【湯浅博】CIAが注視する日本の技術流出

【湯浅博】CIAが注視する日本の技術流出

 彼ら日本人研究者たちは、研究内容でも、心情的にも、「祖国」というものを意識しないのだろうか。中国はこれまでも、日本の新幹線技術という知的財産を入手し、そっくりマネして「中国固有の技術だ」と偽ってきた。挙句にこれを世界に売り込み、日本の新幹線輸出を敗北に追い込んできた。

 たとえそれが、輸出規制の対象であったとしても、彼らは手段を選ばない。まして、すべての技術は軍事転用される余地がある。日本人研究者は単なるお人よしなのか、損得勘定なのか、そんな相手の日中友好のささやきに幻惑され、共同研究という名の技術流出に手を染めている。

 日本の国公私立大学の45大学が、中国人民解放軍のために軍事技術を提供している中国の7つの大学と学術交流していたとの調査報道には愕然とさせられた。北京航空航天大学など7大学は、国防産業を統括する中国工業情報省の傘下にあり、「国防7子」と呼ばれている。

 これと学術交流しているのだから、祖国に対して弓を引いているに等しい。日本という祖国に対する国家反逆行為であり、あちら中国では処罰の対象になるだろう。45大学のうちの9大学に、北海道大学のナノテクノロジーや大阪大学の原子核などで、共同研究の実績があることが明らかになったのだ。

 もう10年以上も前に、アメリカ情報機関CIA(中央情報局)が、この大阪大学の研究者の危険な動向をかぎ分けていたことがあった。当時、人を介してCIAから「レーザー核融合」などに関する研究シンポジウムの英文資料を入手したことがある。

 当時のアメリカは、日本のレーザー技術が合法的に中国に流出していくことを最も恐れていた。レーザー技術はその九五%が軍事技術として転用可能で、使い方によっては極めて物騒なシロモノだったからだ。

 このシンポジウムの会議事務局に当たる「大阪大学レーザーエネルギー学研究センター」には、日本最大級の核融合施設があり、90年に太陽の中心密度の4倍という核融合の世界記録を持っていた。日中間で数年の共同研究を進めてきており、2007年に第1回シンポジウムが開催されていた。

 英文資料は和歌山県・南紀白浜のリゾートホテルで、日本と中国の研究者が集中討議する会議資料であった。驚いたことに、それを日本有数のレーザー研究者12人と中国のレーザー専門家7人が報告書をCD-ROMにして交換し、議論することになっていた。当時、CIAや日本の軍事専門家は、「報告書を交換するなんて非常識だ。レーザー核融合に関する技術の流出になる」と警戒していた。

 このときは、参加予定だった中国側の中心的な研究者4人が、あの四川大地震の震源地に近い四川省綿陽市のレーザー核融合研究所に所属していたからだ。この研究所を含む綿陽市郊外の研究施設群は、アメリカで言えば原爆開発で有名なロスアラモス国立研究所に該当し、限りなく人民解放軍の軍事施設に近い。

 大地震の発生当時から、核弾頭製造の複合施設である暗号名「プラント821」が破壊されたのではないかとの観測があった。このときの中国が、高度のレーザー技術を渇望していたことは、安全保障の専門家で知らない人はいない。

 とりわけ、アメリカ国内では、中国の工作員が大量動員され、アメリカのレーザー技術などの先端技術を物色していた時期だ。

 アメリカでスパイ活動を阻止できても、日本から漏れてしまっては話にならない。CIAの日本ステーションが興味を抱くのは当然であった。

 レーザー技術はなおさらで、「中国製」の偽称技術が軍事転用され、当該兵器が日本に照準を合わせてきたらブラックユーモアでは済まない。彼らは沖縄県の尖閣諸島をスキあらば奪い取ろうと、中国公船を周辺海域に侵入させている。南シナ海のすべてを「中国の海」として沿岸国の船を蹴散らし、台湾に軍事圧力を加える軍事大国である。

 中国人民解放軍に軍事技術を提供している例の「国防7子」の大学のうち、4大学がアメリカ政府によって禁輸対象に指定されている。日本の大学が彼らとの共同研究に関われば、アメリカの制裁対象になるリスクもある。

 研究内容に国境はないが、研究者には祖国があるはずである。

 先端技術と安全保障のすり合わせは、一刻一秒を争うレベルにある。
湯浅 博(ゆあさ ひろし)
1948年、東京生まれ。中央大学法学部卒業。プリンストン大学Mid-Career Program修了。産経新聞ワシントン支局長、シンガポール支局長を務める。現在、国家基本問題研究所主任研究員。著書に『覇権国家の正体』(海竜社)、『吉田茂の軍事顧問 辰巳栄一』(文藝春秋)など。最新作に『アフターコロナ 日本の宿命 世界を危機に陥れる習近平中国』(ワック)。

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