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橋本琴絵:ウクライナ問題でも無名非難決議――日米安保に「核報復義務」を盛り込め

対ロシア非難決議も「名指し」ナシ

 衆議院が先週の「名無しの非難決議」(対中非難決議であるのに中国という国名を削除した衆議院決議)に引き続き、またもや「ロシア」という国名を削除した決議(ウクライナを巡る憂慮すべき状況の改善を求める決議案)を採択した(2022年2月8日)。

 ウクライナが直面する侵略戦争の危機は他人事ではない。日本の北方領土もウクライナのクリミア半島も、ロシアの侵略戦争によって国土を占領され、そこに住む国民を殺害され、今日にいたるまで解決されない被害を受けた問題だ。にもかかわらず、ウクライナへの侵略戦争は容認し、自国の北方領土だけは返せという深刻な矛盾を抱えた外交方針は、国際社会から決して受け入れられないだろう。

 侵略戦争が着々と準備される中、採決された決議は、あくまで「ウクライナ国境付近の情勢は国外勢力の動向によって不安定化しており、緊迫した状況が継続している。いかなる国であろうとも、力による現状変更は断じて容認できない」との文言を使い、「ロシア」という具体的国名を挙げることはなかった。

 今回の「非難決議」からロシアという具体的な国名を削除したことは、日本政府の主観としては「ロシアへの配慮」だったとしても、客観的には「ロシアの不法への配慮」であると評価されても不自然ではなく、「侵略戦争の容認」という日本の姿勢を世界に発表したも同然だと言えよう。

 岸田文雄首相は、2月7日に行われた「北方領土返還要求全国大会」で「北方領土問題について次の世代に先送りすることなく、プーチン氏とともにしっかり取り組んでいきたい」と大会挨拶で述べた。

 しかし、ロシアは2020年に憲法改正を行い、領土のいかなる割譲も憲法違反であると定めた。つまり、この状態で「北方領土を平和的対話によって返還させる」という岸田政権の外交方針には、必然的に「ロシアに再度憲法改正をさせる内政干渉」が含まれることになるが、そのような対外活動に予算が割かれた形跡は一切ない。

 ガルージン駐日ロシア大使は、「日本政府と北方領土交渉をした事実はない。平和条約締結交渉をしている」という発表を行い、日本側の認識とまったく異なる認識であることを示している。ロシア政府は、北方領土を「対米前線基地」との位置づけでとらえ、ミサイル基地建設とミサイル演習を繰り返し行っている。この状況下で「対話による領土返還」が実現されるというのだろうか。筆者は、絶対にあり得ないと断言する。そもそも、犯罪で奪われた土地を「お話」をして取り返したことは歴史上ないからだ。
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「日本政府と北方領土交渉をした事実はない」と日本を検視したガルージン駐日ロシア大使
via wikipedia

恩を仇で返すのが「ロシア流」

「外交による領土返還」といえば、沖縄や奄美、小笠原諸島を連想する方も多いと思う。しかし、これらの領土は、犯罪によって奪われた土地ではない。日米が正々堂々と戦った結果、占領された土地だ。

 しかし、ロシアはそうではない。ポツダム宣言が受諾され停戦命令が発令された後の1945年9月5日に北方領土を占領している。しかも、日ソ中立条約の締結下である。米国の沖縄占領と、ソ連の北方四島占領は根本的に異なる。合法的に土地を得た者と犯罪によって土地を得た者で、同じ返還方法を採用することはできない。理屈が通じないからだ。そもそも、ロシア相手に「恩を売る」という概念は通用しない。

 それを物語る歴史的事実があるので、次に紹介したい。

 1941年、アメリカで「レンドリース法」が施行された。これは、ナチスと戦うソ連などに対して、戦車や戦闘機、弾丸などの武器弾薬や缶詰などの食糧、そして軍靴や軍服など戦争の遂行に必要なあらゆる物資を海上輸送して支援する法律だ。これによって、ソ連は国力を蓄えドイツに勝利することができた。問題なのは、その輸送経路である。実は、支援軍事物資のおよそ1750万トンのうち、824.4万トンが日本の領海を通過してソ連に届けられている。これは、大東亜戦争中のことだ。

 もちろん、使用された艦艇はアメリカの輸送艦であり、ソ連の輸送艦ではない。ソ連艦隊は、独ソ戦開戦当初にかの爆撃王ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの戦果が物語るように、ことごとく破壊されている。つまり、日本海軍が大東亜戦争中に、日本領海を通過するアメリカ輸送艦隊を一切攻撃していなかったという史実が浮き上がる。一体どのような理屈だったのだろうか。

 実は、1943年に帝国議会で、この「海軍がアメリカ艦隊を攻撃しない」という問題が紛糾しており、政府側が外務省条約局長に「ソ連旗ノ下ニソ連邦ガ軍事的目的ニ使用シ得ト認メラレルル物資ヲ輸送スル米国船ニ対シ帝国ノ執リ得ベキ措置ニ関スル法律上ノ意見」(1943年4月1日)という答弁をさせている。その内容は「船舶の積み荷で国籍は決まらない。その船の籍で国籍決まる」というもの。つまり、「積み荷がソ連の所有物なら日ソ中立条約が適用されてアメリカ艦隊でも攻撃できない」という海軍の方針に対して、政府が「そんなことはない。拿捕しろ」というやり取りがあったのだ。

 実際、当時の輸送任務に就いていたアメリカ軍人の回顧録を読むと、次のようなことが記録されている。

”When the Perouse strait was frozen, US ships traveled south of Kyushu and entered the Sea of Japan through the Tsushima Strait to reach Vladivostok.”
『宗谷海峡が凍っているとき、米輸送艦は南九州から対馬海峡を通過して日本海に入りウラジオストクに到着した』(出典:Blair Clay 『Silent Victory』 J.B.Lippincott 1975/訳:筆者)

 レンドリース法によるソ連行きアメリカ艦艇を日本海軍が攻撃した例は、伊180潜(艦長 藤田秀範大尉)が1944年4月19日にアラスカ湾で雷撃した撃沈した一件のみしかない。

 アメリカ政府は輸送艦のすべてに「Fresco Transport Group」というソヴィエト共産党の組織に所属しているという書類を持たせており、これで「アメリカ艦隊だけどそうではない」という理屈を主張し、それを日本海軍が受け入れていた。

 当時の情勢は、天皇の御前会議で「対ソ戦」が決定され関東軍特種大演習と称して開戦準備が進められていた中、海軍の反対からこれを頓挫させた経緯を持つ。海軍の親ソ姿勢は強いものであった。

 つまり、単純にレンドリース法の数字だけをみても、日本海軍の「対ソ支援協力」がなければソ連はドイツに勝つことは不可能であり、対独戦勝利に「貢献」した「恩」があった。しかし、ソ連はその恩をどのように返しただだろうか。日ソ中立条約の破棄に基づく対日侵略戦争であり、日本海軍の協力で得た武器弾薬を使って日本人を大量虐殺しているのである。そして、樺太や千島に上陸してこれを占領し、今日まで続く北方領土問題となっている。

 歴史的事実に鑑みれば、ロシアに「恩」という概念はない。にもかかわらず、令和の今日にあっても、政府はロシアの侵略戦争を名指し非難しないという不可思議な選択をしているのだ。一体何が目的なのだろうか。歴史に対する致命的な無知に由因する外交を改めるべきだ。

いまこそ日米安保「条約改正」を急げ

 次に、今般のウクライナ危機によって目指すべき日本の国益について論じたい。

 実は、衆議院が何らかの非難決議をする際、国際的な摩擦を避けるためにいつも「国名をなくしている」のかというと、そうではない。相手がミャンマー(2021年6月8日の非難決議)やシリアのテロリスト(2016年2月5日の非難決議)の場合は、具体的に名指しして非難している。しかし、なぜかロシアや中国となると、この勢いがなくなるのだ。

 過去、ソ連崩壊時やソ連高官が国外逃亡した際に流出した文書に、日本の政府高官や外交官とその家族、また大手新聞社の経営者がソ連の国益のために尽力していた様子が記録されていた事実も広く知られているが、そうした人々が令和の今もいるならば、迅速に特定して排除すべき絶好の機会が、このウクライナ危機にあると言えよう。

 幸いなことに、アメリカ合衆国のラーム・エマニュエル駐日大使は、「北方領土は日本国に帰属します」という米国の立場を明らかにしたビデオメッセージを日本国民に対して発表している。同盟国のアメリカは明らかに日本の国際貢献を求めている。では、日本は何をすべきであろうか。
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着任した米ラーム・エマニュエル駐日大使
 具体的には、ロシア軍がウクライナに侵攻した場合の経済制裁である。侵攻が開始された場合、米国と欧州連合(EU)は経済制裁を発動するため、日本もこれに足並みを揃えることが重要だ。また、ウクライナへの支援物質も必要になる。ドイツはヘルメットしか供給しなかったことで国際的に嘲笑されたが、何も送っていない日本がこれを笑うことはできない。

 しかし、ロシアは核兵器を持つ国だ。

 ロシアのプーチン大統領は2月7日、ウクライナ情勢に関連してフランスのマクロン大統領とモスクワで会談した際、「ロシアは核保有国の一つ。戦争が起きれば勝者はいない」と述べ、核攻撃も辞さない考えを明らかにして諸外国を威嚇している。

 そこで、このウクライナ危機に際して日本がとるべき道は、日米安保条約に「核報復義務」を盛り込む改正を米国に取り付けることである。米国は世界秩序の変更を望んでおらず、中国に対しても「ウクライナ情勢に乗じて国際秩序の変更を試みることは許されない」と強い語気で牽制している。しかし、そうはいっても日本に核兵器はないため、核攻撃されれば一巻の終わりである。よって、いくら米国の強い求めがあったとしても、経済制裁やウクライナ支援に及び腰となっても仕方がない側面があることも否定できない。

 なればこそ、米国が期待する国際秩序の維持に向けて全面協力(自衛隊の北方領土派兵を含む)を約束する代わりに、日米安保に核報復義務を盛り込む要求を米国にすべき時局である。結局、現状ではいくら日本が威勢の良いことをしたとしても、核攻撃をされれば、そのまま放置されるという残酷な現実が訪れる可能性は否定できない。そうならないため、米国の核を日本の核とする具体的約定が必要なのである。

 先日の非難決議から中国の国名を削除したのも、今回ウクライナ侵略問題で非難決議からロシアの国名を削除したのも、力なき者が国際社会で発言権を持たない現実を反映したものといえる。憲法改正をして自衛隊を国防軍にしたとしても、核兵器を持たない以上、その国際的立場が大きく変わるものではない。

 繰り返すが、ウクライナへの侵略は容認して、自国の北方領土の侵略に抗議するダブルスタンダードが許されるほど国際社会は甘くない。しかし、日本は不正に対抗するだけの力が現状ない。なればこそ、その「力」を最優先に獲得すべきなのである。

 日本は今こそ、ウクライナ危機に際して日米安保条約改正問題(核報復義務)に真摯に取り組むべきである。大戦争の足音が聞こえているのだから。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。令和3(2021)年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。

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