死者数は10倍か
中国では、静かな〝政変〟が進んでいるのかもしれない。
日本で緊急事態宣言が出された直後の4月8日午前零時、76日ぶりに武漢市の封鎖が解除。市民は歓声を上げ、ライトアップされたビルには「英雄の都市」「英雄の人民」「白衣の天使」といった文字が浮かび上がりました。
しかし、少なからぬ市民のとった行動は、武漢からの「脱出」でした。封鎖解除直前の4月7日午後11時には、高速道路の料金所に長蛇の車列ができ、市境の「関所」にも市民が殺到。列車の予約状況などから10万人近くが武漢を離れたといわれ、武漢以外での感染再爆発が懸念されています。
3月23日には、新型肺炎で亡くなった人の遺骨返還が始まりました。ところが、遺骨が多すぎて探すのに時間がかかるため5、6時間待たされた遺族もいるとか。
返還が行われたのは、4月4日までの13日間。会場となる葬儀場は武漢市内に8つあり、そのうちの一つ、武口葬儀場では1日約500件、13日間で約6000件を返還。各葬儀場で差があるにせよ、単純計算(6000件×8カ所)すれば48,000人が亡くなったことになります。
経済学者のなかには、封鎖前に亡くなりすでに葬儀が行われた人、火葬ではなく土葬された人、医療崩壊が原因で亡くなった人などを含めれば、死者は59,000人だと推計する人も。いずれにせよ、死者数は公式発表された2500人強の10倍程度と考えるのが妥当でしょう。
※注:各数字は雑誌掲載時(2020年4月中旬)の状況となります。
〝コロナ後〟の中国は、食糧難に陥る可能性があります。国内ではコメや油の買い占めが頻発。というのも、当局は「備蓄がある」「わが国の食糧自給率は9割超え」と言いながら、ウラで各地の共産党員に市民のために食糧を備蓄するよう要請を出しているのです。すると共産党員は、食糧価格の急騰を恐れて買い占めを行う。それを見た市民はパニックを起こしています。
実際にコメの輸出量第1位のインドと第3位のベトナムが、国内需要を優先して輸出を禁止しました。第2位のタイも、国内では需要増から価格が急騰している。
さらに米国での新型コロナウイルス蔓延のせいで、輸入されるはずだった農産物も大幅減するかもしれません。豚コレラの影響で豚肉の価格は倍近くになり、代替品とされる鶏肉その他、肉の価格も3~8割近く上がっています。しかし景気はコロナ前から後退していて、国民の給料は上がっていない。
生活がひっ迫しているなか、当局の発表と現実の乖離に、4500万人が餓死したとされる大躍進政策を思い出す人も少なくありません。あの頃も当局は「大豊作だ」と喧伝(けんでん)していました。
日本で緊急事態宣言が出された直後の4月8日午前零時、76日ぶりに武漢市の封鎖が解除。市民は歓声を上げ、ライトアップされたビルには「英雄の都市」「英雄の人民」「白衣の天使」といった文字が浮かび上がりました。
しかし、少なからぬ市民のとった行動は、武漢からの「脱出」でした。封鎖解除直前の4月7日午後11時には、高速道路の料金所に長蛇の車列ができ、市境の「関所」にも市民が殺到。列車の予約状況などから10万人近くが武漢を離れたといわれ、武漢以外での感染再爆発が懸念されています。
3月23日には、新型肺炎で亡くなった人の遺骨返還が始まりました。ところが、遺骨が多すぎて探すのに時間がかかるため5、6時間待たされた遺族もいるとか。
返還が行われたのは、4月4日までの13日間。会場となる葬儀場は武漢市内に8つあり、そのうちの一つ、武口葬儀場では1日約500件、13日間で約6000件を返還。各葬儀場で差があるにせよ、単純計算(6000件×8カ所)すれば48,000人が亡くなったことになります。
経済学者のなかには、封鎖前に亡くなりすでに葬儀が行われた人、火葬ではなく土葬された人、医療崩壊が原因で亡くなった人などを含めれば、死者は59,000人だと推計する人も。いずれにせよ、死者数は公式発表された2500人強の10倍程度と考えるのが妥当でしょう。
※注:各数字は雑誌掲載時(2020年4月中旬)の状況となります。
〝コロナ後〟の中国は、食糧難に陥る可能性があります。国内ではコメや油の買い占めが頻発。というのも、当局は「備蓄がある」「わが国の食糧自給率は9割超え」と言いながら、ウラで各地の共産党員に市民のために食糧を備蓄するよう要請を出しているのです。すると共産党員は、食糧価格の急騰を恐れて買い占めを行う。それを見た市民はパニックを起こしています。
実際にコメの輸出量第1位のインドと第3位のベトナムが、国内需要を優先して輸出を禁止しました。第2位のタイも、国内では需要増から価格が急騰している。
さらに米国での新型コロナウイルス蔓延のせいで、輸入されるはずだった農産物も大幅減するかもしれません。豚コレラの影響で豚肉の価格は倍近くになり、代替品とされる鶏肉その他、肉の価格も3~8割近く上がっています。しかし景気はコロナ前から後退していて、国民の給料は上がっていない。
生活がひっ迫しているなか、当局の発表と現実の乖離に、4500万人が餓死したとされる大躍進政策を思い出す人も少なくありません。あの頃も当局は「大豊作だ」と喧伝(けんでん)していました。
共産党内の不協和音
習近平はメディアに対し、「感動的な話を報道せよ」などとポジティブなことのみを報道するよう指示を出し、〝洗脳報道〟を続けています。しかし中国人は共産党のやり方に慣れている。反対に国民は「隠された真実があるはずだ」と不安になり、洗脳報道は失敗しています。
だからこそ習近平は各国にマスクや人工呼吸器を送り、中国を問題解決の英雄に仕立て上げる対外プロパガンダに必死なのです。
習近平は〝ウイルスなき武漢〟を喧伝するため2月3日、企業へ「再稼働」を指示。3月27日まで、同じ指示を60回近く繰り返しています。多くの企業は習近平の言うことを聞かない、いや再稼働したくてもできない状況です。
中国の工場は世界のサプライチェーン(供給網)の一つ。各国の経済活動が止まっているので、必要な部品も届かなければ、仮に製品が完成しても輸出できないものも多い。再稼働しているかどうかは電気の消費量で調べられるので、機械だけ動かして誤魔化しているところもあります。
一方、首相の李克強は再稼働指示が出た日に、「専門家たちはこの感染症が、かつてのSARS(重症急性呼吸器症候群)のように突然終息する可能性は低いとみている」と語り、慎重姿勢を崩していません。もちろん、習近平が春節や外遊日程に影響を与えないよう「早期の終息」を指示したのも知っている。だから地方から上がってくる数字にも疑問を抱いているのです。
いったい、2人の違いはどこから来るのか──。一部では終息を宣伝する習近平、国民を落ち着かせる李克強、2人が役割分担していると深読みする向きもあります。しかし純粋に、共産党内で方向性のズレが生じていると考えるのが妥当でしょう。その空気は国民も感じ取り、さまざまな〝噂〟が飛び交っています。
たとえば3月5日、中国軍の戦闘機が天津市武清区に墜落したという情報が、動画とともに拡散されました。武清区はなぜか飛行機がよく墜落する地域で、軍の飛行場もある。その後、上海や北京では民間機の飛行が一斉にキャンセルされました。
「誰かが亡命しようとしたところをミサイルで撃墜した」「反乱を起こした人民解放軍の戦闘機が撃墜された」「習近平暗殺未遂」などと憶測を呼び、「反腐敗キャンペーンで習近平が党籍をはく奪した郭伯雄・元中央軍事委員会副主席の息子の郭正鋼が、父の仇を狙った」というもっともらしい話まで出てきたのです。
多くの人はデマだと思っていますが、戦闘機墜落の噂が流れ、厳しい航空管制が敷かれていたという「現実」を前に「クーデター説」が出てくること自体、共産党内部の動揺を感じさせます。
2月下旬には、衝撃的な習近平批判論文が米国の中国語サイト「中国デジタル時代」に掲載されました。タイトルは、「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみつく道化」。執筆したのは、任志強という人物です。
彼の名を覚えている方もいるでしょう。彼は2016年、習近平が中央メディアに「党の代弁者であれ」と要請したことを痛烈に批判。これは「十日文革」と呼ばれ、蜜月だった王岐山と習近平の関係に亀裂を入れたといわれます。
だからこそ習近平は各国にマスクや人工呼吸器を送り、中国を問題解決の英雄に仕立て上げる対外プロパガンダに必死なのです。
習近平は〝ウイルスなき武漢〟を喧伝するため2月3日、企業へ「再稼働」を指示。3月27日まで、同じ指示を60回近く繰り返しています。多くの企業は習近平の言うことを聞かない、いや再稼働したくてもできない状況です。
中国の工場は世界のサプライチェーン(供給網)の一つ。各国の経済活動が止まっているので、必要な部品も届かなければ、仮に製品が完成しても輸出できないものも多い。再稼働しているかどうかは電気の消費量で調べられるので、機械だけ動かして誤魔化しているところもあります。
一方、首相の李克強は再稼働指示が出た日に、「専門家たちはこの感染症が、かつてのSARS(重症急性呼吸器症候群)のように突然終息する可能性は低いとみている」と語り、慎重姿勢を崩していません。もちろん、習近平が春節や外遊日程に影響を与えないよう「早期の終息」を指示したのも知っている。だから地方から上がってくる数字にも疑問を抱いているのです。
いったい、2人の違いはどこから来るのか──。一部では終息を宣伝する習近平、国民を落ち着かせる李克強、2人が役割分担していると深読みする向きもあります。しかし純粋に、共産党内で方向性のズレが生じていると考えるのが妥当でしょう。その空気は国民も感じ取り、さまざまな〝噂〟が飛び交っています。
たとえば3月5日、中国軍の戦闘機が天津市武清区に墜落したという情報が、動画とともに拡散されました。武清区はなぜか飛行機がよく墜落する地域で、軍の飛行場もある。その後、上海や北京では民間機の飛行が一斉にキャンセルされました。
「誰かが亡命しようとしたところをミサイルで撃墜した」「反乱を起こした人民解放軍の戦闘機が撃墜された」「習近平暗殺未遂」などと憶測を呼び、「反腐敗キャンペーンで習近平が党籍をはく奪した郭伯雄・元中央軍事委員会副主席の息子の郭正鋼が、父の仇を狙った」というもっともらしい話まで出てきたのです。
多くの人はデマだと思っていますが、戦闘機墜落の噂が流れ、厳しい航空管制が敷かれていたという「現実」を前に「クーデター説」が出てくること自体、共産党内部の動揺を感じさせます。
2月下旬には、衝撃的な習近平批判論文が米国の中国語サイト「中国デジタル時代」に掲載されました。タイトルは、「化けの皮がはがれても皇帝の座にしがみつく道化」。執筆したのは、任志強という人物です。
彼の名を覚えている方もいるでしょう。彼は2016年、習近平が中央メディアに「党の代弁者であれ」と要請したことを痛烈に批判。これは「十日文革」と呼ばれ、蜜月だった王岐山と習近平の関係に亀裂を入れたといわれます。
クーデターを求める檄文
任志強は不動産企業「華遠地産」の会長で、中学時代の家庭教師は王岐山国家副主席。王との関係を盾に政治にも言いたい放題で、「中国のトランプ」との異名を持ちます。また父の任泉生も元商務副部長で、「紅二代」(毛沢東と共産革命に参加した指導部の子弟)でもある。
十日文革のときに党籍をはく奪されかけましたが、王との関係と紅二代という理由で回避。その後、表舞台からは退き隠居生活を送っていました。今回、その任志強が再び習近平の〝文革体質〟を痛烈に批判したのです。なかには、こんな表現も──。
「あそこに立っているのは、自分の新しい衣服を見せびらかそうとしている皇帝でもなく、衣服すら脱ぎ捨てても皇帝の地位にしがみつく道化である。自分が丸裸であるという現実を隠すために、恥部を隠す布切れを1枚、1枚掲げてみせるが、自ら皇帝の野心にしがみついていることは一切隠さない。私が皇帝になるわけではないが、あなたを滅亡させる決心はしている」
「遠くない将来、執政党はこの種の愚昧の中で覚醒し、もう一度〝打倒四人組〟運動を起こし、もう一度、鄧小平式の改革を起こし、この民族と国家を救うかもしれない」
〝打倒四人組〟運動とは、文化大革命を主導し、毛沢東の死後も文革路線を堅持しようとした江青、張春橋、姚文元、王洪文の4人を、周恩来派が電撃逮捕した政変のこと。文革を終結させ、鄧小平による改革開放路線へ進む分岐点となりました。つまり任志強の論文は、クーデターを呼び掛ける〝檄文〟だったのです。
論文が公表されたあと任志強は〝失踪〟しますが、4月7日に北京市の規律検査委員会が規律違反の容疑で取り調べ中であることを確認しています。
十日文革のときに党籍をはく奪されかけましたが、王との関係と紅二代という理由で回避。その後、表舞台からは退き隠居生活を送っていました。今回、その任志強が再び習近平の〝文革体質〟を痛烈に批判したのです。なかには、こんな表現も──。
「あそこに立っているのは、自分の新しい衣服を見せびらかそうとしている皇帝でもなく、衣服すら脱ぎ捨てても皇帝の地位にしがみつく道化である。自分が丸裸であるという現実を隠すために、恥部を隠す布切れを1枚、1枚掲げてみせるが、自ら皇帝の野心にしがみついていることは一切隠さない。私が皇帝になるわけではないが、あなたを滅亡させる決心はしている」
「遠くない将来、執政党はこの種の愚昧の中で覚醒し、もう一度〝打倒四人組〟運動を起こし、もう一度、鄧小平式の改革を起こし、この民族と国家を救うかもしれない」
〝打倒四人組〟運動とは、文化大革命を主導し、毛沢東の死後も文革路線を堅持しようとした江青、張春橋、姚文元、王洪文の4人を、周恩来派が電撃逮捕した政変のこと。文革を終結させ、鄧小平による改革開放路線へ進む分岐点となりました。つまり任志強の論文は、クーデターを呼び掛ける〝檄文〟だったのです。
論文が公表されたあと任志強は〝失踪〟しますが、4月7日に北京市の規律検査委員会が規律違反の容疑で取り調べ中であることを確認しています。
経済界の鬱憤
3月下旬には、ネット上で「緊急中央政治局拡大会議招集の提案書」なるものが拡散されました。これは陽光衛星テレビ集団(香港SUNテレビ)主席の陳平が中国のSNSで転載した公開書簡です。
内容は「新型肺炎により中国経済と国際情勢が厳しくなったことを鑑み、習近平が国家主席、党総書記の職務を継続することが適切か否か討論する『政治局緊急拡大会議』を開くべき」というもの。もちろん、背景には新型肺炎だけでなく、米中貿易戦争、香港デモなどの失政があります。
書簡を公開した陳平は香港在住ですが、任志強と同じ紅二代の開明派。父親は習近平の父・習仲勲の部下で、習近平とは40年来の付き合いといわれます。1984年には王岐山とともに、改革開放を一気に推し進めた莫干山会議を組織しました。
陳氏は提案書について、「自分が書いたわけではないが、党内でこの意見に賛同するものは少なくない」とまで語っています。習近平の独裁路線を評価することは、共産党史のなかでも極めて重要な第11期三中全会(華国鋒が失脚、鄧小平が権力を掌握)より歴史的意義があるという声すらある。
任志強と陳平に共通しているのは、紅二代の実業家だということです。経済界は新型肺炎でも大打撃を受けている。彼らの気持ちを、怖いもの知らずの任志強と香港にいる陳平が代弁しているのです。
さらに王岐山と陳平は、鄧小平の下で改革開放の実務を推進してきた、いわば「鄧小平チルドレン」という認識を持っています。だから毛沢東時代へと〝逆走〟する習近平の反鄧小平路線は好ましく思っていない。王岐山の関与が噂されていた企業集団、海南航空集団は国有化されるなど、習近平によって利権も奪われています。
彼らが求めているのは、王岐山・李克強・汪洋(前副首相)が手を組み、共産党を立て直すこと。この3人は実務能力が高く、特に王岐山は北京市長代理としてSARSの沈静化に成功、経済官僚としてもアジア金融危機やリーマンショックなど中国の危機を何度も救い、「消防隊長」の異名を持つほどです。
内容は「新型肺炎により中国経済と国際情勢が厳しくなったことを鑑み、習近平が国家主席、党総書記の職務を継続することが適切か否か討論する『政治局緊急拡大会議』を開くべき」というもの。もちろん、背景には新型肺炎だけでなく、米中貿易戦争、香港デモなどの失政があります。
書簡を公開した陳平は香港在住ですが、任志強と同じ紅二代の開明派。父親は習近平の父・習仲勲の部下で、習近平とは40年来の付き合いといわれます。1984年には王岐山とともに、改革開放を一気に推し進めた莫干山会議を組織しました。
陳氏は提案書について、「自分が書いたわけではないが、党内でこの意見に賛同するものは少なくない」とまで語っています。習近平の独裁路線を評価することは、共産党史のなかでも極めて重要な第11期三中全会(華国鋒が失脚、鄧小平が権力を掌握)より歴史的意義があるという声すらある。
任志強と陳平に共通しているのは、紅二代の実業家だということです。経済界は新型肺炎でも大打撃を受けている。彼らの気持ちを、怖いもの知らずの任志強と香港にいる陳平が代弁しているのです。
さらに王岐山と陳平は、鄧小平の下で改革開放の実務を推進してきた、いわば「鄧小平チルドレン」という認識を持っています。だから毛沢東時代へと〝逆走〟する習近平の反鄧小平路線は好ましく思っていない。王岐山の関与が噂されていた企業集団、海南航空集団は国有化されるなど、習近平によって利権も奪われています。
彼らが求めているのは、王岐山・李克強・汪洋(前副首相)が手を組み、共産党を立て直すこと。この3人は実務能力が高く、特に王岐山は北京市長代理としてSARSの沈静化に成功、経済官僚としてもアジア金融危機やリーマンショックなど中国の危機を何度も救い、「消防隊長」の異名を持つほどです。
習近平、2022年引退説
そんななか4月3日、中央メディアからある映像が流されました。同日行われた植樹祭で、習近平と王岐山が微笑みながら食事をともにしている映像です。
中国でメディアが流す映像は、すべて政治的なシグナル。多くの人は任志強問題で何か駆け引きがあったのではないか、そして習近平と王岐山の関係が雪解けしたと推測しています。いったい、どんな和解があったのか──。
最も可能性があるのは、次の説です。
王岐山、汪洋、朱鎔基ら長老が手を組み、習近平に任志強の釈放と、習近平自身の退陣を迫った。習近平は〝終身制〟を放棄し、李強(上海書記)と胡春華(副首相)を後継者に認定。秋の五中全会(※注)で二人が政治局中央委員入りし、2022年の第20回党大会でそれぞれ総書記と首相に内定している。
習近平の終身制をやめさせようとする動きは、昨年からありました。内部でも、「失政続きの習近平独裁を放置すれば中国は混乱し、弱体化する一方だ。果ては共産党体制の崩壊につながる」という危機感を持つ人が少なくなかった。識者のなかにも、体制変革といった強硬な政治改革を求める声もあります。
鄧小平チルドレンの長老たちは、それを何としてでも避けたい。だからこそ、党内の自浄作用で集団指導体制に戻すべく習近平に迫ったのではないか、というわけです。
その代わり、文化大革命を知らない若い指導者──習近平の浙江省書記時代の部下である李強を総書記に、首相には頭のキレる胡春華を置く。反腐敗キャンペーンなどで政敵を失脚させ、引退後の報復を恐れる習近平にとっては悪くない人選です。
コロナ前から習近平の立場は揺らいでいました。冗談半分で、「国賓来日後、帰国したら失脚している」と言われていたほど。王岐山に迫られ、引退の口約束くらいしていても驚きません。
もちろん、噂は一種の情報戦であり、世論誘導戦でもあります。任志強は一時釈放の噂が流れたあと、4月7日に北京市の規律検査委員会がそれを否定した。
党内人事をめぐる激しい攻防が続くでしょう。 注目は今秋の五中全会。先述したとおり、李強と胡春華が政治局常務委員に選出されれば、2022年の習近平引退が現実となる可能性があります。
ウイルスに国境はない。感染症はわれら共同の敵。各国は手を取り合って立ち上がり、最も厳密な共同防衛ネットワークをつくらねばならない──。習近平は3月26日のG20テレビ会談でこう語りました。
〝コロナ後〟の世界は対立が解消され、米中が手を取り合う〝G2時代〟が到来するとでも思っているのでしょうか。仮にそうだとしても、国際社会の極を担うのは「習近平の中国」ではないかもしれません。いや、「共産党政権の中国」という保証すらないのです。
※注 中央委員会第5回全体会議。中国共産党は5年に一度の党大会で選出する中央委員による全体会合を年に1回程度開き、党大会の職権を代行して重要政策や人事を決定。第5回会議では経済政策の基本方針を定める5カ年計画を審議・採択する
中国でメディアが流す映像は、すべて政治的なシグナル。多くの人は任志強問題で何か駆け引きがあったのではないか、そして習近平と王岐山の関係が雪解けしたと推測しています。いったい、どんな和解があったのか──。
最も可能性があるのは、次の説です。
王岐山、汪洋、朱鎔基ら長老が手を組み、習近平に任志強の釈放と、習近平自身の退陣を迫った。習近平は〝終身制〟を放棄し、李強(上海書記)と胡春華(副首相)を後継者に認定。秋の五中全会(※注)で二人が政治局中央委員入りし、2022年の第20回党大会でそれぞれ総書記と首相に内定している。
習近平の終身制をやめさせようとする動きは、昨年からありました。内部でも、「失政続きの習近平独裁を放置すれば中国は混乱し、弱体化する一方だ。果ては共産党体制の崩壊につながる」という危機感を持つ人が少なくなかった。識者のなかにも、体制変革といった強硬な政治改革を求める声もあります。
鄧小平チルドレンの長老たちは、それを何としてでも避けたい。だからこそ、党内の自浄作用で集団指導体制に戻すべく習近平に迫ったのではないか、というわけです。
その代わり、文化大革命を知らない若い指導者──習近平の浙江省書記時代の部下である李強を総書記に、首相には頭のキレる胡春華を置く。反腐敗キャンペーンなどで政敵を失脚させ、引退後の報復を恐れる習近平にとっては悪くない人選です。
コロナ前から習近平の立場は揺らいでいました。冗談半分で、「国賓来日後、帰国したら失脚している」と言われていたほど。王岐山に迫られ、引退の口約束くらいしていても驚きません。
もちろん、噂は一種の情報戦であり、世論誘導戦でもあります。任志強は一時釈放の噂が流れたあと、4月7日に北京市の規律検査委員会がそれを否定した。
党内人事をめぐる激しい攻防が続くでしょう。 注目は今秋の五中全会。先述したとおり、李強と胡春華が政治局常務委員に選出されれば、2022年の習近平引退が現実となる可能性があります。
ウイルスに国境はない。感染症はわれら共同の敵。各国は手を取り合って立ち上がり、最も厳密な共同防衛ネットワークをつくらねばならない──。習近平は3月26日のG20テレビ会談でこう語りました。
〝コロナ後〟の世界は対立が解消され、米中が手を取り合う〝G2時代〟が到来するとでも思っているのでしょうか。仮にそうだとしても、国際社会の極を担うのは「習近平の中国」ではないかもしれません。いや、「共産党政権の中国」という保証すらないのです。
※注 中央委員会第5回全体会議。中国共産党は5年に一度の党大会で選出する中央委員による全体会合を年に1回程度開き、党大会の職権を代行して重要政策や人事を決定。第5回会議では経済政策の基本方針を定める5カ年計画を審議・採択する
福島 香織(ふくしま かおり)
1967年、奈良県生まれ。大阪大学卒業後、産経新聞社に入社。文化部、社会部などを経て、香港支局長、北京特派員、政治部記者を歴任。2009年からフリージャーナリストとして主に中国の政治、社会、経済などをカバーしている。著書に『日本は再びアジアの盟主になる』(宮崎正弘・石平共著、宝島社)、『米中の危険なゲームが始まった』(ビジネス社)、『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)など多数。
1967年、奈良県生まれ。大阪大学卒業後、産経新聞社に入社。文化部、社会部などを経て、香港支局長、北京特派員、政治部記者を歴任。2009年からフリージャーナリストとして主に中国の政治、社会、経済などをカバーしている。著書に『日本は再びアジアの盟主になる』(宮崎正弘・石平共著、宝島社)、『米中の危険なゲームが始まった』(ビジネス社)、『本当は日本が大好きな中国人』(朝日新書)など多数。
2020/9/14 11:09
放你娘狗屁,小日本