島田洋一:天下の大道~「風評加害者」と戦う気概

島田洋一:天下の大道~「風評加害者」と戦う気概

 アメリカのトランプ前大統領は、いまだに強固な支持者を持つ。当初は懐疑的だったが、次第に盟友となっていった政治家や言論人も多い。

 それは彼が、決して政治闘争から逃げなかったからだ。トランプは常に、自ら言うようにファイターであり、「及び腰」や「官僚答弁」とは無縁だった。

 対立の渦中にあって、彼は進んで矢面に立ち、ポリコレを一切気にしない強烈な発信を続けた。攻撃には十倍返しで応えた。リベラル派から見れば許しがたい挑発であり、民主党応援団たる主流メディアは「トランプ錯乱症候群」と呼ばれるほどに理不尽な袋叩きを続けた。
 そのことは逆に保守派の間に、先頭に立って戦うトランプを孤立させ、討ち死にさせてはならないという義俠心を呼び起こした。

 義俠心というと浪花節めくが、政治を動かす重要要素である。あの男を見殺しにするのは恥、との思いを広く搔き立てられるのがリーダーシップの要諦といえる。

 4月13日、菅義偉首相は、福島第一原発で無害化された処理水を海洋放出する方針を正式に決定した。被災地の復興に必要な正しい判断である。

 今後は、漁業者たちを風評(デマ)から守ることが最大の課題になる。風評被害は風評「加害」があってこそ起こる。被害を防ぐには、加害者に正面から立ち向かい、つぶしていく作業が不可欠だ。
島田洋一:天下の大道~「風評加害者」と戦う気概

島田洋一:天下の大道~「風評加害者」と戦う気概

根拠があって「煽って」いるのか⁉
 加害者側の代表というべき立憲民主党の枝野幸男代表は、菅首相の発表後早速、「我が党として、断じて容認することはできない。…日本の漁業全体に壊滅的な打撃を与えることは必至」との「談話」を出した。一体どこまで煽るつもりなのか。

 社民党の福島みずほ党首も「菅政権は東電福島原発の汚染水を海洋放出することを決定した。…海を汚さないでほしい」と同日ツイートしている。

 無害な処理水をあくまで「汚染水」と言い募る辺り、慰安婦強制連行・性奴隷化デマを広めて日本を貶めたこの人らしい。単に愚かで済まない、明白な加害行為である。

 中韓両政府も、枝野、福島両氏同様、日本政府の海洋放出決定を強い言葉で非難した。一方アメリカ政府は、「日本が透明性を保つ努力をしていることに感謝する。国際的に受け入れられた原子力の安全基準に合致する方法を採用した」と支持声明を出した。
 最も強力な「助っ人」は、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が出したビデオメッセージで、身振り手振りを交えつつ、「この重要な発表を歓迎する。福島第一原発の廃炉をさらに進める道を開く重要な節目だ。海への制御された放出は、世界中の原発で日常的に行われている」と熱っぽく日本政府との協力を謳った。

 グロッシ氏の力強いメッセージに比べれば、残念ながら菅首相や「歩く官僚答弁」加藤勝信官房長官の発信はいかにも機械的で、弱かった。梶山弘志経産相も官僚が用意したメモを読み上げるだけで、およそ気迫が感じられない。発信力が自慢のはずの小泉進次郎環境相も、陰に隠れるかのように曖昧に立ち回るばかりである。果たしてこの陣容で、風評加害者との戦いを勝ち抜けるのか。不安にならざるを得ない。

 小泉純一郎元首相は、功罪相半ばする政治家だが、郵政解散時の鬼気迫る記者会見、刺客を送り込んだ戦闘的な選挙戦術は見事だった。政策の中身はともかく、小泉氏一人で、大きく世論を動かしたことは間違いない。
島田洋一:天下の大道~「風評加害者」と戦う気概

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強いメッセージ性や選挙戦術は見習うべきか―
 今回、菅首相の背後には、科学とIAEAと同盟国アメリカが付いている。一方、立民、共産、社民は、科学をないがしろにし、かつ反日的な中韓両政府と事実上タッグを組んだ。これほど対立構図が明確な戦いはない。菅自民党がまなじりを決して小泉型選挙戦を展開できるなら、左翼野党群に壊滅的打撃を与えることも可能だろう。千載一遇のチャンスと捉えるべきである。

 自民党は、処理水海洋放出に反対する候補者は公認してはならない。不賛成を公言している一人、山本拓議員は福田康夫元首相の側近を自任する媚中派で、福井選挙区の定数削減を受けて比例単独に回った人物である。従来は順位で優遇されていたが、すでに地盤はなく、公認が出なければ即議席を失う。造反予備軍を牽制する見せしめとして格好のターゲットだろう。

 なお、真面目な漁業者の保護には万全を期さねばならないが、対案も出さず絶対反対を唱えるだけの「漁業者代表」は風評を煽る側と言わざるを得ない。全体の復興など脳裏になく、「補償金」だけが目当ての人々もいる。政府も、いつまでも下手に出るだけではいけない。
島田洋一(しまだ よういち)
1957年、大阪府生まれ。福井県立大学教授(国際政治学)。国家基本問題研究所企画委員、拉致被害者を「救う会」全国協議会副会長。

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