持続可能な開発目標。SDGs。それは本当に明るい未来――!?

持続可能な開発目標。SDGs。それは本当に明るい未来――!?

"寒い"クリスマス?

 2021年10月31日に投開票日を迎える衆議院選挙を前に、世界的なエネルギー価格が派手に高騰しています。実に困りますね。

 イギリスではEU離脱もありLNG価格が昨年同月比2倍近くまで高騰しただけでなく、アメリカでも消費者物価の値上がりを先導する形でガソリンが昨年同月比4割上昇してしまいました。我が国でもガソリン価格は同前2割強上昇したうえ、エネルギー調達市場での基準価格とでも言うべきWTI先物11月限は80ドルを超えているのが現状です。

 これら資源価格の高騰の原因はさまざまありますが、市場では一般的な理解として米中対立で経済のデカップリングが進むなかでコロナ禍によるサプライチェーンの寸断が表面化し、コロナ禍からの経済回復による需要増で海運から生産まですべてのレイヤーで物資の流れが逼迫したことが背景とされています。さらに、2014年以降石油メジャーなど資源大手が、採掘場の設備も含め、いわゆる「上流設備」に対する投資を大幅に減らし、生産量が伸び悩んだことも理由に挙げられます。

 しかも、さらに困ったことにアメリカが脱コロナ経済の出口政策として金利を引き上げる観測がより強まり、10月18日現在で114円40銭前後とこれまた派手に円安に振れてきています。そのため、冬のエネルギー需要時に膨大なエネルギー調達費用が嵩み、我が国の富が暖房費のために資源国へ流出してしまうという悩ましい事態となってきました。便座を暖めたり自動販売機で冷たいコーラを買ったり誰も乗っていないエスカレーターが元気に動いているエネルギーは全部他の国から買ってきた資源を使うことで成立していますので、これが止まると駅が暗くなりエスカレーターが止まり、クリスマスなのに暖房が控えめになるわけです。

 これら経済安全保障的な問題については、すでに本誌では杉山大志さんが解説しておられるのでそちらに譲るとして、本稿ではこの直近のエネルギー問題とこれに関する政策について自民党・公明党など与党と、野党勢力の公約を見直したうえで具体的な政策着地について占ってみたいと思います。

各政党のエネルギー政策を見てみると……

 主要各政党におけるエネルギー政策を、おおまかに「原発再稼働の是非」「再生エネルギーとカーボンニュートラル(CN)」に分けてみると、短期的には前述の通りエネルギー価格の高騰、中期的には再生エネルギー・原発依存の比率、長期的にはCNに伴う日本の産業構造の変化という3つの文脈で各党が我が国をどのようにしようとしているのかが分かります。

 まず、原発再稼働の是非について。
 かねて論点として出ているのは「原子力依存を減らすかどうか」という大前提に対する態度で、各党の政策がまず分かれます。原発再稼働反対としたうえで、我が国の今後のエネルギーミックスにおいても原発などとんでもないと言っているのは日本共産党、立憲民主党など左派系野党各党です。とりわけ、原発再稼働だけでなく効率の良い原子力発電所への置き換え(リプレース)についても反対し、原子力発電との決別まで宣言しているのは従前の主張とさほど変わりません。

 この問題で左派野党の主張に一理あるのは、原発問題で言われがちな「トイレなきマンション」と呼ばれる原子力発電にかかったウラン同位体などから出る核のゴミ、核燃料廃棄物の処理問題が解決困難だという点です。
 さらに大きくは核燃料サイクルのような遠大な取り組みもあったわけですが、ご存じの通り高速増殖炉もんじゅの問題に加えて、東日本大震災で東京電力・福島第1原発事故が発生して、日本の原子力行政や電力会社に対する重大な信用不安があったことなどから、反権力的な左派政党は原則として「国のやることは信頼できない」として福島第1原発からのALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出ですら反対してきました。

 野党の主張について一考の必要があるのは、我が国の原子力行政云々とは別にしても、冷却化までざっと10万年かかるとされる核燃料廃棄物を「いま電気が必要だから」と言って、ドシドシ原発をつくちゃっていいのかという点です。なんか取り返しのつかないことがまた起きるんじゃないか、という不安があるのも事実であります。
 また、その処理も、ただでさえ地震の多い日本で適当に人のいなさそうなところを、地中深く穴掘って埋めたところで、きっと何かまた良からぬことが起きるに違いないという、凄く嫌な予感がするという部分です。

 とはいえ、原子力発電所に依存しないと目先の電力が足りませんよね、みんな寒い冬を迎えて計画停電などは絶対に嫌だとなると、いわゆる中間派として「原子力発電はいまは必要だけど徐々に減らしていって、最後は代替エネルギーにしよう」という折衷案が出てきます。確かに「トイレなきマンション」は嫌だけど、嫌だと言ったところで、もうある程度、核廃棄物は出ちゃってるので、いま原発を動かそうが、動かすまいが、これの処理をしなければなりません。ぶっちゃけ、もはや量の問題ではないので、もう少し増えたところで処理しなければいけない事実は変わらないんですよね。
 なので、事故も嫌だし核廃棄物の処理も面倒くさいし怖いのでちょっとだけ稼働を続けていいところでやめようぜ、というのが中間派の現実的な意見です。

太陽光発電・洋上風力発電に不向きな土地

 この中間派には維新の会を筆頭に、与党にいる公明党および連合から支援されている国民民主党が入っています。仲いいなお前ら。
 しかも、ここには大手電機メーカーなどの労働組合でつくる電機連合が安い電力供給こそ産業力と雇用の源泉であるとして、同じ連合の中でも原子力発電の再稼働や新設・置き換えには原則賛成の立場を取っています。他にも、さまざまな業種の労働組合が原発再稼働には賛成の立場です。先に出た原発再稼働に反対の立憲民主党も労働組合からの支援を受けている政党ですが、まずここで労働組合全体で見ても原子力発電に対する態度で、一枚岩にはなり得ない状況であることは言うまでもありません。

 他方、自由民主党は総裁選で善戦した高市早苗さんが政調会長として党の公約を取りまとめているわけですが、ここではアクセルを地べたまで踏んで、小型原子炉(SMR)の推進や、クリーンエネルギーの切り札として「核融合をやるんだよ」ぐらいの勢いで研究開発するよ、と言い始めました。中には「核分裂と核融合は違うんだ」「だから核融合技術による小型原子炉は都市においても大丈夫なんだ」という楽観的な議論も散見されます。そうですか。
 いま目の前の選挙で言うべき政策じゃないだろという気もしますが、とにかくそのようなことまで選挙公約に堂々と盛り込んできたので、高市早苗さんの前のめり具合については「自民党らしいなあ」ということで評価したいと思います。

 それもこれも、いきなりこの冬に向けて電力事情が日本だけでなくイギリスや欧州で急速に悪化、中国でも工場の操業停止に追い込まれるほど電力供給が不安定になったことで、我が国のエネルギー安全保障がにわかに重要課題となったことは特筆されるべきことかと思います。

 しかしながら、これらの争点「原発再稼働の是非」は議論の入り口であり、実際の本丸は「再生エネルギーとカーボンニュートラル(CN)」です。破壊的な気象変動のお陰で世界的にSDGsとかいう持続可能な社会へのシフトが明確になり、この価値を目指して各国が再生エネルギーに取り組み温暖化ガスをビシバシ放出する石油、石炭、LNGなどの化石燃料への依存を減らそうぜという流れになりました。

 ところが、皆さんご承知のように我が国日本は国土面積やEEZ(排他的経済水域)こそ、そこそこ広いものの、可住面積にあたる平地はめちゃ少なく、ぶっちゃけ山ばっかりで太陽光発電には不向きな地形です。

 さらには、欧州の再生エネルギーでそれなりの割合を占める洋上風力発電においても、日本の各地での検証の結果、日本の電力事情を補うに足る「いつもいい感じで風吹いてる地域」は秋田県能代市や三種町沖・男鹿市沖か、茨城県鹿島沖ぐらいしかないじゃん、という話になりつつあります。これはあくまで「民間が風力発電に乗り出して、いまの技術レベルで採算の取れる地域だよ」という但し書きですが、それでも補助金出せばどうにかなるんじゃないかと思える地域はそれほど多くありません。

 また、発電所や半導体工場・製鉄所など大口電力需要家で放出される二酸化炭素をキャッチしてかき集める技術(DAC)や、アミン溶液などでかき集めた二酸化炭素をこれまた地中深くの砂の層あたりに穴掘って埋める技術(CCS)なんてのも研究されておりますが、実際のところこれまた日本の立地がイマイチで、うまい具合に二酸化炭素を回収しても、地中に捨てられそうな場所がありません。困った。
 最近では日本の隣に日本海溝とかいう世界最大級の深い海があるからそこの最深部にパイプライン敷設して捨てちゃえばいいんじゃねとかいう話も出てきていますが、上手くいくのかすら良く分かりません。
海洋に多数の風力タービンを備えた洋上風力発電およびエネ...

海洋に多数の風力タービンを備えた洋上風力発電およびエネルギーファーム

ろくでもないことばかりが起きている

 このように、再生エネルギーを取り巻く環境も日本にとって厳しいわけですが、何よりも厳しいのは太陽光発電しか、いままでまともに再生エネルギーに取り組んでこなかったので、ようやく、オリックスとかいうバファローズ感のある会社さんが、北海道での中規模商用地熱発電を取り組み始めたぐらいで、まだそんなに目途立ってないんですよ。

 太陽光についても、いわゆる太陽光発電の設置部分では休耕田など農村の高齢化で放棄された農地にベタッとメガソーラーを設置したり、多少効率に目を瞑(つむ)っても、都市部の需要地に近いビルや戸建ての屋上に小規模パネルをたくさん設置したりするのはどうか、という案が出てきております。この分野でも、近鉄とかいうバファローズ感のある会社さんがメガソーラーのプロジェクトをさらに進めて都市型パネル設置案や遊休地に分散し設置して、発電力を稼ぐ仕組みなどが提案されていて興味深いところです。

 ところが、これらの再生エネルギーの取り組みは、先行しているスペインなどEU地域を見ると、結局は安定電源の供給には難があり、でっかい蓄電池がいるよねとか、エネルギーを送る仕組みを効率化させるエナジーグリッドを高度化しても、そもそもの発電量が足りなくて、、いきなり大規模瞬電(非常に短い時間、停電すること)が頻発したりと、ろくでもないことばかりが起きています。

 日本の場合、大手電力各社がインフラ事業者として地域の電力供給体制に責任を持ちコミットしているライザップ状態なため、他の再生エネルギー先進国で起きている新電力会社がいきなり破綻して契約電力通りに供給されないという問題は起きません。ありがとう、東京電力。しかし、これらは再生エネルギーに対する普及・拡大を目的とした助成金ありきの世界となっており、悪名高き旧民主党・菅直人政権でソフトバンク孫正義さんと握ってしまったFITキロワット当たり42円という途方もない金額設定を皮切りに日本の再生エネルギー行政はなかなか多難な時代を送ってきました。

 それもこれも、日本が一層の脱炭素を推し進めるにあたり、各政党が当面の政策主張として「原発再稼働に賛成だ反対だ」あるいは「再生エネルギー比率の目標を38%程度に」「クリーンエネルギー研究開発投資を2兆円」などと言っているものは概ねにおいて画餅なのかなあと思うわけです。

日本の未来を決めるエネルギー政策

 それでも日本がカーボンニュートラルを標榜し、どうにかして化石燃料への依存を減らし脱炭素経済を実現しなければならない理由は明確で、やはり日本は国富として輸出産業の競争力を維持するためにも、「安い電力」で「他国が納得するクリーンエネルギーを使った商品やサービスの輸出」をしなければならないからです。

 そこへきて、カーボンニュートラルの切り札として出てきたのが電気自動車(EV)で、おそらく日本も年限を決めて、いまのガソリンによるエンジン内燃機関の車からEVへとシフトしていかなければならないでしょう。そうなると、いわゆる都市部の移動手段もスマートシティ化しないといけないし、EVいっぱい走らせるには電力供給のインフラも、いま以上に充実させないといけないし、何より世界的に競争力のあるEVそのものや電池、半導体、ソフトウェアなど、いままでとは異なる自動車産業へと大きく変化していかなければならなくなります。

 そうなれば、いま自動車業界でエンジンを製造している会社は、文字通り向こう20年ぐらいの間で全滅することになります。なんせ、ガソリンで走る車は全廃だっていう話ですからね。死んじゃうでしょ、こんなの。すそ野の広い自動車産業全体が、この国際的潮流に乗り損ねれば、800万人近い業態転換を強いられることになり、その多くが失業してしまう怖れすらあります。困ったことです。

 今回、全トヨタ労連が愛知の自前の組織内議員である古本伸一郎さんを諦め、従前支援を続けてきた立憲民主党筋と決別して、自民党や公明党、維新の会などとの政策協調を企図し始めたのも、今回、各政党が掲げる画餅で、実効性の乏しいエネルギー政策を掲げられて時間を失うと、本当の意味で大トヨタといえど壊滅的な状態に陥る危険性が高いと判断したからに他なりません。
 それだけ危機感があるということで、具体的なEVへの取り組みが、我が国の再生エネルギー拡大やカーボンニュートラルに資する政策に立ち入らなければならないのだということは広く国民も知っておくべきです。

 長期的には、今回の衆議院選挙で問われるエネルギー政策とは、イデオロギー的に、あるいはお気持ち的に原発再稼働に賛成か反対かという牧歌的な選択が国民に求められているのではありません。エネルギー関連については、かなりガチで困ったことになる未来に対して各政党が主体となりどういうオプションを国民に提示しているかが問われているのだとも言えます。

 そして、結局は今回の衆議院選挙も与党が過半数を取るのです。エネルギー政策も、自民党と公明党が当面は担っていくことに変わりはありません。ただ、切迫度が違うのは米中対立やコロナ明けからのエネルギー調達価格の上昇や、我が国の脱炭素経済・社会への移行が想像以上に多くの日本人の雇用、教育、社会に影響を与えるのだということがこの選挙戦の間で明らかになっているからです。ぶっちゃけヤバイ。
 そういうヤバい局面で、私たちが選挙を通じて何を知り、どう行動しようとするかについて、いま一度真剣にとらえ直していく必要があるんじゃないかと思います。
立憲民主党が掲げるエネルギー政策は画餅にすぎない

立憲民主党が掲げるエネルギー政策は画餅にすぎない

山本一郎(やまもと いちろう)
1973年、東京都生まれ。個人投資家、作家。慶應義塾大学法学部政治学科卒。一般財団法人情報法制研究所上席研究員。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行なっている。

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