島田洋一:河野談話を明確に修正せよ

島田洋一:河野談話を明確に修正せよ

 慰安婦問題で新たな動きがあった。半ば評価でき、半ば評価できない。

 4月27日、菅義偉内閣は次のような政府統一見解を閣議決定した。馬場伸幸衆院議員(維新)の質問主意書に答えたものである。

 《「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招くおそれがあることから、「従軍慰安婦」又は「いわゆる従軍慰安婦」ではなく、単に「慰安婦」という用語を用いることが適切である》

 この決定を受けて5月10日、菅首相は「教科書の検定基準は閣議決定、その他の方法により示された政府の統一的な見解が存在している場合は、それに基づいて記述されることになっている」と述べ、今後は教科書で「従軍慰安婦」という表現は認めないとの意向を示した。衆院予算委員会で藤田文武議員(維新)の質問に答えたものである。

 政府と維新の連係プレーであり、河野談話にある「いわゆる従軍慰安婦」との表現が教科書執筆者たちに「悪用」されてきた事実への対処であった。

 統一見解はさらに踏み込んで次のようにも記している。

 《政府としては、慰安婦が「軍より『強制連行』された」という見方が広く流布された原因は、吉田清治氏(故人)が、昭和58年に「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」旨の虚偽の事実を発表し、当該虚偽の事実が、大手新聞社により、事実であるかのように大きく報道されたことにあると考えている》

 朝日新聞の捏造記事が国際的な誤解を広めたとの認識を示したものである。誤解を正そうとしなかった政治家や外交当局の責任を捨象している点や、朝日と明示しなかった点は問題だが、正しい発信といえる。ここまでは評価できよう。

 ところが維新議員たちの、河野談話をまだ継承するのかとの質問に対しては、菅内閣は相変わらず「政府の基本的立場は、談話を継承しているというものである」と硬直した答弁を繰り返した。これでは国際歴史戦は戦えない。
島田洋一:河野談話を明確に修正せよ

島田洋一:河野談話を明確に修正せよ

河野談話の修正がない限り、日本は貶められ続ける
 現在、慰安婦強制連行が虚偽であることを論証した米ハーバード大学のラムザイヤー教授に論文の撤回と謝罪を求める、反日左翼勢力を中心とした不当な攻撃が続いている。

 彼らが最大の拠りどころとするのが河野談話である。

 ラムザイヤー論文撤回を掲載誌に要求する公開書簡を起草し、国際的な署名集めを仕切る韓国系米国人でUCLA教授のマイケル・チェ氏はこう強調する。

 《最も重要なことに、日本政府は河野談話において、これらの若い女性や少女は「本人たちの意思に反して集められた」「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」「慰安婦の募集については官憲等が直接これに加担した」と認めている》

 加害者である日本政府すら認める「確立されたファクト」をラムザイヤー氏は無視している、従って研究の名に値せず、少女の集団レイプを正当化するような文に言論の自由は適用されないというわけである。

 かたくなに河野談話を「継承」する限り、日本政府は勇気ある外国人研究者に背後から鉄砲を撃ち続けていると言わざるを得ない。日本人として実に恥ずかしい光景である。

 河野談話は誤解を生む内容だった、従って修正すると宣言し、日本軍による強制連行および性奴隷化を明確に否定した新たな官房長官談話ないし首相名の政府統一見解を出さねばならない。

 政府がためらうのは、国際的な大ニュースとなり、叩かれるのを恐れるためである。しかし、いま必要なのはまさに大ニュースを生むことである。肉を切らせて骨を断つ覚悟がなければ、これほどまでに根付いた誤解を解消することはできない。

 先の政府統一見解は、日本国内の教科書検定という狭い「戦場」では意味を持つだろう。しかし、それ以上の効果は期待できない。現に国際的には、まったくニュースにならなかった。あの程度の部分修正ではニュース価値がないためである。

 日本政府が公式に河野談話を修正したという事実が、バッシングを伴ってにせよ、大いに国際的話題となり、定着しない限り、反日勢力はどこまでも河野談話を武器として使い続ける。

 維新の馬場議員は、「今後は党を挙げて河野談話の是正を政府に迫っていく」と語っている。自民党からも同じ動きが起こらなければおかしいだろう。

 河野談話の修正すらできない政治が、憲法改正などできるはずがない。
島田洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。

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