることを意味し、なおさら独占批判は当たらないことになる。経営統合によって支店数が減ることには、地銀経営上大きなメリットがあるのを忘れるべきではない。

 外国金融機関の呼び込みを行うような制度変更についても反対があるが、これは香港の金融センターとしての地位が落ちたことに対応して、日本が金融センターとしての地位を承継したいという思惑からのものである。だから、外資金融機関をのべつ幕なく受け入れようとしているのではない。海外のプロ投資家を顧客とするファンドの運用業者や、海外で当局による登録等を受け、海外の顧客資金の運用実績のある投資運用業者を受け入れると言っているのである。これは具体的に考えれば、香港を拠点にグローバルな顧客をもつファンド企業を日本にそのまま取り込みたいという話である。狙い通り上手くいくかは疑問のところもあるが、狙い通りに進めば日本の得られる利益は非常に大きいだろう。

中国の狙いを正確に読め

朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

朝香豊:銀行法改正が明らかにした日本共産党の「経済オンチ」

本銀行法改正の施行の有無にかかわらず、中国の侵略は進むと考えるべき
 非上場の中小企業に対して議決権の100%の出資を可能とするという規定についても強力な反対意見がある。中国などの外資系の銀行が日本の非上場企業の買収ができるようになるというのがその理由だが、これについては心配しすぎではないだろうか。今まで中国が手出しできないように規制されていたことが今回の法改正でできるようになったと考えるのは大いなる誤解である。今まででも中国の一般企業が日本の非上場企業の買収をすることは十分にできるようになっている。

 そもそも議決権100%の出資が可能になるのは、①地域の特産品の販売を手掛けるなどの「地域活性化事業会社」、②ベンチャービジネス、③経営不振に陥っている「事業再生会社」、④後継者が見つからずに消滅の危機に陥っている「事業承継会社」に限られており、一般の中小企業すべてに100%出資が可能になるわけではない。はっきり言うが、中国は今回の銀行法改正などまったく考慮せずに、上記の対象に指定されることのない優良な一般の事業会社の買収を、今まで通り狙っていくだろう。その対策はこの法律とは別の枠組みで考えるべきではないだろうか。なお、コア領域の非上場企業については、たとえ1株であっても外国企業が買収しようとする場合には、事前審査の対象となることも知っておきたい。

 経営不振に陥っている「事業再生会社」の100%買収を銀行に認めた場合に、その買収を検討するのは普段から取引関係にある銀行が行うことが想定されている。もちろん企業に対して資金を貸すだけでなく、買収などもできるというのは、優越的な地位を利用しての利益相反的な行為が行える可能性がある。この点については慎重に見るべきで、運用の結果として法改正を考えていくことは今後の課題にはなるだろう。だが、現時点でこれを具体的に特定できないことをもって、この改正が稀代の悪法であるというのは論理の飛躍ではないだろうか。銀行法の改正に伴い、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」なども改正されているが、この中では「地域における基盤的金融サービスの提供の維持という本制度の目的のために実施」されることを確認するという内容も含まれているのである。

 本法は銀行が中小企業をあくどく買収を行い、事業ごとに切り分けして安直にM&Aで儲けられるようにした中小企業解体法なのだというのは、本法の趣旨をまったく理解していない暴論である。安易にこうした議論に乗せられないでもらいたいものである。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く