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朝香豊:恒大集団破綻の「Xデー」――中国の不動産バブル崩壊に備えよ

崩れ落ちる中国一の不動産ディベロッパー

 中国恒大集団(以下、恒大集団)は中国一の不動産ディベロッパーだった企業で、従業員数が約14万人、関連会社や下請け企業まで含めると約150万人の雇用と関わっているといわれる巨大企業である。だからこそ、恒大集団は中国の不動産バブル、土地神話の象徴ともみなされてきた。

 習近平は「住宅は住むために建てられるものであり、投機の対象ではない」と繰り返し発言してきた。だが、そうした言葉に中国国民は素直に反応せず、上海、北京、広州、深圳などの一線都市では不動産の値上がりが続いてきた。価格の高騰により、これら一線都市での不動産賃貸の利回りは2%にも達しなくなり、合理的な価格形成にはまったくなっていない。この利回りは中国国債の利回りをも下回る数値だ。

 不動産サービス会社のサヴィルズによると、天津市の高級住宅地にあるマンションの販売価格は1平方メートル当たりおよそ9000ドルで、ロンドンの最も高級な地域の物件の平均価格にほぼ匹敵する。しかし、ロンドン居住者の可処分所得は天津市の居住者の7倍もある。ロンドンでも幾分バブルが進んでいると見られているが、中国はそのレベルを7倍超えていると見ることもできる。しかも上海や深圳などの一線都市の住宅価格は天津などよりさらに高い。
Wikipedia (8092)

サヴィルズはコンサルティング、管理、取引仲介などのサービスを展開する総合不動産会社で、不動産エージェントの一つ。 アメリカ、ヨーロッパ 、アジア太平洋、アフリカ、中東において、600を越える拠点がサービスを展開している。
via Wikipedia

不動産神話の崩壊を望む習近平

 国際決済銀行によると、2019年までの10年間において、世界で増えた家計負債の総額は約11兆6000億ドルにのぼるが、このうち57%を中国が占めたとされる。中国において、無理をした不動産の購入が着々と進んできた実態を如実に表している数字といえる。

 このため、不動産神話の崩壊を望む習近平から、恒大集団はイジメじみた仕打ちを受けてきた。すなわち、恒大集団が破綻するような事態になれば、さすがの中国国民も「不動産が永遠に値上がりすることはない」と気づくだろう、と習近平は考えたようだ。

 今年6月、中国金融安定発展委員会は、中国工商銀行など複数の銀行に対して、恒大集団に問題が生じた場合、資本や流動性にどのような影響が及ぶ可能性があるのかを調べるように求めた。恒大集団を名指しして行っているだけでなく、これまでよりも上位の監督当局が直接乗り出していることから、「今後は恒大集団に追い貸しするな」という金融当局からのメッセージだろうと受け止められている。銀行側は相次いで恒大集団向けの融資について新規の追い貸しを認めず、返済期間に全額返すことを恒大集団に一斉に求めるようになった。

 また、恒大集団は香港本部ビルの売却交渉を進めており、電気自動車や不動産管理部門を扱う関連企業も売却の対象としている。恒大集団はまだ800億ドル(約8兆8000億円)相当の株式を保有していると見られ、これらを売却することで、まだ延命を図ることができるとされている。関連企業である中国恒大新能源汽車集団及び恒大物業集団の株式の売買を進める方針を恒大集団は明らかにしている。

 8月25日に恒大集団は今年の1〜6月期の決算を発表したが、この決算は今の恒大集団の実情を示すものとなった。この半年間の純利益は90億元(約1500億円)〜105億元(約1800億円)だとされているが、中核業務である不動産事業では40億元(約680億円)、電気自動車部門で48億元(約820億円)の損失を計上しているのである。生じたことになっている「純利益」は保有株式の売却によってもたらされたものにすぎない。完全に「タコ足」状態になっているのである。
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不動産神話の崩壊を望む習近平。その不敵な笑みの裏で、いったい何を考えているのか

「恒大集団の破綻」に始まる中国崩壊のXデー

 保有株式の売却も順調に進んでいるわけではない。恒大集団と取引関係のあるパイプメーカーの永高は、恒大集団から降り出された商業手形4億7800万元(約81億円)のうち、その4割に相当する1億9500万元(約33億円)が支払い期日を過ぎていることを明らかにした。格付け会社S&Pグローバルによると、今後12カ月に支払い期日が到来する取引先向けの手形や買掛金は2400億元(約4兆円)を超えるとされている。

 また、6月には深圳で進行していた恒大都会広場の工事が急遽中止に追い込まれ、8月には江蘇省で行われていた漯河恒大悦府や、同じ江蘇省の鎮江句容紫東で始まっていた恒大文化旅游城住宅、太倉恒大文化旅遊城のプロジェクトが相次いで中止させられた。加えて、雲南省の金碧天下二期隽翠苑や坤海湖の二つのプロジェクトも中止になった。取引先企業に工事代金の支払いが順調に進まないとみなされたためである。

 そして8月17日に、創業者である許家印氏が董事長(会長)職の辞任に追い込まれた。

 恒大集団はいよいよXデーが近づいている。この時に恒大集団だけの破綻で済むはずがない。

 習近平は値上げも値下げも認めないというやり方でこの危機を乗り切ろうとしているが、それがうまくいくことは考えられない。これまでは中国の人たちは将来の値上がりの期待で買ってきたのであり、値上げが認められないのであれば手放したいと思うのは当然だからだ。ローン金利の負担も重く、この負担から逃れるために支払いを停止しようとする人たちがどんどんと溢れていくのは必然である。人為的に換金売りを認めないとするのは、実質的には価格がないのと同じになる。

 都市部の中国人の資産の78%が不動産だとされる中国で、本格的なバブル崩壊が始まれば、当然世界経済は混乱を免れない。経済の悪化により中国が弱体化することは日本にとって恩恵とも思える一方、その混乱に巻き込まれ、日本経済が中国よりさらに弱体化してしまえばまさに本末転倒だ。いま中国に起きていることに目を背けず、警戒心を持ったうえで官民ともに「Xデー」に向けた準備を進めるべきであろう。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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