菅=親中説が杞憂であるワケ

菅=親中説が杞憂であるワケ

安倍総理との深く、長い信頼関係

 安倍総理の後任は菅義偉官房長官でほぼ決まった形となった。

 菅氏はいまだに中国の習近平総書記の国賓招待を諦めていない公明党との関わりも深く、また親中派の代表とも言うべき二階幹事長との仲も深いということから、親中的な舵を取るのではないかとの懸念が出され、警戒する向きが強いように思う。ただ、私はこの点に関してはおそらく杞憂(きゆう)になるだろうと考えている。

 安倍総理と菅氏は同じ思いを持つ同志としてのつながりがある。例えば二人は票に結びつきにくく、金銭的利益も期待できない北朝鮮による拉致問題に深く関わってきた間柄だ。菅氏は安倍氏と同様に、カネなどで簡単に転ぶような政治家ではない。こういう部分には信頼を寄せていいだろう。

 安倍氏の菅氏に対する信頼は長くて強い。第1次安倍政権の途中に内閣改造が行われた時に、安倍氏は菅氏を官房長官として迎え入れることを考えていたが、菅事務所の経費水増し疑惑が急浮上したことから断念したと言われている。2012年12月に発足した第2次安倍内閣から、安倍総理念願の官房長官として7年8カ月にわたって安倍政権を支え続けてきたのも、菅氏と安倍氏の関係の深さ、信頼の深さを表していると言えるだろう。


 菅氏が人の痛みがわかる政治家であるのは、生まれが秋田の農家だったこと、高卒で集団就職で上京し、法政大学の夜学に通いながら苦労して卒業したことなどの個人的な体験に求める意見がある。もちろんそれもとても大きい要素だとは思うが、今でも民間の人たちの考えを毎日聞くことを習慣化させていることも大きいのではないかと思う。身内ばかりとともに行動することの多い国会議員の中で、市中の多様な意見を吸い上げるアンテナをしっかりと張っているのは異例だ。それが政策のバランスを確かなものにしていると言える。

「親中」に見えた財界への配慮

 菅氏がこれまで親中的に動いてきたのは、財界からもたらされる現実的な要望に応えてきたという側面が強い。ただ、財界は最近まで米中対立を甘く考えていて、ここまで大きくなることを計算に入れないままに対応を考えてきた節がある。そしてそんな意識にも変化が出てきた。

 日経新聞が上場企業のビジネスマン3000人を対象にしたアンケートでは、アメリカが現在進めている中国企業を名指しして取引制限する技術管理に対して、過半数の51.6%が支持を表明し、特に対中ビジネスに関わったことのある人たちの中で支持が高かったという結果が出ている。

 経産省が旗を振っている中国から国内への生産回帰の補助金政策についても、59.3%が支持するとしたのに対して、支持しないは11.3%にとどまっていて、米中対立の激化を背景にして、対中ビジネスの見方は大きく変化してきた。経営層と一般社員の間には若干の意識の乖離(かいり)はあるだろうが、大筋としては同じようにものを見ていると考えてよいだろう。

そして「脱中国」の流れへ

 したがって現状においては、菅氏がアメリカの意向を踏まえて厳し目の対中政策を展開したとしても、財界の反発は小さいと考えられる。むしろ、財界とも多様な関係を築いてきた菅氏であるからこそ、脱中国の流れを財界に要請した場合にも、その要請をすんなりと受け入れてもらえる可能性は高いことが推察される。

 実際菅氏は、中国からの生産拠点の移転を促す経産省の補助金には、募集枠をはるかに上回る応募があったことを明らかにしながら、予算の増額を示唆するような発言を行っている。菅氏は言葉に気をつけて、自分の真意をはっきりと見せないようにして、なるべく敵を作らないように動くのが特徴だ。そのため派手な打ち出しは行わず、表立っては静かにしながらも、脱中国化を着実に推し進めていくと思われる。

 内政・外交に関するスポークスマンとして、記者からぶつけられるあらゆる質問に菅氏は連日万全の準備をして対応してきた。外交の中で求められる日本のあるべき立ち位置について、菅氏はよく理解しているはずだ。

 菅氏は内政を固める官房長官としては異例のアメリカ訪問を行い、ポンペオ国務長官やペンス副大統領とも会談を行った。この機会を通じて、アメリカの対中政策の真意も確認しているはずだ。

 親中派の攻勢によって政治信念を変えてしまうのではないかという見方は、菅氏を皮相的にしか見ていないと思う。自分に厳しく、また他人にも厳しさを求める菅氏には、その懸念は当てはまらないと私は考えている。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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