コロナで差別される「経済的弱者」たち

コロナで差別される「経済的弱者」たち

「経済的弱者」に厳しいコロナ禍

 「近所の人から避けられています。小さな子どものいるお母さんは、私と会うと、あからさまに嫌な顔をする。職場で゛は、シフトだけでなく、時給も大幅に減らされている。精神的にも、経済的にも限界に近い。孤独だし、将来も不安だし、お盆には、母親のいる東北に帰郷するのを楽しみにしていましたが、『孫がいるから帰ってくるな』と突き放された。実は微熱が続いてますが、PCR検査なんて受けられない。すべてを失ってしまう」
 と、都内の病院にパート勤務するA子さん(40代)は、電話で話している途中から泣き出し、最後は嗚咽していた。

 最近、「コロナ差別」という言葉をよく聞くようになった。世界中の新型コロナウィルス感染者は2000万人(2020年8月現在)を突破。日本は比較的抑えられているとはいえ、国内でこれまでの確認された感染者の合計は5万人を突破。東京・大阪・名古屋などの大都市圏を中心に、7月下旬以降は、感染者の増加ペースに歯止めがかからない状態だ。


 A子さんは、夫と離婚した後、週に3~4日、小児科病院で医療事務をしながら、ベビーシッターのバイトをして、生計を立てていた。
「離婚の原因は、夫が男性不妊だったからです。何年も不妊治療をしましたが、結局授からなかった。私は、赤ちゃんや子どもが大好きだったので、未来のない結婚生活が耐えられなかったですし、不妊治療でお互い疲れて、貯金も使い果たして、愛情もなくなってしまった。経済的には、離婚しない方が楽だったと思いますよ」
 心機一転新生活をはかろうと思い、ダブルワークをはじめたが、それでも月の収入は20万余り。家賃、光熱費、税金を払うと、手元にはほんの少ししか残らない。

 それでも、コロナ前はまだ夢があった。「少し遅いかもしれないけれど、保育士の資格を頑張ってとろう」
 本屋で参考図書などを買い集め、節約しながら、時間を見つけては、勉強に励んでいた。
 
 しかし、コロナで事態は一変した。

コロナで無くなる仕事

 ベビーシッター業者が、A子さんが病院でパート勤務していることを理由に、
 「申し訳ないんだけど、病院が発生源になっていたりするでしょう。親御さんから(病院からコロナを運んでくるかもという)不安の声が出ているし、私たちも万全を期したいので、コロナが終息するまで、仕事はお願いできないと思う」
 と、言われてしまったのだ。

 追い打ちをかけるように、収入源の病院からも、
 「患者さんの数が、通常の3分の1以下になったので、医師も看護師も給与は3分の1カットにさせてもらってる。しばらくは、週に2日の出勤で、時給も(東京都最低賃金の)1013円に下げさせてもらうけど、悪く思わないでほしい」
 と、告知された。

 「家賃しか出ないような状態が2ヶ月以上も続いて、少ない貯金を切り崩して、ギリギリの生活でした。給付金の10万円は本当に嬉しかった。体力を消費しないよう家にいるようにしていましたが、おなかがすいて、ひと袋30円のもやしが命綱だった。いろんなもやし料理を作りました(苦笑)。電気代がかかるからテレビも見ないで、毎日、病院の仕事がない時はぼんやり過ごしていました。誰かに話を聞いてほしいけど、私が病院勤務なのを知っている近所の人は、私と話したがらない。誰よりも、手洗いやうがいは徹底しているのに・・」
と、再び涙声になった。

叶わない「帰省」

 そんな日々だからこそ、夏休みに実家に帰れるのを楽しみにしていた。小さくてかわいい姪にも会って癒されたかった。

 だが、A子さんの希望を踏みにじるように、全国知事会は、「帰省に関する各自治体の方針をホームページに掲載する」とし、自治体の方針を確認した上で、慎重に判断するべきだと声明を出した。
 
母からも、申し訳なさそうに電話がかかってきた。
「いま、帰ってこられると、困るのよ。東京から来た人が家にいる場合は、『2週間は医療機関に来ないでくれ』と言われている。子どももいるし、虐めの対象にもなりかねないの。『コロナは東京に帰れ』という張り紙が貼られた家もあったのよ」

 実際に家族から聞くと、心底驚いたが、そういう話が絶えないことはA子さんも知っていた。でも寂しさはいかんともしがたい。

オンライン〇〇は万能ではない

 「小池都知事は『オンライン帰省をお願いしたい』と言っていたけど、うちにあるパソコンは、中古の古いものだし、実家にオンラインができる環境もない。彼らにとって簡単なことが簡単ではない人がいるということをわかってほしい」

 最近は、わけもなく感情が高ぶって涙が出てくる。微熱が続いて身体がだるい。だがこれで鬱病診断でもされたら、病院の仕事も切られてしまう。もっと怖いのは、本当にコロナにかかっているとわかることだという。

 PCR検査の拡充を揉める動きが各地で活発化しているが、同時に、感染者の経済不安の払拭、治癒後の支援体制、精神的なフォローを整備することが必要なのではないか。今のままでは、一度「感染者の烙印」を押されてしまうと、社会復帰どころか、生きていくことすらままならない。その傾向は、経済的弱者ほど皮肉なことに強まっているのだ。
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横田由美子(よこた・ゆみこ) 

埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。

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