5年もたってから抗議された「温泉むすめ」

 東日本大震災の後、東北復興を目的にした地域創生プロジェクトとして「温泉むすめ」という企画が立ち上がった。これは、温泉をモチーフにした美少女キャラクターとその声を担当する声優たちが、温泉地を盛り上げるべく、歌と踊りで人々に“笑顔と癒し”を与える「アイドル活動」を行うプロジェクトだ。企画は好調となり、やがて全国の温泉観光地にもこの美少女キャラクターが「観光大使」として起用され、観光産業のPR戦略の基幹となった。政府もこの動きに注目し、内閣府が企画会社「エンバウンド」を表彰し、「温泉むすめ」は観光庁の後援が付き、読売新聞やキヤノンなどの大手企業もスポンサーとなる盛り上がりを見せた。
橋本琴絵:行き過ぎ"フェミニズム"に中共の影

橋本琴絵:行き過ぎ"フェミニズム"に中共の影

地域創生プロジェクトとして盛り上がりを見せた「温泉むすめ」
 ところが、今月に入って突如として自称フェミニストらが「美少女キャラクターのイラストは性犯罪と地続きだ」という抗議活動を展開し始めた。この「温泉むすめ」という観光地PR戦略プロジェクトが開始されたのは2016年であるため、何故5年も経ってから突然抗議されるのか関係者らは当惑した。

 フェミニストらの主張は、美少女の絵は性的搾取にあたり、女性の基本的人権を侵害するというものであったが、ここで一つの違和感を覚えざるを得ない。というのも、ジェンダー平等やフェミニズムとは「実在の女性の権利」を保護する概念であって、非実在・架空の描画は法律上「権利の主体」とはなり得ないため、フェミニズムやジェンダー平等の対象には含まれないことは自明の理であるからだ。誰であっても、「ジェンダー平等を守れ」と言いつつ、日照権侵害を訴えたならば強い違和感を覚えることであろう。それと同じ類のことであった。

 実は、こうした「フェミニズムを自称した活動家が抗議する」という図式は、前述した「温泉むすめ」だけではない。過去には、多種多様な抗議が為された。例えば、カルボウ、セゾンカード、サンヨー食品、JR東日本、日本赤十字社、アツギ(繊維)、千葉県警などがここ数年で標的とされている。

 これらは一見するとすべて同じ抗議活動であると思われがちであるが、実は全く違う。

「ジェンダー平等」に反する表現とは

 広告表現が「ジェンダー平等に反する」とフェミニズムの立場からみなされるには、いくつかの要件がある。それは、性による役割の固定化、過度の性的表現、女性の容姿の美醜を固定概念化するものである。順番にみていこう。

 第一の「性による役割の固定化」では、サンヨー食品の「サッポロ一番」の広告で、母親がインスタントラーメンをつくる描写があり、これが抗議対象となった。インスタントラーメンの作り手は男女どちらの場合もあり得るものであるから、あえて母親に限定すべき理由は無いというものであった。

 第二の「過度の性的表現」とは、1991年に当時のトップアイドル宮沢りえ氏が18才でヌード写真集を出版した『サンタフェ』の広告が、朝日・読売など一般紙の朝刊広告で上半身の半裸と「乳首」を印刷して表現したことがあった。こうした、不特定多数が閲覧する新聞広告における性的表現は制限されるべきである、という立場だ。

 第三の「女性の容姿の美醜」は、カネボウ化粧品の広告フレーズ「生きるために化粧をする」という表現が、容姿の美醜を過度に要求していると見做されて抗議の対象となった。

 賛否両論はあるにしろ、これらの抗議活動は実在する女性の権利を保護しようとする目的があり、伝統的価値観とは真っ向に対立するものの、一応ジェンダー論の筋としては道を外れていない。

 しかし、問題となるのは前述した「描画に対する抗議」である。そこで、次に描画を広告表現として採用した日本赤十字社、千葉県警、JR東日本、アツギ(繊維メーカー)の例を挙げてみたく思う。

 赤十字社は献血募集広告で、非実在の女性描画を起用したところ、フェミニストらは「献血反対運動」まで始めた。また、千葉県警が交通安全PRに非実在描画を起用したことに対して全国フェミニスト議連が「性犯罪誘発の懸念」と抗議した(参考記事)。次に、JR東日本の案内画面に女性描画が採用されたことや、アツギ(繊維)についても同趣旨の抗議が為された。これらと他は何が違うのだろうか。
橋本琴絵:行き過ぎ"フェミニズム"に中共の影

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主婦が料理する広告などは「役割の固定化」として抗議の対象となりやすい

新竹県(台湾)の観光大使になってから抗議活動が

 前述した「温泉むすめ」は、今まで日本各地の温泉PRをしていたが、実は新しく「中華民国(台湾)新竹県」の政庁から、公式に観光大使に任命されていたつまり、「台湾を国とは認めない」という国家からしてみれば、重大な政治的事件であるとみなされる理由があった。このような立場からみると、先の例にあげた「描画」に対する抗議活動の対象は、献血・治安維持・運輸・繊維である。すなわち、防衛政策上、極めて重要な分野に限定されていることが分かる。

 戦時下においては負傷者の増加から血液が当然に不足することが予想される。そこで、事前に「献血を止めよう」というプロバガンダをしておけば、国民精神に影響して相手国の治療能力の低下が見込まれる。また、警察などの治安組織に対するイメージダウンは、治安維持能力に影響しないとはいえない。旅客運送や繊維も、戦時に於いては兵員・物資輸送や軍服・被服など重要な役割を果たす。

 一見すると無関係であり「考えすぎではないか」といった意見も当然あるだろう。しかし、直接的な戦争の前に、現代戦では相手国に対して政治的な浸透作戦が執行されることが既に周知の事実となっている。

 先月10月、フランス国防省傘下のフランス軍事学校戦略研究所は、「中国の影響力作戦」と題する特別調査報告書を一般公開した。その内容とは、仏領ニューカレドニアと日本国沖縄県において中華人民共和国人民解放軍が既に「軍服を着ていない将兵」を派兵し、現地の反政府活動をあらゆる面で支援しているという驚愕すべき内容であった。具体的に、沖縄在日米軍に対するテロ活動や、憲法第9条の護憲運動に対する支援作戦であった。
橋本琴絵:行き過ぎ"フェミニズム"に中共の影

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台湾・新竹県温泉大使に任命された「温泉むすめ」の尖石内湾(ぜんしぃ ねいわん)

進む中共のサイレント・インベージョン

 これらの活動は、今に始まったものではない。十数年前から少しずつ盛り上がりをみせている。つまり、浸透作戦が可視化されるには十数年の歳月を要したということであり、作戦が開始された直後はそれこそ軍事機密として公には明らかにされないという性質をもっていたと言えよう。

 こうした観点から、「描画」という本来的にフェミニズムの対象とはなり得ないものに対して執拗に抗議をし、かつ5年間も問題視されなかった「温泉むすめ」が今になって突如として抗議対象とされた背景がうっすらと見えてくる。それは「台湾の観光大使に任命された」という政治的事実である。当の日本人にしてみれば、「ただの観光大使」と思うかもしれないが、中国共産党の政治方針にしてみれば重大な「国土侵犯の政治工作」と受け取られても違和感はない。そこで、中華人民共和国の軍事作戦として「抗議宣伝活動」が始まったとしても、合理的に説明がつく。

 現代における戦争とは、必ずしも銃や大砲を使うとは限らない。情報とプロバガンダの応報から既に始まっているのだ。形而下の侵略のみに気を取られて、形而上の侵略を放置する不作為は許されない。敵国の兵士は軍服を着ておらず、敵国の国籍すらないのである。私たちは毅然とした姿勢で侵略に対して立ち向かわなければならないことであろう。
橋本 琴絵(はしもと ことえ)
昭和63年(1988)、広島県尾道市生まれ。平成23年(2011)、九州大学卒業。英バッキンガムシャー・ニュー大学修了。広島県呉市竹原市豊田郡(江田島市東広島市三原市尾道市の一部)衆議院議員選出第五区より立候補。日本会議会員。
2021年8月にワックより初めての著書、『暴走するジェンダーフリー』を出版。

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