朝香豊:東芝・企業統治問題 あえて言う―国はもっと企業...

朝香豊:東芝・企業統治問題 あえて言う―国はもっと企業を守れ!

東芝事案の経緯

 このところ、東芝に関してネガティブな報道が相次いでいるが、これを報道の通りに受け止めるのは大きな間違いだと私は考えている。今回はこの点について説明したい。

 東芝では今年3月の臨時株主総会で選任された調査者が、8カ月前の2020年7月に開かれた定時株主総会が公正に運営されたものではないとの調査報告書をまとめ、6月10日発表した。報告書によれば、定時株主総会に先立つ2020年3月に東芝の豊原正恭副社長が経済産業省の情報産業課長に「(総会で)会社提案(の承認)がかなり危うくなる可能性があります」と連絡。同年5月には、東芝は情報産業課に外為法に基づく調査などを求める申し入れ書を提出したとされる。

 報告書には名指しされてはいないが、当時経産省の参与であった水野弘道氏が、外資系ファンドらの提案に賛成しないようHMC(ハーバード大学基金運用ファンド)に働きかけを行ったと認定した。一民間企業に対して政府の不当な介入があり、それによって定時株主総会が不正常に開催され、外資系ファンドらの提案が拒絶される結果になった。その結果が有効とされて東芝の方針が決まったのは不健全であり、これをコーポレートガバナンスの立場から正す必要があるというのが、報告書の立場である。

短期利益を追求する「アクティビスト」

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企業を「喰いもの」にしようとする株主がいることも事実
 この報告書からも浮かび上がってくるのは、以下のような図式だ。アクティビスト(物言う株主)として行動する外資系ファンドが自分たちの利益を優先する中で、東芝を好き勝手に動かそうとしてきた。これに対して、東芝の経営陣の内部に危機感を抱く人たちがいた。こうした人たちが経産省と連絡を取りながらアクティビストに対抗しようとしたが、それは政府の民間企業への不当な介入だという話にされているというものだ。

 前提として理解したいのは、2017年に5400億円にのぼる債務超過に追い込まれた東芝が、これを解消するために6000億円の第三者割当増資を行っているところである。この第三者割当増資に応じたのがアクティビストである海外ヘッジファンドであり、これにより東芝の外国人保有比率は急激に高まった。東芝の株主構成における外国人投資家の割合は実に71.62%に達している。国防の見地から見て極めて重要な企業として東芝を考えた場合に、この状態は本来あり得ない。

 東芝はキャッシュが足りない状況に陥りながら、アクティビストのために2019年3月期から2020年3月期にかけ、約7000億円の自社株買いをした。本年5月にも1000億円の自社株買いと特別配当110円(総額500億円)の株主還元を行っている。合計1500億円の株主還元は2021年3月期の営業キャッシュフローの1451億円を超える金額だ。今後、キオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)が上場した際には、その株式の売却益の過半もさらに株主還元の原資にさせられることになっている。つまり、アクティビストのやりたい放題なのである。
※参考記事はコチラ

 日立は今後3年間で研究開発費を1兆5000億円にする計画を立てているが、東芝の22年3月期の研究開発費は1600億円にとどまる。株主還元に資金が取られて、東芝は研究開発費に十分な経費を回せない構図になっているのである。

 報告書の発表を受けて、永山治取締役会議長が6月14日にオンラインで記者会見を行った。永山氏は経産省との関係について「担当している人たちのコンプライアンス(法令順守)意識が欠如していたと言わざるを得ない」「しかるべき時期に臨時株主総会を開き、新たな候補者を選任する」と述べ、アクティビストの信頼を取り戻すため、取締役会のメンバーを再構成する方針を示した。

 問題視された経産省は火消しに必死だ。水野弘道氏の働きかけについても経産省が行ったことは否定して、HMC側が知人である水野氏にアドバイスを求めただけだとの逃げを打ったのみである。菅総理も関与を否定して、この件に積極的にコミットする姿勢を示していない。

国が関与すべき企業は存在する

 私がここで一番に問題にしたいのは、日本の産業を絶対に守り抜くという日本政府の強いリーダーシップの不在である。東芝は国防上重要な企業であり、一般企業と同列に考えることはできない。改正外為法では安全保障の観点で重要な日本企業の場合には、その観点から問題があると判断すれば、事後的にでも株式の売却などを求めることができる。なぜこれを発動しようとしないで、コソコソと対応しようとするのか。その不透明性が逆にアクティビストにつけ入る隙を与えている。

 東芝は原子力技術のみならず、世界最先端の量子コンピュータ技術をも持つ、日本の安全保障上極めて重要な企業であり、他の企業と同列に扱うことはできない。さらにこの数年間にわたってキャッシュ不足にある東芝にアクティビストが過剰な株主還元を求めてきた。こうした事実をきちんと説明した上で、外為法に基づいてアクティビストに株式の売却を求めると主張すればいいではないか。

 こういうことを行えば、日本企業に対する外国勢の投資が鈍ることを懸念しているのだろうが、アクティビストを日本への投資から排除できるのであれば、日本にとってかえって好都合ではないだろうか。

 日本政府は楽天への中国のテンセントの出資についても外為法上求められる厳しい対応を見送った。テンセントの出資がなければ楽天が潰れることになるが、それでもいいのかと、三木谷社長から恐らく脅されたのだろうと思うが、そんなことでビビっていては国家の安全保障は守れない。

 現在の東芝問題への対処は、経済安全保障に対する日本政府の姿勢を示す試金石となる。外為法の後々の適応のことも考えて、決然とした対応を示すことを菅総理に求めたい。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。新著『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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