中国経済を「救世主」扱いする日本企業の愚

中国経済を「救世主」扱いする日本企業の愚

甘すぎる日本企業の対中認識

 中国はコロナによって5月下旬に延期になった全国人民代表大会で、8兆元(120兆円)の財政出動を行うことを決めた。この8兆元の中には納税猶予(当面払うべき税金の先送り)が2.5兆元、地方政府への財政支援が2兆元入っているので、金額面ではかなり割り引いて考えなければならないが、ともあれ、これにより公共投資が活発になり、偏りがあるとはいえ、中国経済が動いているのは事実だ。
 例えば鉄鋼は中国国内で過剰生産が問題にされているはずなのに、目先の急激な需要拡大に国内生産だけで応えることができず、7月からは日本の製鉄会社からも輸入する状態になっている。

 こうした経済環境の変化を受けて、この中国の景気の波に日本企業は積極的に乗るべきだという意見が、国内でもかなり言われるようになった。すなわち「リーマンショックの時は4兆元だったが、今度は2倍の8兆元だ。世界各国がコロナで経済が動かない中で、今回も中国経済は世界経済の救世主になる。しかも米中対立でこの恩恵はアメリカ企業よりも日本企業にやってくる。このチャンスを日本企業は逃すべきではない」というのだ。
 だが、こうした見解は中国経済の根本を見落としているものだろう。

 言うまでもないが、中国は自由主義経済の国ではなく、政府が経済を厳しくコントロールしている社会主義国である。中国は民間よりも政府、政府よりも共産党が優位に立っている。共産党の支部は、国有企業はもちろん、ある程度の規模以上の私企業にも必ずあり、共産党の方針に逆らうことは認められていない。

 さらに中国は軍事と経済が一体となっている「軍民融合」経済だ。軍事部門で開発された技術を民生部門に転換したり、逆に民生部門の技術を軍事部門に応用したりということは、例外などではない。日本企業が民生品の取引しかしていないと主張しても、その民生品は軍事転用されるリスクを常に負っていると理解すべきだ。
 日本は外為法に基づく輸出貿易管理令と外国為替令で、軍民両用技術や軍民両用製品の中国への移転を事実上禁止している。日本の法に従うとすれば、中国との取引に乗り出すこと自体がそもそも問題となると考えるべきなのだ。

 しかも、軍事分野はどんどん拡大している。陸・海・空だけでなく、宇宙やサイバー空間もその領域に加わっているとの認識は、割と理解されるようになってきたが、実はその領域はもっと広い。中国が昨年4年ぶりに発表した国防白書2019には「智能化戦争」が取り上げられた。人工知能・量子通信・ビッグデータ・クラウドコンピューティング・IoT(モノのインターネット化)などの先端科学技術を、すべて軍事に動員し、電磁波や認知の領域まで対象を広げている。

中国との商売は日本の脅威

「智能化戦争」を前提として、従来から言われている制海権や制空権に加えて智能領域における支配権としての「制智権」の奪取を、中国は謳い出した。マスコミやインターネットでの情報戦に影響力を与えるというだけでなく、インターネットなどを通じて自動化・統合化されている我々の生活全般まで、中国は掌握することを考えて戦略を立てていると見るべきだろう。
 中国が5Gネットワークの輸出に力を入れたり、TikTokの排除に抵抗するのは、こういう背景とつなげて考えなくてはならない。我々のネットワークに入り込み、これをコントロールできる橋頭堡(きょうとうほ)を築こうとしているのである。

 中国を相手に商売を行うということは、中国のこうした能力を高めるのに貢献するということになり、それは最終的には私たちの暮らしの脅威になる。しかも中国は国内への技術移転を進め、国内企業での内製化をはっきりと目指している。10年後に中国に今と同じ商売ができると思ったら大間違いだ。技術はすべて中国に取られて、日本は先端技術を持たない国に落ちぶれているだろう。

 アメリカはEPN(経済繁栄ネットワーク)構想を打ち出し、自由・民主主義・法の支配といった基本的価値を共有する国家群の中で、経済を発展させようという提案をしている。日本はEPNに積極的に参加し、製造業の国内回帰や脱中国化に向けた動きを加速し、日本国の経済力を高めていく方向を採用すべきではないだろうか。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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