島田洋一:「リベラル」という妖怪

島田洋一:「リベラル」という妖怪

 日本政治に不健全な濁りをもたらしている言葉の代表格が「リベラル」だろう。

 私はこの言葉を避け、ある程度否定的ニュアンスが定着した「進歩派」ないし造語の「うすら左翼」や「日本解体派」を使うようにしている。

 朝日新聞的論調に迎合する、理念を欠いた無責任な自民党議員たちが、「リベラル」を安物のカツラのように、と言って悪ければ、崩れた体形を隠す衣装のように多用する風潮に大いに疑問を覚えるからである。

 典型例を挙げておこう。

 7月7日、自民党本部で開かれた「党中央政治大学院」なる会合の場で、岩屋毅元防衛相が「多様性を包含できるのがリベラルだという勢力が、党の中になければいけない」と語ったところ、講師を務めた河野洋平元党総裁が「涙が出るほどうれしい」と応じたという。

 三文芝居のようなやり取りだが、岩屋氏はかつて防衛相時代、韓国の駆逐艦が海上自衛隊機に火器管制レーダーを照射する危険行為に出た問題(2018年12月20日)で、何ら毅然たる態度を取らなかった。

 佐藤正久外務副大臣や山田宏防衛政務官、自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長、小野寺五典自民党安保調査会長らが次々と韓国側を厳しく批判し、小野寺氏からは岩屋防衛相に直接、「この問題を見過ごせば自衛隊員の政治不信につながる。政府は『韓国側と協議する』というが、協議ではなく抗議だという強い姿勢で臨んでほしい」と注文が付けられたにもかかわらず、である。

 岩屋氏は、事件発生からひと月になる段階でも、まだ「誤解があってはいけないので、どこかの段階できちんと説明しなければいけない」「辛抱強く対応しなければならず、韓国側とどのように協議を進めていくべきかよく考えたい」などと気の抜けたビールのような発言を続けていた(2019年1月19日、訪問先のハワイで)。

 現地で発言を伝え聞いた米太平洋軍幹部も、「この男とは戦略を論じえない」と呆れたことだろう。
 岩屋氏は北朝鮮問題でも、北に宥和的な日朝議連の主要メンバーとして活動してきた。


 同議連の衛藤征士郎会長(自民党)は、「日本はかつて北朝鮮を侵略して甚大な被害を国家と国民にもたらしているのですから、当然われわれとしても、その事実を重く両肩に背負い込まないといけないのです」と支離滅裂な基本認識を明らかにしている(『世界』2008年7月号)。「北朝鮮を侵略」には相手も驚くのではないか。
島田洋一:「リベラル」という妖怪

島田洋一:「リベラル」という妖怪

口当たりはいいが、国益を損ねるだけの「リベラル」はご免だ―
via youtube
 河野洋平氏もやはり、「植民地問題の処理もできていない国に、ただ(拉致被害者を)帰せ、帰せと言っても問題は解決しない。国と国の関係を正して、帰してもらうという手順を踏まざるを得ない」と同根の発言をしている(2018年6月13日)。 

 これにはさすがに安倍晋三首相(当時)が、「北朝鮮に大変なサービスをされている。われわれが厳しい交渉をしていかなければいけない中、そういう発言は交渉力をそぐ。大先輩だけに大変残念だ」と公に釘を刺した。

 安倍氏は衛藤氏や岩屋氏の動きに対しても、「圧力を掛けて対話を引き出していくのが原則だ。政府の主張より甘い立場で議員外交を行ってはならない」と牽制してきた。

 河野氏はいうまでもなく、日本の名誉を棄損し続けている河野談話の責任者である。特に談話発表の記者会見で、強制連行はあったという認識でいいか、と質問され「そういう事実があったと。結構です」と答えたことは万死に値する。

 河野氏はその後、2015年、BSフジの番組で大要次のように弁明している。

 「オランダ人の中に強制的に連れて行かれ、慰安婦にされた女性がいる。強制連行がなかったとはいえない。韓国については、お金がほしいからという人もなくはないけれども、それでも慰安所に入れられた後は、結局、女性の人格を否定されるような労働に強制的につかされた事実が残っているのは間違いない。だから、強制連行は事実としてあった。全部が全部そうとは言わない」

 後半の「強制」はなお問題だが、日本政府は最低限、「軍人による強制連行はオランダ人の場合以外、確認されていない」と明記した新談話を出すべきである。リベラル(うすら左翼)代表の河野氏ですら、そう認めている。特に息子の河野太郎氏は、いつまでも「それは別の河野さんでしょ」と逃げ続けていてはならない。
島田 洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。近著に『アメリカの解体』(ビジネス社)。

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