安倍総理辞任~後継候補を占う~

安倍総理辞任~後継候補を占う~

  8月28日夕方に安倍晋三首相が辞任を表明した後、注目は「後任は誰か」という点に絞られている。まずは岸田文雄政調会長だ。岸田氏は事前に安倍首相から電話連絡を受けたひとりで、ポスト安倍の最有力候補。麻生太郎副総理兼財務大臣が自身の出馬を否定したのも、岸田氏を支えるつもりだろう。
 なんといっても麻生派の原点は宏池会で、岸田氏は現在の宏池会会長。同派閥の始祖である池田勇人と同じ広島県出身という本流中の本流だ。しかも岸田氏は2018年の総裁選の後、麻生派の松本純事務局長などと会合を重ね、指南を受けてきたという。もし麻生氏が岸田氏を支えるなら、念願の大宏池会結成に繋がる可能性は高い。

 岸田氏が“本命”なら、“対抗馬”は石破茂元地方創生担当大臣か。石破氏は2012年9月の総裁選の第1回目投票で165票の地方票を獲得し、安倍首相に議員数で20票も負けたものの、総数で大きく凌駕。2018年9月の総裁選でも、盤石な現職の安倍首相に対して地方票では健闘した。
 石破派は党内で唯一の“反安倍勢力”といってよく、安倍政権下で冷遇されてきた。たとえば石破派のパーティーに、安倍首相が顔を出したことはない。その安倍首相の退陣は、石破氏にとって最大のチャンス。なんとしても「地方での強味」を生かして総裁選で勝利したい。

 ところが今回の総裁選を速やかに行うため、時間と手間がかかる党員党友による投票を行わず、国会議員と各都道府県連から3票ずつの投票で決することになりそうだ。
 これについて石破氏は28日夜のニュース番組で、「閉会中なので党員党友投票を行う時間はある」と恣意的な党運営を批判したが、その訴えは聞き入れられそうにない。もっとも今回の総裁選で当選しても、任期は来年の9月まで。石破氏にとって、本当の勝負はその時までお預けになりそうだ。

 その他の候補として、菅義偉官房長官の名前も挙がっている。第2次安倍政権を7年8か月も支えてきた菅氏は最大の功労者であると同時に、その地位にあったおかげで力を蓄えた。昨年4月に改元を発表した際には「令和」の文字を掲げ、知名度を上げた。この頃から「ポスト安倍」のひとりとして見なされ始めた。
 一方で河井克行・案里夫妻の問題など、側近のトラブルも少なくない。菅氏を本命とする人も多いが、いちおうダークホースとしておこう。

 なお「とりあえずここで一発、存在感を示しておこう」という動きもある。たとえば初当選当時から全国に後援会を作り、総理を目指していた下村博文選対委員長や稲田朋美幹事長代行だ。下村氏は28日に記者団に出馬をほのめかし、稲田氏は同日夜、総裁選出馬に必要な20名の推薦人を集めようと電話がけを始めた。いずれも安倍首相と同じ「細田派」の所属。しかし彼らは今まで“総理候補”と見なされたことはないし、これからもなさそう。総理という地位は手をあげれば就けるものではないからだ。

 注目点とは別に政治の選挙で最も面白いのはこうした“賑やかし”の動きだが、そういう意味で今回の自民党総裁選は、かなり面白くなるかもしれない。
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安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

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