橋本琴絵:ウクライナ救国志願――岸田政権よ、日本人義勇...

橋本琴絵:ウクライナ救国志願――岸田政権よ、日本人義勇兵を止めるな

日本人の「義勇兵志願」に水を差す林外相

 駐日ウクライナ大使館は、ロシアによる侵略戦争を受けて約6万人の日本人から20億円近くの寄付金があったことを明らかにした(2022年3月1日)。

 同時期、ウクライナ政府が世界各国で義勇兵を募集したところ、70名の日本人から志願があった。志願動機は「ウクライナの若い人が亡くなるぐらいなら自分が戦う」というものだ。

 しかし、この感動すべき「義」による助太刀に対して、林芳正外相は記者会見で「在日ウクライナ大使館がそうした呼びかけをしていることは承知しているが、目的の如何(いかん)を問わず同国への渡航はやめていただきたい」などと言い、水を差した。

「義勇兵」という言葉は聞きなれないが、歴史的には近代以降、各国政府の呼びかけに応じて戦争に出征した日本人は少なからずいる。

 古くは(1936年から39年に)スペイン人民政府が義勇兵を募集して「国際旅団」を結成した際、日本人左翼がこれに参加した記録が残っている。また、日本共産党の野坂参三氏は日本から中国共産党やソ連共産党を渡り歩き、数々のプロパガンダ作戦に従事し、戦後帰国して衆議院議員となった。

 その後、ナチスドイツとソ連の戦争が勃発すると、九州医学専門学校(現在の久留米大学医学部)の教授であった古森善五郎という医学博士が志願し、ドイツ陸軍の軍医少佐となって独ソ戦に従軍した。

 これらは戦前戦中の出来事だが、大東亜戦争が終結すると、現地に残留して戦った者も少なくない。中でも最大数の日本人義勇兵が参加した戦いは、インドネシア独立戦争だ。欧米列強からアジアを解放する大東亜宣言の大義を果たせなかったが、約束を守るため再植民地化を目的に侵略してきたオランダ軍と激闘を重ねた。その命をインドネシアに捧げた日本人義勇兵は、今も記念碑に名を刻まれ現地で語り継がれている。

 日本国憲法が施行された後も、日本人義勇兵はいる。中華民国の要請に応じて日本陸軍の将軍であった根本博氏は部下6名と共に台湾へ渡航し、台湾海峡を巡る古寧頭戦役(1949年)に参戦して指揮を執った。

 根本氏が義勇兵となったことについて、日本社会党の猪俣浩三衆議院議員が次のように国会で質問している。

「あの根本らのような行動をとる者が続々現われて、それが発覚した際に、これに対処するいかなる法律上の制裁があるのかをなお明らかにしていただきたい」

 これに対して政府(佐藤藤佐刑事局長。のち検事総長)は、「旅行証明書なくして海外に旅行する者がありましたならば、覚書違反として嚴重に処罰されることになります」と言い、旅券の問題だと答弁。

 引き続き、猪俣議員が「外国の軍隊に参加する、あるいは作戦に参加するような目的で同志を募るというような運動に対して、何らかの取締りがあるやいなや、お考えをお尋ねしたい」と再質問したところ、政府は「団体等規正令にいう政治活動といえるかどうか、その点が問題だろうと思うのであります」と答弁し、日本人義勇兵が憲法および刑法に何ら抵触することはない旨を説明している。(1949年11月26日・衆議院法務委員会第12号)

 この事実を受けて、富田直亮氏が率いる日本人軍事顧問団の「白団」が結成され、1950年から18年間にわたって台湾の軍事指導と軍人育成に貢献したのである。
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中華民国の要請に応じて「義勇兵」として台湾に渡った根本博
via wikipedia

自衛隊の代わりに日本人義勇兵が台湾で戦う?

 今回、ウクライナへの日本人義勇兵の派兵が実現されたならば、来たる台湾有事の際、憲法上の制約から直ちに派兵できない自衛隊にかわって台湾防衛で義勇兵が活躍するという、大変重要な意義を持つ前例となることが予想し得よう。

 歴史的にも、正規軍が戦闘行為をする前に「義勇兵」が戦闘行為をする例は珍しくない。たとえば、対米戦開始前の「フライングタイガース」軍団(アメリカ義勇兵)は、多くの日本人将兵を殺傷したが、米国政府は「不知」であるとの外交上の立場を主張した。かつて、わが国を苦しめた戦術の採用は検討に値する。

 自衛官OB・OGの人数は現役よりも多い。その意味からも、憲法改正のときまで政府は義勇兵を支援することも妨害することもなく、無言で見送るべきであろう。

 一方で2014年7月に、国際テロ組織「イスラム国」の戦闘員募集に応じたとして、北海道大学の学生と元同志社大学教授の2名を刑法第93条が定める「私戦予備陰謀罪」の容疑で警視庁公安部が書類送検したことがある。

(※参考)刑法第93条 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。

 この件を引き合いに出して、今回のウクライナ義勇兵が違法であるかのように論じる動きもある。しかし、そもそも「義勇兵」とは、ある国家の要請によって成立する存在であるから「私戦」にあたる理由がない。

 最高裁判事を務めた団藤重光氏は、同罪の成立要件について次のように説明している。

「私的とは、かかる戦闘が私的な組織により、国家意思とは無関係に行われることをいう」(注釈刑法各則1・有斐閣P37)

 ただし、「国家意思」とは日本国の意思に限定されるという指摘もある。

 たとえば、中国の要請に応じて日本人義勇兵が集められ、在日米軍基地が攻撃されたような事態も想定され得る。だが、これは(憲法に基づく条約が締結された外国基地を攻撃したならば)内乱罪が適用される事案だ。私戦とはあくまで国家意思に拠らない戦闘、たとえばイスラエルのテルアビブ空港を強襲して自爆攻撃をした日本人テロリストの例などをいう。

 しかしながら、日本と友好関係がある国と日本人義勇兵が海外で交戦するケースでは、日本の外交上の国益を損ねる恐れもある。今回も、交戦中のウクライナとロシアは両国とも日本と国交がある。よって、ウクライナの国家意思に応じて日本人義勇兵がロシア兵と交戦した場合、日本の外交上の利益を損なう可能性も考えられる。

 国家意思が競合した場合は、「日本国の国家意思」と「外国の国家意思」の比較衡量(対立する当事者の権利・利益を天秤にかけて、どちらがより重いかを判断する手法)にて判断されるべきだろう。

 つまり、日本国が「中立」または「義勇兵が交戦する予定の相手国との友好関係を優先する」という国家意思を表示していた場合、この時に初めて「国家意思に反した私戦」と処断されるのである。外国の国家意思よりも、主権によって日本国の国家意思が優先されるからだ。

 今回の戦争でいうならば、すでにロシアの侵略非難決議を日本の衆参両議院が採択しているため、中立ではなく、日本国の国家意思は「ウクライナとの外交関係」を優先尊重したと客観的にいえる。よって、仮にロシア国の要請に応じて義勇兵となった日本人がいた場合、それは日本国の国家意思に反するため、予備陰謀の段階で処罰されるべきだ。

 前述した台湾へ行った日本人義勇兵や、またフランス外国人部隊に参加した日本人のケースでは、日本国の国家意思が何ら表示されていないため、外国の国家意思が優先されたケースといえる。今回、日本政府は明確にロシア側を非難しているため、日本人義勇兵がウクライナでロシア兵と戦うことの合法性は担保されているといえよう。
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日本人義勇兵だけでなく、在日ウクライナ大使館の必死な声にも水を差したことを林外相は理解しているのか

日本政府は勇気ある義勇兵を妨害せず静観すべき

 現在の法令は「義勇兵」の取り扱いについて整備されていない。それは、日本国憲法が自衛権の行使を除く交戦権を否定しているからだ。しかし、これは「派兵」の場合であって、「義勇兵の受け入れ」であれば憲法が禁止するところではないため、今後法整備していく必要がある。

 たとえば、アメリカでは1950年に「ロッジ・フィルビン法」が可決され、最大上限12500人の外国人義勇兵を受け入れることが認められた。義勇兵は5年間の軍務に服すると米国市民権を得られ、また共産圏など反米を国是とする国家・地域からの受け入れは認められないことも法定されている。

 この法律の適用を受けた例で有名な人物が、ラリー・ソーンだ。この人物はフィンランド軍に入隊し、ソ連によるフィンランド侵略戦争である「冬戦争」で戦ったあと、ナチスドイツの武装親衛隊「第5SS装甲ヴィーキング師団」に志願し、親衛隊大尉となった。そして大戦終結後は、渡米してアメリカ陸軍に志願し、数々の任務をこなしてベトナム戦争に従軍して戦死した。最終階級は米陸軍少佐であり、今もアーリントン国立墓地に眠っている。

「武装親衛隊からアメリカ軍に志願」という経歴は珍しいが、冬戦争、独ソ戦、継続戦争という激戦を戦い抜いた「経験者」の実力をアメリカが重視した結果であるといえよう。

 わが国の自衛隊は日々の訓練から精強であることに疑いを容れる余地はないが、それでも実際に戦場で敵兵を殺害した経験を持つわけでない。そこで、実戦経験豊富な外国人義勇兵を友好国に限り受け入れる法制度もアメリカに倣い、今後必要であることを提言したい。

 最後に、今後の国際情勢の変動に対して、日本人義勇兵がもたらす意義を述べたい。

 先般、ウクライナ国連大使は「ロシアが国連常任理事国である法的根拠はない」という演説をした。これは、常任理事国が中華民国から中華人民共和国に変更された際に、アルバニア決議(第26回国際連合総会2758号決議・1971年10月25日採択)があったのに対して、ソ連邦崩壊後にロシア連邦へ常任理事国の地位変更を認めた決議がないことを指摘したものだ。

 これを受けてイギリス報道官は「ロシアは常任理事国の資格を欠く」というパブリックコメントを発表している。核兵器を脅迫に使用したロシアの姿勢は、国連常任理事国の資格要件とされる「核兵器の適正管理義務」に反しているというのが主な理由だ。

 民間レベルでも、ロシアの銀行の送金振替業務をSWIFT(国際銀行間通信協会)が拒否し、VISAやマスターカードなど大手クレジット会社も軒並みロシアの銀行決済を廃止し、サハリンから化石燃料採掘業が撤退した。日本銀行もロシア資産を凍結するなど、ロシアに対する世界の非難包囲網は前例がない苛烈さを見せている。

 この中で、ウクライナへ日本人義勇兵が派兵されることの意義は政治的に極めて重要である。将来の「常任理事国」との強固な友好関係の理由になるからだ。それは日本の国際的地位に著しく寄与する期待を持つ。

 日本政府は勇気ある義勇兵たちに対して、その志を妨害することなく静観すべきである。必ず日本の国益に資するのだから。
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祖国を守るためにウクライナへ帰る青年も大勢いる。ウクライナ人の愛国心も見習うべきだろう
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。

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この記事へのコメント

悟朗 2022/3/23 13:03

凄い卓見です。義勇兵について、内外の例から、私戦規定の解釈まで、ここまで奥に立ち入った議論は、初めて見ました。感服しました。
林外相の妨害によらずも、報道によれば、手練れの日本人義勇兵が既に入国しているようです。彼らの活躍に期待します。彼らは英雄だ。

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