ナザレンコ・アンドリー:日本を滅ぼす「移民政策」の推進

ナザレンコ・アンドリー:日本を滅ぼす「移民政策」の推進

日本に「移民危機」がなかったワケ

 古川禎久法務大臣が、在留外国人「特定技能2号」の対象分野追加を検討すると発表した(11月19日)。これは事実上の移民解禁ではないかという懸念の声もあり、大きな話題になっている。結論から言うと、その通り。大量移民政策そのものだ。

 最初に言っておくが、今回の改革は本来の「外国人就労拡大」路線とまったく異なるものである。もちろん、日本が外国人労働者を受け入れるようになったのは最近の話ではない。就労ビザは昔からあり、それで何十万人もの海外出身者が日本で就職してきた。ところが、日本のやり方には、欧州のような移民危機を防ぎ続けてきた素晴らしい仕組みがあった。それは「専門的知識を必要としない労働を認めない」という入国管理局のスタンスだ。

 この連載第2回の記事でも触れたように、日本の本来の就労ビザは決して取得しやすい在留資格ではない。大学を卒業していない者(もしくは母国において、同じ業種でそれなりの経験がない者)は、そもそもビザの申請すらできない。たとえ大卒であったとしても、雇用する企業側の規模や事業の安定性んども考慮され、業務内容と大学で履修した科目が一致しなければ、審査を通ることができない。労働条件が同様の仕事をする日本人より低ければ、それも即アウト(低賃金労働を認めないということ)。このシステムのおかげで、「高度人材のみ」とまでいかなくても、少なくとも「平均以上の知識や技術を持ち合わせている人のみ」の受け入れが容認されていた。

「特定技能制度」=移民政策ではない、がウソに

 では、現状はどうだろうか。ニッセイ基礎研究所の「出入国規制と外国人労働者」に関するレポートを見ていただきたい。
 現在、そのような厳しい審査を通って日本に暮らしている外国人は、全外国人労働者人口の2割に過ぎなくなってきた。コンビニや飲食店でお馴染みの外国人店員は主に留学生で、工事現場や工場などで見る人は主に技能実習生だ。わずか数十年で日本は、専門職に就けない外国人に在留資格を与えない国から、留学生や実習生の単純労働に頼らないと多くの業界がやっていけない国になってしまったのである。つまり、すでに危険な状態になっているのに、政府の新方針はさらに状況を悪化させる可能性があるわけだ。

 そもそも、特定技能という制度は何のためにつくられたのか知る必要がある。端緒は日本の少子高齢化が深刻化し、多くの業界が人手不足で苦しんでいたことだ。そのような状況を解消する目的で政府は2019年、人が特に足りない業種(建設や介護)に限って、すでに一定水準のワーキング・スキルがある外国人の受け入れを認めた。本来の就労ビザとの根底的な違いを簡単に説明すると、「もともとはホワイトカラーの雇用しか許可されていなかったのに対し、ブルーカラーも日本に呼ぶことができるようになった」ということだ。(ドイツのガストアルバイター=Gastarbeiter に似ている)。

 この制度が導入された当時から、「大量移民政策ではないか」と批判の声はあったが、国が反発を収めるために可能在留期間の上限を設け、一部の自民党議員も「5年間しか与えられない資格だから移民政策ではない」と主張していた。5年という期間が実はとても大事で、10年間日本に在留し、そのうち5年を就労資格か居住資格で在留したものは永住権や帰化の条件を満たしてしまう。つまり、「5年以上は就労できないようにしているので、移民はさせない。働いているうちのみ一時的に滞在を認め、その後は帰国してもらう」というのは、この法案を推奨した人の言い分だった。だが、今回の特定技能2号の対象分野追加や更新上限廃止がなされると、その言い分はまったくの嘘だったこととなる。

 整理すると、これからは高等教育を受けていない人でも技能実習生として来日し、数年間低賃金・単純労働をさせられた後に特定技能ビザに移行し、制限なく日本で働き続け、5~10年経ったら永住権や帰化もできるようになるということだ。現在の技能実習生の数を見ると、これを大量移民政策と呼ばなければ一体何と呼ぶべきだろうか。
ナザレンコ・アンドリー:日本を滅ぼす「移民政策」の推進

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確かに向上や工事現場では外国人の労働力が重宝されているが――

まずは自国の人材を活用せよ

 前述した通り、<span>たしかに日本では少子化と高齢化が大きな社会問題だ。だが、この二つのうち、どちらかというと後者による弊害の方が大きいのではないか。日本は領土も資源も限られているから人口が無限に増加できるわけではなく(したとしてもそれはまた新たな問題を生み出しかねない)、高度経済成長期やバブル期のように今より少ない人口ながら今より豊かだと人々が感じていた時代もあった。「税金や保険料が増える一方で給料が増えない」という現在の停滞は、人口減少のせいというより、現役世代と高齢者のバランスが崩れたことだろう(もう一つの原因は、機会の平等より結果の平等を追求している社会主義的かつポピュリスト的な政策が増えたこと)。

 たしかに、外国人労働者の受入拡大は一部の人には有効に見えてしまう気持ちもわからなくはない。政府としても、育児や基礎教育に予算をかけないで、海外から即戦力として使える人を呼び込んだ方がずっと安く済むし楽と考えているのだろう。だが、こうした移民政策は「根治の治療」ではなく、病因を治さずに一時的に症状を軽くする「(副作用ありの)痛み止め」に過ぎない。人は年を取るもので、労働者人口を増やすために受け入れた外国人も、いずれは働けない高齢者になる。リーマン・ショックやコロナ・パンデミックみたいに大量の失業者が出ることもいつ起きるか誰にもわからない。そうなった場合の対策はちゃんと考えられているのだろうか。残念ながら、そういう風にはまったく見えない。もし国会議員や官僚がしっかりとリスクを考えているのであれば、永住権取得を可能とする無限更新などという愚策を進めるはずがない。
ナザレンコ・アンドリー:日本を滅ぼす「移民政策」の推進

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人が足りないのであれば、まずは自国の人材から活用せよ!
 また、今回の動きは本来の就労ビザで在留する外国人にとっても迷惑な話でもある。今まで日本に外国人差別があまりなかった理由の一つは、「低賃金単純労働を認めない、専門的知識を持っている人にしか就労ビザを与えない」という入管のスタンスではないかと思う。低賃金労働者の受入拡大を行えば、住民トラブルや犯罪が増え、その結果で外国人全体のイメージが下がることは十分に想定される。そうなれば、残念ながら差別的思想も広まるだろう。また、将来的に人手不足が解消し、職の需要が少なくなれば、「我々の仕事が外国人によって奪われている」という考えも一般化しかねない。このような事態は、筆者の単なる想像ではなく、欧州の各国でまさに起きていることなのだ。

 今の世界は、技術の急速な発展のおかげで4歳児でもスマホを使えるようになり、若者のIT知識がどんどん高まっている上、ユーチューバーやプロのゲーマーなど、かつて想像もできなかったような新しい職業がたくさん生まれている。景気を改善させつつ日本の「非日本化」と社会分断を防ぎたいのであれば、政府が考えるべきなのは海外労働力の新しい輸入方法ではなく、すでに日本に住んでいる人々の働き方効率化と、定年を過ぎた方による経済活動への参加向上ではないだろうか。根本的な問題解決はこれしかないだろう。

 
「人材」は「人財」である。日本はまずは自国の「人財」にこそ目を向けるべきではないか。
ナザレンコ・アンドリー
1995年、ウクライナ東部のハリコフ市生まれ。ハリコフ・ラヂオ・エンジニアリング高等専門学校の「コンピューター・システムとネットワーク・メンテナンス学部」で準学士学位取得。2013年11月~14年2月、首都キエフと出身地のハリコフ市で、「新欧米側学生集団による国民運動に参加。2014年3~7月、家族とともにウクライナ軍をサポートするためのボランティア活動に参加。同年8月に来日。日本語学校を経て、大学で経営学を学ぶ。現在は政治評論家、外交評論家として活躍中。ウクライナ語、ロシア語のほか英語と日本語にも堪能。著書に『自由を守る戦い―日本よ、ウクライナの轍を踏むな!』(明成社)がある。

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