【石角完爾】コロナワクチンと東京五輪=指導者は「常に最...

【石角完爾】コロナワクチンと東京五輪=指導者は「常に最もやりたくないことをやれ」

なぜ日本ではワクチン接種が遅れたのか?

 2月12日にようやくファイザー社のワクチンが成田空港に届いたとのニュースがありましたが、それでも日本は新型コロナのワクチン接種で世界各国から著しい遅れをとっています。

 日本がオリンピック開催予定国であるにもかかわらず、新型コロナのワクチン接種で世界のほとんどの国よりも遅れているということは、「ワクチン接種をすると五輪開催にとってマイナスである」という考えがあるのではないか、と勘ぐってしまいます。

 つまり、政府はワクチン接種を優先すれば、多くの人員と予算を割かなければならなくなるため、五輪開催に人的資材を投ずることが難しくなるという点と、早急なワクチン接種によりアレルギーの発生などの人的被害をもたらされた場合、オリンピックの開催に暗雲が漂う恐れがある点を懸念しているのではないでしょうか。
 
 もしそう考えているのであれば、私はむしろこうお願いしたい。すなわち、菅総理より補佐官か秘書官にでも命じてもらい、ワクチン接種を急ぐことが五輪開催のマイナス要因であるという科学的根拠を示す、医学ないし生命科学、感染症科学の学者の論文を発表し、ワクチン接種と五輪の開催が対立項であることを示すのです。

 そして、冒頭に「ワクチン到着」の旨を記したように、遅ればせながら日本でもワクチン接種を始めることとなったことに鑑みて、今すぐにでも「人類がウイルスに打ち勝つため、(日本は)ワクチン接種を優先し、そのため東京五輪は中止となった」と早急なる英断を下すのです。その方が菅総理および現政権の名前が人類の歴史に残るのではないでしょうか。


 「人類は何年も前から計画され莫大な予算が投入されたオリンピックですら、感染症に打ち勝つために、賢明な智慧と理性と英知と科学に基づく判断の結果、これを中止し、ワクチン接種に全力を傾け、新型コロナの蔓延防止に傾注した。その英断の結果、世界の人類はコロナ対策に注力して新しいウイルスを抑え込むことに成功した」と歴史書に記載されるでしょう。そして、引き続き歴史書は次のように述べるでしょう。

 「この英断を下した日本の菅総理は欧米の政治指導者に対し人類の勇気、英知を明確にに掲げた日本で初めての指導者である」

 米国の知的文化の象徴と言われているラルフ・ワルド・エマーソンは次のように述べています。

 「Always do what you are afraid to do」。

 すなわち、「常に最もやりたくないことをまずやれ」と。

出来ないことを「言う」勇気を持つ

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出来ないことを「言う」勇気を持つことが必要
 さらにご理解いただくため、ここでユダヤの説話をご紹介したいと思います。

 ある地方には大変な長雨が続き、日に日に雨の量が多くなっていきました。ついに膝まで水に浸かり、人々は早々に避難をし、高台に移動しました。ところが、ある老人だけは、その地方で最も背の高い木に登り、「私は最後までこの木にしがみ付いている。洪水を克服した人類の証としてこの木のてっぺんにずっとしがみ付いている。私には神が付いておられる。必ずどんなことがあっても神が助けてくださる」と言って逃げない。

 ところが、どんどんと水かさが増し、救助隊が彼のためにゴムボートを木に引き寄せ乗るように勧めたのですが、「いや、私は人類が洪水を克服した証として、この木に最後まで残るのだ」と言ってきかなかったのです。

 そして、ついには消防隊が救助ヘリコプターを飛ばし、そこから縄梯子を降ろして掴むように勧めたのですが、この男は「人類が洪水を克服した証として、私が勇気の象徴としてここにいる。神はきっと私を助けてくださる」と言って、縄梯子をつかむことを拒否したのです。

 ついに水かさが増して木のてっぺんまで水が来て、その男は溺れ死に天国に召されました。天国に入り、その男は神に「どうして私を助けてくださらなかったのか」と神に文句を言ったのですが、神は「わしは二度もお前を助けようとしたぞ。一度目はゴムボート、二度目はヘリコプターだ」。

 エマーソンが言っているように、最も勇気のある人間とは最も恐れていることを行う人間です。米国で最も有名なユダヤ教指導者、マーク・D・エンジェル・ラビも、

 「Courageous man has a courage to make a disclaimer=勇気のある人間というのは、それができないことを言う勇気を持つ人間である。」と述べています。

迅速な「決断」が必要だ

 さらに、勇気の決断は「早く」なされる必要があります。もう一つのユダヤの説話を紹介しましょう。金銀財宝を持って旅に出かけるユダヤの青年に神はこう申されました。

 「他の人間が『これぐらいの雨ならまだまだ川は渡れる。中州まで行って水かさが増して来れば、対岸まで急いで渡ればいい』と言う時でも、お前は臆病者と罵られても決して川を渡るではない」

 青年は、雨が降りやまず、川の水かさがまだくるぶしぐらいの時に、駱駝の隊商たちが「まだ大丈夫、これぐらいの川幅ならばきっと渡り切れる」と言って川の中に駱駝の群れを進めて行きましたが、そのユダヤの青年だけは岸に留まりました。

 川の中に入って行った駱駝の隊商の全てはどんどん水かさが増してくるのに「まだ渡れる、まだ大丈夫」と川の中に駱駝を追って行き、ついに駱駝もその駱駝の上に積んでいた金銀財宝も、そして自分たちも濁流に呑まれてしまったのです。

 判断を遅らせて、まだ大丈夫という姿を示すことは一見勇気ある行為のように見えますが、上記二つの説話からも、人間の「これぐらいならまだ大丈夫。自然を克服した証として頑張る」という行いが最も大きな犠牲で報いられる、という説話があるのです。

 今回紹介したのはいずれもユダヤの説話ではありますが、いにしえからの智慧をバカにせず、ぜひ、参考にしていただければと、僭越ながら思います。
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菅総理の迅速な決断に期待する
石角 完爾(いしずみ かんじ)
1947年、京都府出身。通商産業省(現・経済産業省)を経て、ハーバード・ロースクール、ペンシルベニア大学ロースクールを卒業。米国証券取引委員会 General Counsel's Office Trainee、ニューヨークの法律事務所シャーマン・アンド・スターリングを経て、1981年に千代田国際経営法律事務所を開設。現在はイギリスおよびアメリカを中心に教育コンサルタントとして、世界中のボーディングスクールの調査・研究を行っている。著書に『ファイナル・クラッシュ 世界経済は大破局に向かっている!』(朝日新聞出版)、『ファイナル・カウントダウン 円安で日本経済はクラッシュする』(角川書店)等著書多数。

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