朝香豊:ファーウェイ・孟晩舟帰国~中国にしてやられたアメリカ

朝香豊:ファーウェイ・孟晩舟帰国~中国にしてやられたアメリカ

ファーウェイ疑惑とは

 カナダで拘束されていたファーウェイの副会長で最高財務責任者(CFO)である孟晩舟被告と米司法省との司法取引が成立した。孟氏が捕まったのはファーウェイが犯したアメリカの制裁違反事件と関係があるだが、基本的なところゆえに念のために確認しておきたい。

 2010年にファーウェイはアメリカの制裁を無視して、米ヒューレット・パッカードの電子機器製品をイランに販売していた。イランからすればどうしても欲しい製品なのだが、アメリカの厳しい圧力がある中ではイランに売ってくれるところがなかなかないため、ファーウェイは法外な値段でこうした製品を売りつけることに成功し、破格の利益を得たようだ。

 同様の取引をZTEもやったのだが、こちらはFBIに発覚した。イランがアメリカとの関係正常化交渉の中で、制裁期間中にイランと交易した中国企業リストの提出を求めたところ、ZTEの名前が出てきたのである。ZTEはアメリカから30億ドルの罰金を課された上に、アメリカの監査を受け入れることになった。

 そして監査を受け入れた中で、ファーウェイとイランの取引について記された文書が出てくるというハプニングがあった。発覚したZTEの文書には、ファーウェイだけに儲けさせるのではなく、自分たちも儲けようぜという話が書かれていたのだ。これにより、ファーウェイの違反行為も確定した。


 この取引において資金決済に使われたのが、イギリスの大手銀行であるHSBCである。ファーウェイは香港に設立した子会社のスカイ・コムを使って、ファーウェイの名前を出さずに取引を行なっていた。この取引についてファーウェイの最高財務責任者である孟氏を捕まえて取り調べれば、決定的なことがわかるはずだ。そのためアメリカ政府は、孟氏が飛行機の乗り換えでカナダの空港を利用した際に、カナダ政府に依頼して孟氏を拘束してもらい、アメリカへの引き渡しを求めたわけである。

安全保障に直結する疑惑の解明

 孟氏のアメリカへの引き渡しが妥当かどうかの審理がカナダで3年ほども続けられたが、ようやく審理は終了し、来月にも判決が下されることになっていた。

 仮に孟氏のアメリカへの引き渡しが実現されていれば、ヒューレット・パッカード製品のイランへの販売に関する疑惑だけでなく、ファーウェイの関わった様々な問題についての取り調べが行われたことは間違いない。

 ファーウェイは普通の民間企業ではなく、中国人民解放軍から無償で技術提供を受け、資金協力もなされてきた特別な存在だ。人民解放軍との共同プロジェクトを様々に行い、中国のサイバー戦能力などを支える軍事技術開発にも多大な貢献をしてきた。ファーウェイ製品にバックドアが仕組まれていることは様々に知られることとなり、トランプ政権はこうした危険のない通信機器のみで西側陣営をつなぐ「クリーンネットワーク」構想をぶち上げたほどだ。ファーウェイの持つ闇の部分の解明は西側の安全保障にとって極めて重大である。

 孟氏のアメリカへの引き渡しが実行されていれば、中国共産党の関わった様々な悪事を暴くことに貢献したことだろう。それゆえに中国共産党としては孟氏のアメリカへの引き渡しだけは何としてでも阻止せねばならないことであった。そのために中国にいたカナダ人2人を拘束し、人質にするようなことまで行われたわけである。
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ファーウェイは「一民間企業」ではない―

バイデンと習近平の電話会談

 そして審理終了のタイミングに合わせるかのように、アメリカのバイデン大統領と中国共産党の習近平総書記の間で電話会談が行われた。この中で孟氏のアメリカへの引き渡しを行わないことが約束されたらしいとの噂がある。そして実際にそんな噂話が実際にあったことを匂わせる矛盾したやり取りがこの司法取引では発生した。

 司法取引の文書では、ファーウェイがスカイコムを支配していたこと、ファーウェイがアメリカの対イラン制裁と輸出管理法に違反していたこと、HSBCに対してファーウェイとスカイコムの関係について虚偽の説明をしたことなどを孟氏は認め、これと異なる見解を表明しないことを約束した。つまり有罪を認め、署名を行った。これにより、孟氏の訴追は2022年後半まで延期され、約束が守られ続ければ訴追が取り下げられることもある形となった。米検察は「孟氏は訴追延期合意を結んだことで、世界的な金融機関をだます計画の実行で中心的な役割を果たした責任を認めた」と発表している。

 だが、アメリカの法廷にカナダからオンラインで出廷した孟氏は、この法廷上では罪状について無罪を主張したのである。無罪を主張しても、合意書に署名しているから内容は覆らないという理屈のようだが、無罪の主張を行ったまま孟氏の身柄が解かれたところに、理不尽な政治的決着があったことを疑ってしまうのである。
朝香豊:ファーウェイ・孟晩舟帰国~中国にしてやられたアメリカ

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「密約」アリ?

「してやられた」米国

 孟氏は身柄を解放されて中国政府が用意したチャーター機に乗り込み、機内でわざわざ赤いドレスに着替えて、深圳の空港に降り立った。このドレスは中国政府側が演出用に用意したものなのであろう。空港に降り立った孟氏は「習近平主席が国民一人の安危に関心を向けて私のことを考慮し、深い感動を受けた」「中国国民として一瞬も党と祖国、国民の愛と温かみを感じなかったことはない」と述べた。

 人民日報は「いかなる勢力も中国の発展を防ぐことはできない」という社説の中で「孟副会長の帰郷は党中央委の強力な領導と中国人民の大勝利」だと誇ってみせた。

 これに対して、米司法当局がファーウェイの犯罪を確定させた意義を評価する声もある。確かにアメリカの司法当局はこの合意文書を前提としたファーウェイの取り扱いを今後行っていくことになる。バイデン政権がいくら親中に舵を切ろうとしても、ファーウェイ制裁を緩めることは全くできなくなった。また中国のなりふり構わない姿勢に対する違和感が西側に広がったのも間違いない。特にカナダでは、これまでの割とやさしい対中姿勢が崩れて、中国に対する警戒感が圧倒的に強まった。こうした点で見れば、評価できる側面もないわけではない。

 それでも、孟氏のアメリカへの引き渡しを最終的には阻止し、中国の悪事が米司法当局の手で徹底的に暴かれるのを防いだという点では、中国はやはり「偉大な勝利」を収めたと言えるのではないか。アメリカでトランプ政権が継続していたなら、こんな結末を迎えなかったであろう。実に残念である。
※毎週火曜にお届けしていた『朝香豊の日本再興原論』の定期連載は、今回で終了です。朝香豊さんには今後は不定期にてご寄稿いただきます(編集部)。
朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』(ワック)が好評発売中。

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