感染拡大を防ぐために

 政府による緊急事態宣言が発出され、各都道府県においては様々な活動に自粛が呼びかけられている。国民にとっては極めて不自由な状況になっているが、人と人との接触を減らすことが感染拡大防止に大きな効果を発揮する以上、何とか協力をお願いしたい。国難ともいえる状況にあって、この一カ月はウイルス封じ込めに注力しなければならない。

 私は国土交通大臣政務官として、安全危機管理とともに海事(船に関する全般)、海上保安、観光等を担当している。チャーター便による武漢在住の日本人の帰国、ダイヤモンドプリンセス号、空港における水際対策から現在の諸事項に至るまで、最前線で対応にあたってきた。

 1月中旬の中国での感染爆発を受けて、早期に中国全土からの入国者を制限すべきとの声は多かった。事実を基に判断するのか、それとも先手を打つのか──まさに政治的決断であるが、ウイルスを封じ込めるために、政府はWHOなどの様々なデータや事実関係を勘案したうえで、できる限りの策を講じてきた。事態が終息した後は将来のため、初期の対応について、感染ルートの分析を含め検証することも重要であろう。

 感染拡大を防ぐため、何を重視してきたか。感染ルートを捕捉し、感染の連鎖を起こさないことであった。ダイヤモンドプリンセス号からの感染者の移送や、チャーター機での武漢や湖北省の日本人帰国者からの感染拡大防止などは、国土交通省としても他省庁と一丸となり慎重に行ってきた。しかし、専門家も明らかにしているように、海外旅行からの帰国者などから感染の連鎖が起きてしまった。政府の専門家会議は、3月上旬に海外から入ってきたと疑われる新型ウイルス陽性例が46例あったと指摘。特に欧州や東南アジアからの入国時に新型ウイルスが入ったとみられる例が増加し、専門家会議は厚生労働省に対し3月17日に要望書を出した。これを受け、政府はスペインやイタリアなどの一部地域を3月19日に入国拒否とし、その後さらに欧州全域へと拡大させていった。

 4月3日からは、米国全土を含む49カ国・地域の全域を指定。14日以内にこれらの地域に滞在歴のある外国人は、特段の事情がない限り入国拒否対象としている。この特段の事情による入国者が4月3日以降増えているため、「中国から抜け道を使って入国しているのでは?」という指摘がある。しかし、その理由は入国拒否対象地域が増えたことで、海外から帰国する日本人の配偶者や、日本での「永住者」資格を持つ外国人の帰国が「特段の事情」に含まれるようになったからだ。今後も、入国拒否地域の拡大など必要に迫られれば、政府は速やかに対応していく。

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優先順位をつけている

 政府は1世帯あたり布マスク2枚を配布することを決めた。それを受け、「布製マスクたった2枚?」と疑問の声が上がった。しかし、「マスク2枚」だけを切り取って批判するだけでは全体像が見えてこない。

 政府は、マスクメーカーに増産を依頼し、これまでのひと月6億枚を7億枚にまで供給量を引き上げるとともに、医療用マスク4500万枚を全国の医療機関に配布。緊急事態宣言が出ている7都府県の医療機関には、追加で1000万枚を配る。さらに布製マスクは、介護施設利用者や妊婦に対し順次必要な枚数を配布し、全国の小中高校、特別支援学校、高等専修学校の児童生徒と教職員に1人2枚を配布する。そのうえで、各世帯への2枚配布を決めたのだ。

 また、「布製より効果が高い不織布マスクを」という声もあるが、不織布マスクや医療用マスクは医療機関などに優先的に回している。まだまだマスクが不足していることは承知しているが、政府としては精一杯の対応をしていることをご理解いただきたい。緊急経済対策については、事業規模を108兆円とし、補正予算が成立すれば新型コロナウイルスの影響で低所得に陥ってしまった世帯などへの給付が速やかに実施される予定である(本稿執筆時点)。

 各都道府県知事が営業自粛要請を出すなか、休業補償を求める声が多く上がっているが、休業補償に近い制度が「雇用調整助成金」である。経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的に休業するなどして雇用を維持した場合に、休業手当の一部を肩代わりするものだ。今回、政府は助成の上限を引き上げ、大企業は75%、中小企業は90%の助成となっている。

 自民党内においては依然として国民1人あたりの一律給付や消費税減税の声は強く、給付の追加措置については西村康稔経済再生担当大臣も可能性に言及している。さらなる経済対策を打つ必要性についても、しっかり考えなくてはならない。

デマに注意!

 政府への建設的な批判は歓迎したい。だが、ネット上に拡がっているデマには注意しなくてはならない。東日本大震災の混乱のなか、「石油タンクの爆発により有害物質が雲などに付着し雨などと一緒に降るので、外出の際は身体が雨に接触しないようにしてください!」といったデマメールが回ってきたことを覚えている方も多いだろう。

 そして今回は、こんなデマが拡散された。

「さきほど民放各社にも連絡が入ったようで、今晩か明日に安倍総理の緊急会見があり、四月一日から都市封鎖が発表されるとのことです。テレビ局のプロデューサーからの情報なので、かなり確度が高い情報かと思います。大切な人に回して下さい。発表後、食料日用品を皆がドッと買いに行くのでお早めに」

 私のもとにも、真に受けた企業経営者や地方議員から多く問い合わせがあった。私は、この情報の拡散直後から「完全なデマです」と明言し、SNSでも発信した。

 さらに、医療現場についてのデマが拡散された。

「○○医療センターのドクターから送られてきた情報です。広く拡散してほしいとメッセージが届きました。現場ではすでに医療崩壊のシナリオも想定され始めています」

 ほかにも台湾の専門家の話として、

「深く息を吸って、10秒我慢する。咳が出たり、息切れする等、すごく不便なことがなければ、すなわち感染されていないということです」

 といったデマが飛び交っている。

 注意すべき点は、いずれも「○○医療センターの医師」などと匿名になっていることだ。実名での発信以外は信用しないほうが得策である。ただ厄介なことに、「慶應義塾大学の○○教授によると」という正確な情報に別のデマ情報をくっつけて発信し、信憑性を高める形態にも発展している。最終的にさらに大きなデマを流し、日本で医療崩壊を起こさせ国力を弱めるという工作につながる危険性がある。情報工作の世界では、こういったデマ拡散は常套手段だ。不正確な情報に惑わされてはならない。

改憲論議の焦点

 新型ウイルスを封じ込めることができれば、日本経済を反転攻勢させる必要がある。私が担当する観光の分野においても「GoToキャンペーン」により、旅行代金の半額(上限1人1泊あたり2万円)を支援するクーポン券を発行するなど、消費を喚起するための方策を打つことになっている。また、訪日外国人旅行者にとってネックとなっていた地方の宿泊施設などのキャッシュレス化を進め、英語版のホームページがないといった状況も一気に改善するための予算組みが行われている。何としても日本経済を回復させ、発展軌道に乗せなくてはならない。

 最後に、今回の都道府県による自粛要請などの措置が強制力を持たないことに疑問の声が挙がっている。諸外国のように強制力を持った都市封鎖をすべきではないかという声である。しかし、現行憲法は私権を広く認めており、緊急事態条項を持たないことから、強制力を持った措置は極めてとりにくい。現行憲法に沿うならば、私権の制限は限定的で慎重に行わなくてはならないとなる。

 自民党内や野党においても日本維新の会から、憲法に緊急事態条項を創設すべきとの意見が上がっている。今回のような緊急事態において、強制力を持って移動の制限など私権を制限するならば緊急事態条項の創設は不可欠だと考えられている。今後、その必要性が改憲議論の焦点になっていくのではないだろうか。

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和田 政宗(わだ まさむね)
1974年、東京都生まれ。1997年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、アナウンサーとしてNHKに入局。2013年、参議院議員選挙にみんなの党公認で出馬し、宮城県選挙区で初当選。現在、国土交通大臣政務官。髙山正之氏との共著『こんなメディアや政党はもういらない』(ワック)のほか、『世界は日本が大スキ!』(青林堂)等著書多数。

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