【濱田浩一郎】橋下徹氏の「二階俊博論」と「沖縄問題論」...

【濱田浩一郎】橋下徹氏の「二階俊博論」と「沖縄問題論」に異議あり!

橋下氏 発言の真意

「こういう状況だからこそ、二階幹事長のような、ある意味『憎まれ役』、中国とあれだけ付き合いをやっていたらいまの日本の状況ではものすごいバッシングを食らうけど、ああいう政治家も増やさないといけない」

  大阪府知事・大阪市長を歴任した橋下徹氏の『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ系)での発言である。二階俊博(自民党幹事長)を高評価する言葉だ。この言葉だけでは、橋下氏がなぜ二階氏を褒めているのか分かりにくいが、自身のツイッター(7月28)で「自分たちの力を弁えず威勢よく吠えるだけの連中によって一般の国民がとんでもない不幸を被ったのが日本の近現代史。政治なんて表と裏、あの手この手でずる賢くやるもの」と主張しているのを見て、若干ではあるが、橋下氏の真意が見えてくる。
 
 尖閣諸島問題など日中が緊迫した状況にあって、中国に対して威勢のよいこと(例えば国交断交や戦争だ)を言う人物(政治家)だけではダメだ、二階氏のように中国と親密な付き合いをしている人物をいざと言う時のために残しておかなければいけない。そうでなければ、強硬論が支配し、日本は大東亜戦争(太平洋戦争)の敗戦と同じ過ちを繰り返すことになる(硬軟取り混ぜた外交を展開する必要があると言うことであろう)。
 おそらく、橋下氏はそう言いたいのではなかろうか。

 ちなみに、この橋下氏の発言に対しては、ベストセラー作家の百田尚樹氏は「二階から美味しいエサでも投げられたか。 世界が中国と対決しようとしている中、「裏切り者」「売国奴」の二階を持ち上げる真意はどこに? それとも中国から援護するように指令でも受けたか」と激しく批判。
 それに対して、橋下氏は「餌などもらってるわけないやろ、ボケッ!空想の世界だけで生きているオッサンには現実の政治戦略などわからんやろ」と反論し、前述の言葉を並べた。

親中を通り越して「媚中」

 橋下氏の主張するように、強硬論一点張りの政治家だけではいけない事は分かるし、外交には妥協や硬軟取り混ぜた手法が必要なのも歴史を学ぶ者として理解はできる。では、二階氏は日中のパイプ役として、日本のためにどんなことをしたのだろうか?
 百田氏も私と同じ疑問を抱いたようで、橋下氏に対し、ツイッターで同じような質問をしている。この問いに対し、管見の限り、橋下氏は具体的な「功績」事例を挙げてはいなかったので、私が代わりに答えておこう。

 保守新党時代の二階氏は、反日の権化とも言うべき、江沢民(国家首席・当時)の記念碑を地元の和歌山県だけでなく、日本全国に数カ所建立しようとしたと言う。しかし、議会や地元民の反発にあい、この計画は頓挫する。江沢民といえば、1998年の訪日の際、宮中晩餐会に人民服で出席し、天皇陛下を前にして、「日本軍国主義」は中国人民とアジアのほかの国々の人民に大きな災難をもたらしたと言ってのけた人物である。そのような人物の記念碑を建てたとして、日本人の誰が喜んで見学するであろうか。金の無駄遣いである。

 東シナ海ガス田の問題に関しても、二階氏は経済産業大臣在任中、日本による試掘に反対するなど、中国寄りの態度をとった(2006年)。私は、親中の議員の存在は否定しない。が、二階氏の態度は親中を超えて「媚中」ではないのか。
 橋下氏は「軍事力もなく核兵器もない島国日本が中国と激しくやり合うには、二階さんのような政治家を持っておくことも国家の安全保障の一つでしょう。その上で日本は自由主義と民主主義の体制を守るために中国と対峙すべきです」(橋下徹ツイッター、2020・7・30)とも述べているので、仮に、二階氏に日中間のパイプ役としての具体的功績がなかったとしても、「親中」議員として在職、中国と交流しているだけで、その存在意義があると感じているのかもしれない。
 しかし、東シナ海ガス田の問題で見たような、日本の国益に反するような行動を要職にある時にとる人物が、いざ有事と言う時に日本国の役に立つであろうか。

 中国問題とは関係ないが、北朝鮮のミサイル危機(2017年)において、二階氏がどのような発言をしたか、橋下氏も覚えているだろう。
 北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて、二階氏は「大きな防空壕をつくることができるか対応しないといけない」との発言。その発言に対し、橋下氏はツイッター(2017年7月29日)で「日本の国会議員の危機管理能力は最低レベルだ」と苦言を呈している。
 
 このような「古い」認識の二階氏が、有事に敏速にそして的確に対応できるであろうか。二階氏は国内の権力闘争において老獪(ろうかい)さを示すことはあっても、国外に対してそれがどこまで発揮できるか、これまでの二階氏の中国に対する言動を見ていたら疑問である。
 
 二階氏が、中国との太い太いパイプを活かして交渉し、尖閣諸島周辺海域に侵入する中国船の活動をストップさせたら、それは凄いことだが、現時点ではその兆候はない。中国は相当したたかな国である。日本の「親中」「媚中」議員を平時では歓待し、時に都合良く利用するが、有事となれば、そうした議員のことなどバッサリ切り捨てて「はい、さよなら」と、自国の国益を追求するということも十分考えられる。そうなった場合、二階氏の議員としての存在意義とは一体、何だったのかという話になろう。


 第一、国と国との友好関係は、大量の議員を引き連れて訪中したり、中国の機嫌をとったりすることだけで、生まれるものではない。自国の主張をしっかりとして、時に激論を戦わせることによって生まれることもある。何でも「はい、はい」と向こうの国の言うことを聞いたり「あなたの国の仰る通りですね」と言うだけでは、内心馬鹿にされて終わりという可能性もあろう。そうならないことを願うのみである。

 安易に比較するのはよくないかもしれないが「協調外交」というものが、最終的にどのような結末を招くかは、戦前の幣原喜重郎(外務大臣)の対中協調外交や、アドルフ・ヒトラーの要求を英仏が全面的に認めた「ミュンヘン会談」(1938年9月)の事例からも理解できよう。

危険な「沖縄ビジョン」

 さて、話は二階氏から逸れるが、橋下氏は沖縄の米軍基地問題についても積極的に発言しており、その成果は例えば同氏著『沖縄問題、解決策はこれだ!』(朝日出版社、2019)にまとめられている(以下、引用部分は同書による)。

 同書の第4章は「沖縄ビジョンXを実現するためのケンカ道」と題し、沖縄を活性化させるための手法が述べられている。そのなかで「普天間基地の辺野古移設」について沖縄県で住民投票するべきだが、強烈なメッセージを国(日本政府、日本国民)に発信することが必要であり、そのためには国が嫌がることをするべきだとして「沖縄独立の賛否」「中国政府に沖縄の港を貸すことの賛否」をテーマとして設けるべきだと言う。
 このくらいのことを沖縄が主張して、初めて日本政府や国民が目覚めると言う橋下氏の主張も理解できないわけではない。

 もちろん、橋下氏は、沖縄が中国に侵食されても良いと思ってはいないだろう。あくまで、沖縄を活性化させるため、日本政府に沖縄の意見を呑ませるためのケンカの一手法として、あえて過激な提案をせよと主張しているはずだ。
「沖縄に中国の拠点を作るかもしれないということを匂わせる」「中国公船さらには軍艦の寄港の話も匂わせる」と「匂わせる」を連発していることからもそれは窺える。

 しかし、匂わせるだけだということを相手(この場合は日本政府)に見透かされてしまえば、この手法も効力は薄まるのではないか(橋下氏は、沖縄が強硬な行動に出れば「政府与党は必ず、穏便な方向に収めようと歩み寄ってくるはずです」と述べているが)。

 橋下氏が沖縄県知事だったら、日本政府が「匂わせるだけ」で動かないとみると、中国の公船を実際に沖縄に寄港・停泊させることを実行するかもしれない。同書にも「中国政府に沖縄の港を貸すことは、理論的に考えても、荒唐無稽な話ではありません。県所管の港や、同意してくれる民間の港であれば、中国の公船を寄港・停泊させることは可能でしょう」と記しているからだ。

 しかし、もしそこまでした場合、最終的に沖縄はどのような運命を辿るのか。それは、橋下氏が同書に他国の例を挙げて書いている通りになるのではないか。「中国というのは目ざとい国ですから、自分にとって必要なエリアはどんどん取り込んでいく。(中略)拠点作りのためにはその国に投資をする。まあ狙った国を借金漬けにして返済できないようにして、借金のかたに港を取っていくというヤクザ顔負けの方法も報道されてますけど」と。
 中国に沖縄を乗っとられそうになったら、急旋回して、日本との関係を元に戻せば良いと橋下氏は言うかもしれないが、その時にはすでに手遅れということにもなりかねない。

「独立を問う住民投票というのは、中央政府を強烈に揺さぶり、結果として自治権拡大につながる可能性が高いのです」と橋下氏は、諸外国(スコットランドやカタルーニャ)の例を挙げ同書で指摘している。しかし、沖縄にその手法は、有効に作用するであろうか。上手く立ち回らないと、それこそ、「いつの間にか沖縄は中国のものになっていた」という最悪の事態になってしまうだろう。
 劇薬は、少量でも人間をすぐ死に至らしめるのである。
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

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