ビジネス渡航解禁への「早い」動き

 安倍晋三首相は5月14日に記者会見を開き、東京都など8都道府県を除く39県の緊急事態宣言を解除することを発表した。
 日本の新型コロナウイルス感染症対策は新しいフェーズに入ったといえるが、その象徴的な事例が政府がビジネス渡航を解禁を検討しているという話。非感染が確認されたビジネス目的の渡航者に「陰性証明書」を発行するものだ。

(参考) 日経電子版・5月15日付 「政府、ビジネス渡航解禁を検討」

 すでに中国は、5月1日から韓国と“ファストトラック”を開設。両国の企業家に対して例外的に、14日間の義務隔離措置を緩和している。中国はこれを日本にも打診していたというが、国内からもこれを要求する声が上がっていたのだろう。

 昨年の日本から中国への輸出額は14.7兆円で、中国からの輸入額は18.5兆円(財務省貿易統計)。輸出ではアメリカに次ぐが、輸入ではナンバーワンのビジネスパートナーだ。当然、日本から現地に赴き現状を視察する必要もあるが、一方で中国資本がコロナ禍に乗じて投資を目的に日本に流入するという懸念も否定できない。彼らが狙うものは明らかだ。

日本の「宝」=中小企業を守る施策こそ急務

 東京商工リサーチによると、2019年に休廃業・解散した企業の61.4%が当期利益が黒字で、代表者の83.5%が60代以上。事業そのものは好調だが、後継者不在によって継続を諦めたという趨勢が見てとれる。実はその中で世界に誇る技術を持つ企業も少なくない。たとえば2018年に廃業した岡野工業は、蚊の針と同じサイズの「痛くない注射針」を開発するなど名実ともに「中小企業の星」だった。
 
 これにコロナ禍による将来への不安が加わると、さらに黒字倒産・早期廃業が増えるに違いないが、それらが外資に狙われ、日本経済を支えてきた「宝」がごっそりと奪われてしまってはたまらない。

 上場企業については安全保障の観点から外為法で守られるが、中小企業にはそうした保護規定がない。そのまま激化する米中経済戦争に引きずり込まれては、日本はどうなってしまうのか。もっともコロナ禍対策として117兆円の補正予算が組まれ、早くも2次補正も予定されている。いずれも資金を注入することによって一息つかせようということだが、社会が大きく変わろうとしている今、戦略なき資金注入は一時しのぎになったとしても、それ以上の意味はない。
 
 そうした危機感を抱きつつ、5月14日の総理会見に挑んだ。そして“次のフェーズ”に向けて、日本がとるべきポジションについて安倍首相に質問したつもりだ。

(編集部注)安積さんは5月14日の安倍首相会見にて、コロナ後の中小企業防護施策について質問。質疑応答の模様及び内容については以下のサイトよりご確認いただけます。
 〇 首相官邸サイト:令和2年5月14日 安倍首相記者会見

 ポストコロナ社会では生活様式や価値観が大きく変わるだろうが、それでも失ってはならないものがある。それを押し出した戦略を策定するには、全世界が岐路に立つ現在こそが好機といえるが、くれぐれもそのチャンスを他国に奪われてはならない。
 (1092)

安積 明子(あづみ あきこ):ジャーナリスト
兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。
1994年、国会議員政策担当秘書資格試験合格。参議院議員の政策担当秘書として勤務の後、執筆活動を開始。夕刊フジ、Yahoo!ニュースなど多くの媒体で精力的に記事を執筆している。

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