「大村知事リコール」で問われるのは何か

「大村知事リコール」で問われるのは何か

via youtube
 6月17日、高須克弥・高須クリニック院長が大村秀章・愛知県知事不信任決議を県議会に求める請願書を提出した。記者団に囲まれた高須院長は、
「8月1日から満を持してダムから水を放出するように大村知事リコールの署名を集めます」
 と宣言した。いよいよ決戦の火蓋が切られる。私はこの闘いに、さまざまな面で注目している1人だ。理由はいくつもあるが、何といっても、マスコミのあり方が真正面から問われるものであることが大きい。

 これまで当欄をはじめ、いろいろな場を借りて私は「表現の不自由展」の作品群について発信してきた。というのも、昨年8月3日、中止になる直前に私はこの展示を実際に観ているからだ。ひと言でいうなら、それは日本と日本人への「ヘイト作品群」だった。日本人のことが大嫌いな人もいるだろうし、民族的恨みを抱いている人もいるだろうから、そういう人々が表現の自由に基づいて作品を造り、展示するのは、なんら問題はない。だが税金による公のものとなれば話は別だ。当然、納税者の同意が大前提となるからだ。私はそういう観点でこの作品群を観た。

 入口にある白いカーテンを開けると、まず右側に昭和天皇を髑髏(どくろ)が見つめている銅版画があり、通路を隔てた左側には、昭和天皇の顏がくり抜かれ、背景には大きく×が描かれた作品があった。正装した昭和天皇の顏を損壊した銅版画だ。タイトルは「焼かれるべき絵」。その先の右側には、モニターがあり、昭和天皇の肖像をバーナーで焼き、燃え残りを足で踏みつける強烈な映像作品が展示されていた。作者には、よほど昭和天皇への恨みがあるだろうことが想像された。

 ここを通り過ぎて広い空間に出ると、テントのようなかまくら形の作品があった。外壁の天頂部に出征兵士に寄せ書きした日の丸を貼りつけ、まわりには憲法九条を守れという新聞記事や靖國神社参拝の批判記事、あるいは安倍政権非難の言葉などをベタベタと貼りつけ、底部には米国の星条旗を敷いた作品だ。タイトルは「時代の肖像─絶滅危惧種 idiot JAPONICA 円墳─」とあった。

 idiotとは「愚かな」という意味であり、JAPONICAは「日本」あるいは「日本趣味」とでも訳すべきか。いずれにしても、絶滅危惧種たる「愚かな」日本人の墓を表わすものだろう。日の丸の寄せ書きを天頂部に貼った上にこのタイトルなので、少なくとも戦死した先人たちを侮蔑する作品であることを私は感じた。そして、その先には、慰安婦を象徴する例の「少女像」が展示されていた。まさに政治的プロパガンダを目的とする日本へのヘイト作品群である。少なくとも、とても納税者が納得できるものでないことは確かだった。

 展示内容に驚いた河村たかし名古屋市長が市民の税金は出せない旨を表明すると大村知事は間髪を容れず、
「公権力を行使するものが〝この内容はよい、悪い〟というのは憲法21条の検閲ととらえられても仕方がない。そのことを自覚された方がいい」
 と展示を正当化した。その上で大村知事はコロナ禍の2020年5月、展示の負担金約3300万円の支払いを求め、名古屋市を提訴した。表現の自由を「無制限」と考える大村知事と、表現の自由といえども「制限はある」という河村市長の論争に世論は注目した。

 大村知事の論に従えば、愛知県では税金をもとに児童ポルノであろうが何であろうが無制限に展示可能ということになる。憲法12条には、国民に保障された自由及び権利は濫用が禁じられ、常に公共の福祉のために利用する責任があると規定されているのだが、おそらく知事はその条文を知らないのだろう。こうして「我々の税金が使われるのは許さない」という高須院長による知事リコール運動が起こったのである。

 だが、マスコミは一貫して昭和天皇や戦死した先人たちへの侮蔑作品には一切触れず、少女像のみを取り上げ、同展に非難が殺到したのは一部の右翼や反韓勢力が「少女像の展示に反発したからだ」と矮小化し、印象操作する報道をくり返した。NHKに至っては、河村市長が展示の再開に反対し、「日本国民に問う! 陛下への侮辱を許すのか!」と書いたプラカードを掲げて座り込んだニュースの際、わざわざそのプラカードの文言が映らないように報じたほどの念の入れようだった。

 このネット時代に、未だ真実を隠蔽し、肝心なことから国民の目を逸らし、操ろうとするマスコミの不遜な姿勢──リコールで問われているのは、実は、そのことでもあるのだ。
門田 隆将(かどた りゅうしょう)
1958年、高知県生まれ。作家、ジャーナリスト。著書に『なぜ君は絶望と闘えたのか』(新潮文庫)、『死の淵を見た男』(角川文庫)など。『この命、義に捧ぐ』(角川文庫)で第十九回山本七平賞を受賞。近著に、『新聞という病』(産経セレクト)、『疾病2020』(産経新聞出版)など。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く