新型コロナで儲ける人?給付金申請のウラとオモテ

新型コロナで儲ける人?給付金申請のウラとオモテ

正直者が馬鹿を見る?飲食業界の苦難

 新型コロナウィルスでもっとも影響を受けたとされるのが飲食業界である。
 パソコンに、「コロナ」「飲食」と打ち込むと、「コロナ関連倒産のうち最多は飲食店」とか、「飲食店は生き残れるか」といった記事が次々と見つかる。

 実際、吉野屋HDやワタミ、若者に人気のDD(ダイヤモンドダイニング)など外食大手の株価も下落傾向にあり、売上高は、直滑降に近い右肩下がりを続けている。

 街の個人店は、「テイクアウトを始めたが、閑古鳥が鳴いている」「コロナ融資でつなぎ資金は得たが、第2波がきたら、廃業。残るのは借金のみ」的なニュースを、非常事態宣言を受けて休業を始めた4月初旬から見ない日はない。
 事実、真面目にやっている会社や、個人店ほど「コストカットして味を落とすことはできない」「職人としてやり甲斐を感じる環境で仕事がしたい」と考え、負のスパイラルに入り込んでいることは間違いない。


 だが、これはあくまで性善説に則った考え方であり、行政の支援もそうした視点に立って行われている。しかし、世の中、狡い人はどこまでも狡いのである。ここ数カ月、我が国のみならず世界はほとんど、コロナショックでパニック状態に置かれていた。そうした混乱に乗じて、次々と打ち出された国の支援策で儲けている業者、小金をせしめている個人店などは決して少数ではない。

コロナ下での繁華街~その実態~

 たとえば東京・新宿の飲食店――頻繁に集団感染が起きている場所だ。ほとんどの人は、
「クラブやキャバクラ、ホストクラブ、バーなど、密な濃厚接触が行われている店が多いからだろう」
 と、考えるだろう。

 ところが、意外とそうでもないのである。
 
 実質は「個人店」に近い居酒屋などの飲食店も、この界隈では、たいてい会社形態にしているが、ホームページもなく、近隣に住む人々以外の客は「食べログ」や「ぐるなび」などの情報を信じて行く。
 そうしたページには土日休業とかランチ営業なしなどと記載されていたりするのだが、実際は営業しているというケースに遭遇したことが、コロナ以前にも私は結構な確率であった。これらの店は、コロナ禍の「営業自粛期間」も開いていて、都が推奨していた20時が過ぎると、看板の電機を消して、「もぐりの営業」を続けていた。当然、酒も出していたし、土日やランチもやっていた。

 私は営業自粛期間、その類いの近所の居酒屋に、ランチを食べに行ってみた。カウンターには、ソーシャルディスタンスをとることもなく、お客が密に並んで座っている。おざなりのように、消毒液が入り口に置いてあるが、店内は埃っぽく掃除が行き届いていないようだった。

 普段はパートの女性がいるが、
「こんな時代だから休んでもらっている」
 とA店主は説明して、ひとりで切り盛りしていたが、驚いたのは、支払の時に、レジを打っていないことだった。カウンターの下にある金庫からお金を出し入れして、伝票はその横のトレーに放り込んでいた。 私は、A店主が以前から、伝票を書かなかったり、レジを売っていないことがあったのを思い出した。

「おいしい」持続化給付金、その手口とは?

 後日、(A店の)パートの女性に話を聞くと、シフトを大幅に減らされて、家賃の支払も苦しいと怒りを露わにして、話始めた。

「A社長(店主)がレジを打っていない時は、後からお金を抜くためなんです。自分の遊興費とかに使っている。このあたりの商店街は、うちの店のような形態が多く、どこも似たようなことをしている。今、昼夜かまわずたくさん抜いているのは、持続化給付金とコロナ融資のためだと思う。休み時間に税理士さんが来て、奥でこそこそ話していたのを聞いちゃったんです」

 経産省が大々的にPRしていた持続化給付金には、当初、小規模事業者も含めた法人には最大200万円が給付されるということで、飲食店を筆頭に様々な事業者が殺到した。しかし、素人にはわかりにくい申請方法、杜撰(ずさん)なシステム、さらには電通に代理事業を丸投げしていたことなどが明るみに出て、集中砲火を浴びた。

 200万円をもらうためには、
①前年同月比で50%以上減少していること
②2019年以前より事業収入を得ており、今後も事業を継続する意志のあること
 が条件である。

 そのため、(A社長は)売上が50%を割るように、営業を続けつつ、抜いていたのだ。
「その税理士さんも、実は会社に内緒で、バイトで、うちの店の決算と確定申告していた人なんです。『給付と融資をセットでやりましょう。成功報酬の5%でいいですよ』と、具体的な数字を出して持ち掛けていました」
 と、前出の女性スタッフは言う。

 給付申請は、少しでも税務の実務知識があれば、それほど大変ではないのだが、素人ゆえに足下を見られたのだろうが、A店主としては、何の不満も抱いていない。
 結局、給付金の200万円は満額、10万円の特別定額給付金はしっかりゲット。さらには、売上が大幅に減った事業者向けの家賃支援給付金も申し込んでいる。複合的な要因で潤(うるお)ったせいか、最近、A店主は、バイクを新しくしただけでなく、服や靴なども次々と新調しているそうだ。

 さらには、この税理士は「楽な仕事で高額なアルバイトができること」に味を占め、A店主から、近隣の客を次々と紹介してもらって阿漕(あこぎ)な荒稼ぎに手を貸しているとのこと……。

合計400万円をゲット?給付金で儲けた人々

 A店主の友人に、新宿区内で居酒屋を2店舗経営するBという店主がいる。少し趣向が変わった居酒屋のせいか、ウェブマガジンなどで、時折「飲食店経営」についてコラムなどを書いたり、勉強会の講師を務めるなどして副収入を得ていたという。ちなみにBの妻は、週に一度、自宅でお菓子教室を開いており、個人事業主として確定申告しているそうだ。

 B店主は、企業向け持続化給付金を満額得る一方で、雑所得として計上していた副収入の分も個人事業主として確定申告していたので、申請し、数十万円をゲット。さらには、やはり個人事業主である妻が満額の100万円の給付を受け、家族全体(子どもふたり)で40万円の定額給付金を手にした。合計で400万円近くが濡れ手に粟で入ったことになる。
 税理士への成功報酬20万円を支払ったとしても、ウキウキだ。妻は、欲しかったブランドバッグを購入し、B店主は高級自転車を新調した。さらに、これまで「やってみたい」と思っていた、株も購入。暇な時間は、携帯で頻繁に株価を確認しているそうだ。
 すっかり味をしめたB店主も、次は家賃支援給付金だと意気軒昂(いきけんこう)である。

 持続化給付金や定額給付金の詐欺が問題となり、メディアを使って広く注意喚起がなされているが、基本的に、個人情報の搾取を目的としたものであったり、振り込め詐欺と同様の手口だったりと、いずれも明確な「犯罪」と断定できるものである。むしろ増殖しているのは、こうした緩い制度設計や法の抜け穴をついて国税を少しでも多くむしり取ろうとしている輩である。

給付金長者の未来

 だが、そう憤ることもないかもしれない。コロナ第2波の危険性が世界中で叫ばれる中、彼らは次の危機を乗り切るための大事な資金を食い尽くしたどころか、経済に貢献してくれた。行政も「学び」があったのか、コロナ関連の給付金や補助金は増えているが、かなり申請が厳しいものとなっている。

 B店主のように株につぎ込んで資産を増やそうと皮算用した人は少なくないだろうが、コロナ禍の影響で今後の株式相場の見通しは簡単ではないだろう。A店主やB店主に代表されるような人が相場を甘く見て、痛い目に会うまでそう時間はかからないかもしれない。

 一方、コロナ禍の中、投資で儲けている人たちも確実にいる。たとえばB店主がつぎ込んだ株では、「資本があるため、勝ち越している」という人が意外にも少なくない。次回のコラム(7月30日ごろの掲載予定)では、株式市場における格差拡大とコロナ相場で儲ける人たちに焦点をあてる。
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横田由美子(よこた・ゆみこ) 

埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。

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