圧倒的に不人気な政権

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圧倒的に不人気なバイデン政権
 ジョー・バイデン政権が発足して1年余り。
 ところが、世論調査でもわかるように、圧倒的に不人気な政権である。

 しかし、少なくとも1つの分野では、「印象的」なことがある。それは、外交、特に中国との関係において、問題のある人物や腐敗した経歴を持つ人物が関与していることだ。
 もちろん、皮肉で言っている。「印象」という言葉で片付けるのではなく、違法性を問うべきだが、今の米国は残念ながら、ますます法と倫理の通用しない国になってしまった。
 米国では汚職や賄賂が横行し、しかも、それが見過ごされ、無視されている。場合によっては制度的に「合法」だとしても、それが正しいと判断されるべきではない。

 いずれにせよ、贈収賄の目的は同じで、ある種の金銭的利益を用いて誰かに影響を与え、何かをさせることにある。贈収賄は、汚職、すなわち「私的利益のために委託された権力を乱用すること」につながる。
 ハリー・S・トルーマン大統領は、“正直な公務員は政治で金持ちにはなれない”と書いた。現下院議長のナンシー・ペロシは、明らかにこれを読んだことがないようだ。
 残念ながら、彼女だけではない。米政府や軍部内には腐敗を常態化させている人が相当数いる。バイデン政権では特にひどいが、それに限ったことではない。

 バイデンの残された息子であるハンターが、ウクライナや中国などで家族のコネクションを利用したことは周知の通りだ。もちろん、ハンターは米国政府そのものにいるわけではないが、影響力、権力のある立場を私利私欲のために利用していたのだ。
 家族や親族が政府の仕事にかかわることで、利益を得ようとするのは間違っている。疑惑を招く。

腐敗のパターン

 40年以上前、ジミー・カーター米大統領の弟ビリーがリビア政府から「22万米ドルの融資」を受けた事実が発覚したことがある。
 これによって、大統領自身や、政権に大きなダメージを与え、正しくメディアの厳しい批判と政府倫理の見直しを引き起こしたことがある。

 しかし、しばらくするとそういった倫理観は忘れ去られ、“ある種”の活動が再び常態化する。
 米国政府の元公務員(私は政府内で利益を得ることを禁じるこの倫理を極めて真剣に受け止めていた)、政治学者、そしてコメンテーターとして、私は米国の政界における腐敗の3つのパターンに気づいている。

 第1は、典型的な目先の見返りを求める取引。
 直接的な(通常は緊急の)要求と引き換えに、株、家、車、旅行、夕食会、贈り物、性的な機会など、何らかの支払いや報酬が行われる。これは明確な交換であり、容易に追跡可能な賄賂である。
 このようなケースは数多くあり、最近ではハーバード大学教授が中華人民共和国からの支払いを公表しなかった件がある。これは、外国(中国)という要素が付加されることで、さらにタチが悪い。
 賄賂は、私利私欲のために受け取るのも悪いが、敵対する国による産業スパイなどが絡むと、特に悪質である。

 もちろん、日本でも贈収賄はある。比較的有名なのは、守屋武昌元防衛次官の事件だ。
「防衛庁の天皇」と呼ばれた守屋は、防衛契約において友人の会社を助けたとされ、特別な便宜を受けていたとされている。彼は逮捕され、有罪判決を受けた。幸いなことに、その友人は日本人であり、外国政府への機密データや情報の共有には関与していなかったようだ。

 第2は、日本でも起きているが、将来的に賄賂を使うというもの。
 つまり、政治家や政府関係者が、将来引退したときに報酬や地位を受け取ることを承知の上で、今何かをするように要求されることだ。「天下り」は最もよく知られたタイプである。賄賂と便宜の間に直接的、あるいは容易に追跡可能なつながりが生じることを避けるためである。
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ジミー・カーターとビリー・カーター(右)。弟ビリーがリビア政府から「22万米ドルの融資」を受けた事実が発覚した
via Wikipedia

人脈と元職を利用して金を稼ぐ

 だが、より巧妙なのは、第3の「前金制」。
 これは、ある人があるサービスに対して過剰な額の金銭を受け取るというもの。合法ではあるが、ラインすれすれと言っていい。
 
 米国では容易に行われているが、その理由は政権交代が頻繁に発生するため。権力を失った政権の関係者は、辞めた時よりもワンランク上の地位で政権に復帰することが想定できる。そのため、企業や外国政府にとって、このような人たちに「投資」することは理にかなっている。
 政権を離れている間、彼らは人脈と元職を利用して、いくらでもお金を稼ぐことができる。これは、現在の米国では一般的に合法だが、非常に非倫理的である。自分の地位から利益を得てはいけないというのがルールだが、その役割はしばしば破られ、無視されるケースがほとんどである。

 バイデン関係者が中国絡みでやったケースで最も有名なのは、インド太平洋地域の国家安全保障会議調整官であるカート・キャンベルだろう。2013年、第1次バラク・オバマ政権でアジア太平洋担当国務次官補を務め、米国の国益に甚大な損害を与えていた時に、ザ・アジア・グループ(The Asia Group、TAG)を共同設立した。
 翌月、国務省を退職したが、政府倫理に関するある調査報告書によると、その数週間後には、ミャンマーの国際空港建設のための巨大プロジェクトに携わっていたという。そのわずか数カ月前に、彼はオバマ大統領とともに同国を訪れていたのだ。
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疑惑の男、カート・キャンベル(左)。訪中で何を話したか

犯罪計画を隠すために委員会を利用した

 TAGのウェブサイトによると、TAGは、中国およびアジア全域で「卓越性を求める世界の一流企業や組織に、戦略およびビジネスアドバイザリーのフルサービスを提供」しているという。

 TAGのCEOを務めていた2015年、キャンベルは、中国エネルギー基金委員会(China Energy Fund Committee, CEFC)主催の「現在の不信感を超えて(Beyond the Current Distrust)」と題した中米コロキウム(討論会)など、中米関係を促進する多くのイベントで講演を行った。また、キャンベルは、元人民解放軍少将とともに、"Avoiding the Thucydides Trap(トゥキディデスの罠を回避するには)"というセッションで基調講演も行っている。

 10月初旬のコロキアムで開会の辞を述べた当時のCEFC副会長兼事務局長のパトリック・ホーは、その後、「ビジネス上の利益を得るために幹部を買収する計画」と「犯罪計画を隠すために委員会を利用した」として米国司法省から起訴された。米メディアが入手した音声によると、当時父親が米国副大統領だったハンター・バイデンは常務取締役を務め、ホーが「中国のスパイのトップだぞ」であることを知っていたという。

 この時、キャンベルがいくら受け取ったかは不明だが、孔子学院のイベントで講演をした際に高額な報酬を受け取ったとされる。さらに、オバマ政権を退任した直後、ヒラリー・クリントン国務長官が発起人となり、中国の台湾支配を推進する「全国中国平和統一協会」の幹部を務める中国系アメリカ人女性が出資する「米中強力基金(U.S.-China Strong Foundation)」の副会長に就任している。
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中国との関係も疑問視される、バイデン大統領の息子、ハンター・バイデン

数々の懸念事項

 この役割を担う前、国務次官補だったキャンベルは、
「より多くのアメリカ人が中国を理解することで、2国間関係も強化される…(略)…我々は共に、国民の相互理解を深め、広げる必要がある…(略)…紛争や対立ではなく教室と商業が、この2つの大国の将来の関係を定義するべきである」
 という論説を寄稿している。

 米中強力基金のウェブサイトは現在アクセスできないが、アジア・ソサエティによると、
「米中強力基金は、中国と関わるための知識とスキルを持つ新しい世代のリーダーに投資することで、米中関係の強化を目指すグローバルな非営利団体です」
 とある。

 しかし、この基金は言語交流の支援だけでなく、問題視されている孔子学院や米国内の親中政策も推進している。2017年、同基金はTwitterアカウントでPLAの設立を祝い、物議を醸した「一帯一路構想」について積極的に書き込んだと米国で発表された。
 こうした懸念にもかかわらず、キャンベルは少なくとも2020年8月まで同基金の副会長を務めていた。

 彼がザ・アジア・グループとどのような関係を保持しているのかは不明である。彼はTAGの責任者であった際、扱った仕事から身を引くと約束したが、メディアなどが証拠を出すよう求めたにもかかわらず、彼がそれを実行している気配はない。

 キャンベルの中国との取引、つまり彼の妻との取引については、他にも懸念事項がある。
 2010年から2013年にかけて、米国財務省の次官を務めたレール・ブレイナードは、中国共産党の「十分に立証された通貨操作の慣行」が指摘されるなか、それを批判しない8つの報告書を監督していたと伝えられている。バイデンは最近、彼女を2014年から総裁を務めている連邦準備制度理事会の副議長に指名した。

 バイデン氏をはじめとする政権メンバーが、政府内外の影響力を利用して金儲けや中国支援を行ったという内容の『Red-Handed』という新書が最近米国で出版された(Red-handedは犯罪中に発見されたと英語で意味するが、Redを題名に入れているのは、中国と連想させるためだ)。
 トルーマン大統領が亡くなって50年。彼が愛した民主党にいったい何が起こっているのか、事実を知ったら、大きなショックを受けていることだろう。
ロバート・D・エルドリッヂ(Robert D. Eldridge)
1968年、米国ニュージャージー州生まれ。政治学博士。
フランス留学後、米リンチバーグ大学卒業。その後、神戸大学大学院で日米関係史を研究。大阪大学大学院准教授(公共政策)を経て、在沖アメリカ海兵隊政治顧問としてトモダチ作戦の立案に携わる。2015年から国内外の数多くの研究機関、財団、およびNGO・NPOに兼任で所属しながら、講演会、テレビ、ラジオで活躍中。防災、地方創生や国際交流のコンサルタントとして活躍している。
主な著書に、『沖縄問題の起源』(名古屋大学出版会、2003年/サントリー学芸賞、アジア太平洋賞受賞)、『尖閣問題の起源』(名古屋大学出版会、2015年/大平正芳記念賞、国家基本問題研究所日本研究賞奨励賞受賞)。一般書として『オキナワ論』(新潮社、2016年)、『トモダチ作戦』(集英社、2017年)、『人口減少と自衛隊』(扶桑社、2019年)、『教育不況からの脱出』(晃洋書房、2020年)など多数。

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