空前の飛距離の飛ばし観測記事

 しばらく「過労」を理由に、3週間にわたる自宅療養のような在宅ワークをしていたとされる小池百合子都知事が、11月21日より公務に戻るようだと発表されました。実際に今日21日出てこられて、いろいろとお話をされ、記者の前にも元気そうな姿もお見せになられましたが、なら何で1カ月ご在宅ワークで、ぼんやりしとったのかと気になるわけですよね。

 それに先だって、Twitter界のクオリティペーパーの一角、俺たちのスポニチ・アネックスが「小池百合子が30日にも都知事を辞意」という空前の飛距離の飛ばし観測記事を打ち込んだため、小池さん本人というよりは、側近がブチ切れて、思ったよりも早く実質的な公務復帰となったのは素晴らしいことです。

「なんで日曜から公務復帰やねん」というツッコミも多数出ておりましたが、そもそも知事会がその日程であったことと、前回も国政進出するファーストの会が国会日程の前にお披露目強行で日曜日仏滅に記者会見をやった経緯もあって、「この手の重大なセレモニーは日曜日にやるとたくさん報道されて小池百合子さんは目立てる」というソリューションが完成しているのかもしれません。
山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

小池百合子都知事。3週間にもわたる自宅療養だが、その理由は――?

安普請だったファーストの会

 で、小池百合子さんが如何に健在をアピールしようとも、一連のご在宅ワークにはさまざまな憶測が流れておりました。
 仮病説とか、重病説とか、二階俊博さんのご失脚で自民党復党からの女性初総理が遠のいてしまい気落ちしてしまった説とか、関係の深かったテクノシステム生田尚之さんが逮捕勾留されてしまい、東京地検が小池さんに事情を聞くにあたっての煙幕説……などなど、小池さんを取り巻く状況はどんどん変わっておりました。

 もはや衆院選前のことなど旧聞に属する話となってしまいましたが、当時いきなりの記者会見で奇襲と相成った小池さんの「ファーストの会」は、4年前に一大旋風を起こしてゴミやホコリを舞い上げた「希望の党」を彷彿とさせる舞台仕掛けでありました。私も、非常に親しい方が、一連の「ファーストの会」の座組みには意欲的に取り組んでおられたので、お話を直接伺う機会も多かったわけなんですが、やはり一番のテーマは「日本憲政史初の、女性総理大臣に就任することに小池さんが強い意欲を持っている」ことにあります。

 実のところ、これが“女帝”的な文脈で言えば、小池さんの詐術だとか、権力欲だとか、そういう受け止められ方をすることが多いのもまた事実です。正直、今回記者の前で見せた元気そうな姿だって「あ、抗がん剤の4週間サイクルが終わって、少し楽になったのかな」と安心した面もあると思うんですよ。
 ただ、多くの政治家の皆さまと話をさせていただく側からすれば、これらのポストを求めて権力闘争という戦いの世界に身を委ねて風向きを読み上昇気流を掴んで舞い上がっていくことこそ、小池さん一流の政治観だろうと思います。
 欲望は欲望として、健全に何かを求めていくのは政治家として正しい行動様式だし、小池さんがそこまで言うのであれば、協力したいという人たちも決して少なくなく、ただ小池さんの政治姿勢ゆえに周辺の忠臣以外にまともな人を配することが、いまだにできていないのは悩ましいところです。

 それもあって、ここで二階さんの失脚で事実上、自民党復党の夢を絶たれ、自民党総裁への選出から、堂々と天皇陛下からご指名を受け総理大臣に就任するという健全な野望が失われたことへの気落ちは大きかったのではないか。
 それが、忠臣・荒木千陽さんを代表に据えての安普請なファーストの会の立ち上げ、そして関係先の協力を得ることができず、結果的に候補を立て衆院選に参戦することすらできなかったのも、本来なら小池さんが健在であれば、という惜しむらくの気持ちを抱かずにはいられません。

 残念ながら、小池百合子さんの周辺には尾島紘平さんら、まともな人物は連なるものの数が足りず、同時に埼玉県での地域政党として旗揚げを考えていた上田清司さんや、希望の党からの所縁のある玉木雄一郎さん率いる国民民主党、それを支える連合東京などの労働組合、さらには政治家の名門として上積みを狙う鳩山エミリーさんほか、鳩山家の面々といった、各々の立場と考えのある人たち・組織をまとめ上げるには、解散から公示、投開票日まで短い時間過ぎた面はあったろうと思います。
 迎え撃つ自由民主党でも電話調査(オートコール)などでの期日前調査ではまだ名前も見えない「ファーストの会の立候補者」を項目に入れ、その影響に慄(おのの)いていたのも、今となってはいい思い出です。
山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

依然、自民党内で大きな影響力を持つ二階俊博氏。小池さんとの関係も気になるところ

「小池さんはどうしちゃったのかな」

 フタを開けてみれば、小池さんそのものが、その野心とは裏腹に精彩を欠き、二階派幹部の先生方も「小池さんはどうしちゃったのかな」と心配されるような事態になったのは残念なことです。
 もちろん、そのお話を承っている私たちの心中は(小池さんを心配するぐらいなら、ご自身の小選挙区情勢を気にされてはいかがか)という感じだったわけでありますが。

 一連の事態もあって、やはり6月下旬で噂されていた「小池さんの記者会見での声がおかしい」という医療筋の皆さんの予想が正しかったようで、そもそも6月末にどこに入院していたのか、それは検査入院での精密検査か何かなのか、そこから今回は具体的に何か手術でもされたのではないか……と、心配は尽きないわけです。この手の問題は隠し通せるものではありませんのでね。
 とはいえ、本当に無理をしては小池さんにとって一大事ですので、きちんと療養していただき、しかるべき後任に一度バトンを託し、完治してなお燃え滾(たぎ)る野心を永田町にぶつけていただきたいと願うのみです。その場合、告示は22年1月13日、投開票日は1月30日あたりが、都知事選日程としては有力になるのではないかと思っています。

 一部では、小池さんの在宅ワークについても、小池支持者からは揶揄(やゆ)するな、尊重しろなどの意見も多数寄せられていました。
 が、そもそも小池さんは一度目の都知事選挙の際には、現在まったく実現できていない「7つのゼロ」の公約に加えて「情報公開は一丁目一番地」として聖域なき情報公開をしていたはずなのに、ご自身が都庁に出てきて公務をしない理由については現段階(記事執筆時:11月18日)では1バイトも公式情報として状況や原因について説明されておりませんので、当時共産党が赤旗で小池都政を酷評していた記事と共に念のため申し添えておきます。

代表選? 勝手にやってくれ

 また、時を同じくして、衆議院選挙で惨敗の責任を取り立憲民主党執行部である枝野幸男代表や福山哲郎幹事長らが枕を並べて辞任することになってしまいました。
 ここで問題となる共産党やれいわ新選組、社民党などとの「野党共闘」の是非についても、本来なら選挙結果の総括と共に立憲党内だけでなく公論として語られるべきだと思いましたが、あまりそのような野暮な話はしない方向となり、いまのところ泉健太さん、逢坂誠二さん、西村智奈美さん、小川淳也さんの4氏による代表選が行われる方向で推移しています。

 もちろん、立憲民主党のサポーターと党関係者しか投票ができませんので、無関係の一般国民からすれば「勝手にやれば」と言いたい面もありますが、立憲民主党の固有の政策主張において、特に「原子力再稼働の是非」や「外国人参政権」などのテーマについては、全員が反原発で、外国人に参政権を与えるべきという立場は同じようです。良い意味でも悪い意味でも、左翼政党がより良い左翼のリーダーを選ぶための代表選だぞ、ということで、まあ勝手にやればと思います。

 ただ、立憲民主党で新たな代表を選び出す試金石となるのは、やはり7カ月後に迫った来年の参議院選挙でありまして、その前には労働者の祭典であるメーデーも控えており、立憲民主党の党勢拡大を占う意味でも、独自の支持基盤の拡大と野党共闘との「折り合い」を選ばれた新代表がどうつけるのか、という当たりを念頭に考慮する必要があります。

 端的に言えば、立憲民主党を長らく政策面でも選挙実務面でも支えてきたのは、国内最大の労働組合である「連合」であり、前回本稿でも書いた通り、連合内の主要な組合にはこの野党共闘での親共産党路線に難を示している経緯があります。この問題を知るために多くの連合の関係者に事情を聞いてきましたが、何度聞いてもイマイチ良く分からないけど総評系と同盟系で割れそうだとかいう単純な話でもなさそうだ、というのがあります。
山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

立民の代表を辞任する枝野幸男氏。代表選の行方は――。

露骨な嫌悪感

 その最たるものは、組織内議員、つまり、連合が自ら国会議員を送り出す構成員であった愛知の古本伸一郎さんを今回の衆議院選挙では支援せず、古本さんが出馬を見送ってしまうという事件がありました。
 正直、いまなおこの事件の余波は大きいように耳にします。連合の中でも役割の大きい全トヨタ労連(全ト)や電力事業従業員などで構成される電力総連、製造業従業員などの電機労連など、いずれも来たるカーボンニュートラル(脱炭素社会)で安定した安い電力供給を政策面で求めるにあたり、立憲民主党のようなイデオロギー的な左翼風の反原子力発電の政策主張には露骨に嫌悪感を示します。

 同時に、支持母体の労働組合からすると、男女平等で就業参画して育児休暇などを拡充するところまではおおいに容認されても、立憲民主党が掲げた「ジェンダー平等」や「動物愛護」などの左翼色の強い政策には「はっきり言って、興味がない」と、こちらも明確に嫌悪感を持つ労組幹部も少なくありません。イデオロギーや理想を持つこと自体は大事だけれど、それで飯が食えたり、組織率引き上げに資するような盛り上がりがあるかと言われれば、「微妙だよね」と言われれば、その通りです。
 生活と雇用を守り、働きやすい環境を実現していく労働組合からすれば、実現しても腹が膨らむわけではないイデオロギーのクセが強い綺麗事の政策ばかりを主張する議員が増えるのは、苦労ばかりで票にも金にもならず支援しづらいということなのでしょう。

 結果として、立憲民主党が新代表になっても、この野党共闘の壁と、イデオロギー政策から現実への政策回帰を支持団体から突き付けられることになり、下手をすると、これらの協議がうまくいかなければ、立憲民主党は再び内ゲバの果てに党が分裂してしまうリスクがあります。
 大変なことだと思うんですが、これらの問題を収拾できそうな辻元清美さんや尾辻かな子さんなど立憲民主党の組織内の接着剤になりそうな人たちが軒並み落選してしまったため、どうにもならない状態のようにも外側からは見えます。

 このあたりの問題を抱えながら、飛躍的な発展を遂げる力量が新代表にあるのかどうかは、未知数です。個人的には労働組合からの協力を失って、党消滅の危機に瀕しているいまの社民党(旧社会党)の体たらくをそのままを踏襲をしそうで怖いなあ、という印象であります。

「殺人以外の悪いことは全部やった」

 他方、その野党共闘の破壊力を喰いまくったのは、躍進した日本維新の会です。すったもんだありつつも旧大阪維新から脱皮し、ここまでやってこれたのは、巷で「殺人以外の悪いことは全部やった」とまで噂される代表で大阪市長の松井一郎さんの力量によるところがとても大きいと思います。選挙後約3週間が経過してなお、維新に対する支持率は高止まりし、11%を超えてきたというのは重要なことです。
 外野から見ていて、維新の会が引き起こす数々のトラブルを的確な判断で最小被害で収拾し、大阪特有の海千山千な人々を見抜いて仕事を託す力は、ひとえに松井さんの選球眼の確かさゆえでしょう。

 実際、全国政党へ維新が飛躍するための布石として、昨年の都知事選にて小池さんの圧勝と見込まれるところ、松井さんが出てきて「東京都知事選に選択肢を用意する」と敢然と元熊本県副知事の小野泰輔さんを出馬させ、1年仕込んで衆院選東京1区で出馬、敢闘の結果、東京比例で維新が得た2議席を確保して国会に送り出しています。
 各地域で足腰となる地方議員を増やす方針や、自民でも左翼でもない第3の選択を用意する作戦が、結果として野党共闘が目指した自民政権批判票独占を突き崩し、大阪以外の地域でも維新の得票が伸びた結果の躍進であることは特筆に値します。

 その維新も党規約により、代表の任期は国政選挙などの投票日後90日となっていて、代表選をやるやらないの議論となっています。ところが、肝心のその松井さんが「代表選をやるなら自分は降りる」と言っており、副代表の吉村洋文さんも辞任するという流れの中で、全国政党でのさらなる飛躍を悲願とする維新の会を誰がどう引っ張るのかという問題が突き付けられている状態です。
 代表選をやるかどうかを決める臨時党大会が27日に行われる予定で、こっちはこっちですったもんだするのではないかと思います。
山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

維新の会の創設者、橋下徹氏。その野心とは……

やっぱりリベラル傾向

 主要野党各党が右往左往するなか、自公岸田文雄政権はそれなりに高いレベルで支持率横ばいの状態をキープしています。気がついてみれば、真水がどれだけかは分かりませんが55兆円規模の財政出動と併せて、株式売却益などに課税される金融所得課税は増税を検討ということで、自民党政権にしては、いままで以上に左翼側に政策が振れてきているのが特徴です。

 これはひょっとすると岸田政権は公明党にも引っ張られて、そのままリベラルになってしまいます。大丈夫なのでしょうか。いままで立憲民主党を支えてきた連合が自民党と政策協調を行いつつ、国民民主党とも近い関係となりそうな気配で、是々非々と言いつつより、右側には維新の会が、その他左翼では野党共闘勢力が、という図式で参院選を迎えるのではないかと思います。

 選挙のリアルから見ると、いまの日本政治の図式は非常に興味深く、自公連立政権から政策によっては維新や国民民主党との協調もあり得るという与党翼賛体制に、そして参院選前には国会で憲法改正の是非についても議論されるようになり、これでええんかのう、まあ、しょうがないのう、とジジイみたいなことを言いながら、日々政治報道を見て暮らしていくのでしょう。

 そして本稿には特にオチはありません。最後までご精読賜り、ありがとうございました。
山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

山本一郎:小池百合子、立憲民主党、維新の熱い冬

第2次岸田内閣発足。どうもリベラルの臭いが……
山本 一郎(やまもと いちろう)
1973年、東京都生まれ。個人投資家、作家。慶應義塾大学法学部政治学科卒。一般財団法人情報法制研究所上席研究員。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も行なっている。

関連する記事

関連するキーワード

投稿者

この記事へのコメント

コメントはまだありません

コメントを書く