遅すぎた…不妊治療の「実態調査」
9月27日、厚生労働省は、不妊治療の実施件数や費用などの実態調査を10月から始めると発表した。
過去数年にわたり、不妊治療の取材をしてきた筆者の感覚では、「あまりにも遅すぎた……」というものだった。
不妊治療は、極めて経済力がものをいう世界である。不妊治療のために何年もの間ギリギリの生活を強いられ、結局授からずに、離婚という道を選ばざるを得ない夫婦を筆者は数多く見てきた。
健康な夫婦は、40歳以下であれば、産婦人科に通い1年もタイミング法(排卵期を調べて、避妊せずに性交を行う)を行えば、概ね妊娠する。それでも妊娠しない場合は夫か妻のいずれかが、不妊症ということになる、症状によって、体内受精→高額な顕微・体外授精に瞬く間に進んでいく。
体内受精なら、一度で3~5万円程度だが、顕微・体外授精を行うと、数十万円に金額が跳ね上がる。妻は、仕事を辞め、毎日、朝晩の検温、妊娠しやすい身体に変えるために食事療法をし、断酒・禁煙はもちろんのこと、酷暑の夏でも身体を冷やさないように厚着をし、子宝神社を巡礼するという、極めてセンシティブな世界に突入していく。
間近で支える夫は、男性不妊だった場合は自らを責め、そうでない場合は妻に対して憐憫(れんびん)を感じながらも、愛情が冷めていくという負のデフレスパイラルに入っていく。
過去数年にわたり、不妊治療の取材をしてきた筆者の感覚では、「あまりにも遅すぎた……」というものだった。
不妊治療は、極めて経済力がものをいう世界である。不妊治療のために何年もの間ギリギリの生活を強いられ、結局授からずに、離婚という道を選ばざるを得ない夫婦を筆者は数多く見てきた。
健康な夫婦は、40歳以下であれば、産婦人科に通い1年もタイミング法(排卵期を調べて、避妊せずに性交を行う)を行えば、概ね妊娠する。それでも妊娠しない場合は夫か妻のいずれかが、不妊症ということになる、症状によって、体内受精→高額な顕微・体外授精に瞬く間に進んでいく。
体内受精なら、一度で3~5万円程度だが、顕微・体外授精を行うと、数十万円に金額が跳ね上がる。妻は、仕事を辞め、毎日、朝晩の検温、妊娠しやすい身体に変えるために食事療法をし、断酒・禁煙はもちろんのこと、酷暑の夏でも身体を冷やさないように厚着をし、子宝神社を巡礼するという、極めてセンシティブな世界に突入していく。
間近で支える夫は、男性不妊だった場合は自らを責め、そうでない場合は妻に対して憐憫(れんびん)を感じながらも、愛情が冷めていくという負のデフレスパイラルに入っていく。
不妊治療で起こりうる様々なケース
忘れられない事例を2組あげたい。
夫が軽度の男性不妊で、自分は着床障害だったというA子さん夫婦の世帯年収は、妻が不妊治療のために勤務先を、妊娠のタイムリミットとされる39歳で退職するまで、800万円以上あった。長期休暇には海外旅行や外食を楽しみ、記念日にはブランドもののバッグを購入するなど、理想的な夫婦生活を楽しんでいた。
しかし、A子さんが仕事を辞めると、年収は500万円以下に激減。その中で、高額真な体外・顕微授精を3度行った。クリニックの往診代、検査代、漢方に加え、さまざまな妊活グッズが月に何万円もかかる。
「お金に羽が生えて飛んでいく感じで、私の洋服なんかは、スーパーの2階にあるかごの中でバーゲン品を漁っていた。生活すべてが妊活中心にまわっていて、それが何年も続いた。ある日、夫婦でいる意味がわからなくなったんです。もう年齢的にも経済的にも限界でした。私たちのような不幸を再度生み出さないためにも、国からの援助はすごく大事だと思う」
夫婦で話しあい、これで最後にしようと決めた体外・顕微授精に失敗した後、離婚した。年齢なだけに再就職には苦労したが、
「子どもを持つことはもうないと思いますし、結婚も懲り懲り。パートナーのような人がいるので、今はそれでいい」
もうひと組は、今から20年ほど前に体外・顕微授精をして、最終的に2人の子どもを授かった夫婦だ。
妻側の不妊が重かったため、夫婦は、すぐに体外・顕微授精を選択し、すぐにひとり授かった。しかし、不妊治療でひとり授かった夫婦によくあることだが、
「ひとりっ子じゃかわいそう。もうひとり弟か妹をつくってあげたい」
と、考え、再度治療に申し入れた。
しかし、当時の治療は今から比べるとだいぶ杜撰(ずさん)なもので、受精卵をすべて、女性の子宮に戻すという「数撃ちゃ当たる方式」だったのが、悲劇を招いた。
2度目の治療で妻は、3つ子を妊娠。子どもが一気に4人に増えることになり(=計6人家族)、夫の経済力では、子どもたち全員に満足な教育を受けさせることも難しければ、日々の生活も相当レベルを落とさなければいけないことは目に見えていた。苦渋の選択として、妻は、ひとりを残して2人を中絶。
しかし、その後、「自分は子どもを殺してしまった」、「神様の領域に踏み込んだから、罰が当たったんだ」という罪悪感に長く苛(さいな)まれることになる。2人の子どもを育て上げた後も罪の意識は消えず、キリスト教に入信するという選択をした。
夫が軽度の男性不妊で、自分は着床障害だったというA子さん夫婦の世帯年収は、妻が不妊治療のために勤務先を、妊娠のタイムリミットとされる39歳で退職するまで、800万円以上あった。長期休暇には海外旅行や外食を楽しみ、記念日にはブランドもののバッグを購入するなど、理想的な夫婦生活を楽しんでいた。
しかし、A子さんが仕事を辞めると、年収は500万円以下に激減。その中で、高額真な体外・顕微授精を3度行った。クリニックの往診代、検査代、漢方に加え、さまざまな妊活グッズが月に何万円もかかる。
「お金に羽が生えて飛んでいく感じで、私の洋服なんかは、スーパーの2階にあるかごの中でバーゲン品を漁っていた。生活すべてが妊活中心にまわっていて、それが何年も続いた。ある日、夫婦でいる意味がわからなくなったんです。もう年齢的にも経済的にも限界でした。私たちのような不幸を再度生み出さないためにも、国からの援助はすごく大事だと思う」
夫婦で話しあい、これで最後にしようと決めた体外・顕微授精に失敗した後、離婚した。年齢なだけに再就職には苦労したが、
「子どもを持つことはもうないと思いますし、結婚も懲り懲り。パートナーのような人がいるので、今はそれでいい」
もうひと組は、今から20年ほど前に体外・顕微授精をして、最終的に2人の子どもを授かった夫婦だ。
妻側の不妊が重かったため、夫婦は、すぐに体外・顕微授精を選択し、すぐにひとり授かった。しかし、不妊治療でひとり授かった夫婦によくあることだが、
「ひとりっ子じゃかわいそう。もうひとり弟か妹をつくってあげたい」
と、考え、再度治療に申し入れた。
しかし、当時の治療は今から比べるとだいぶ杜撰(ずさん)なもので、受精卵をすべて、女性の子宮に戻すという「数撃ちゃ当たる方式」だったのが、悲劇を招いた。
2度目の治療で妻は、3つ子を妊娠。子どもが一気に4人に増えることになり(=計6人家族)、夫の経済力では、子どもたち全員に満足な教育を受けさせることも難しければ、日々の生活も相当レベルを落とさなければいけないことは目に見えていた。苦渋の選択として、妻は、ひとりを残して2人を中絶。
しかし、その後、「自分は子どもを殺してしまった」、「神様の領域に踏み込んだから、罰が当たったんだ」という罪悪感に長く苛(さいな)まれることになる。2人の子どもを育て上げた後も罪の意識は消えず、キリスト教に入信するという選択をした。
不妊治療には経済助成だけでないケアを期待
不妊治療の助成対象には公明党が事実婚夫婦も含めるように緊急提言した。そのこと自体は悪くないと思う。しかし、不妊治療を行う夫婦が苦しいのは、治療費用だけではない。精神的なケア、妊活・育休中の環境整備、子育て支援など、不備をあげればキリがない。
菅義偉総理は、不妊治療の保険適用の旗を振り始めたが、かけ声倒れに終わらないよう、厚労省はこれを機に綿密な実態調査を行い、適切な政策を打ってほしい。
菅義偉総理は、不妊治療の保険適用の旗を振り始めたが、かけ声倒れに終わらないよう、厚労省はこれを機に綿密な実態調査を行い、適切な政策を打ってほしい。
埼玉県出身。青山学院大学在学中より、取材活動を始める。官界を中心に、財界、政界など幅広いテーマで記事、コラムを執筆。「官僚村生活白書」など著書多数。IT企業の代表取締役を経て、2015年、合同会社マグノリアを立ち上げる。女性のキャリアアップ支援やテレビ番組、書籍の企画・プロデュースを手がける。