総理候補・河野太郎氏の女系天皇容認論に異議あり!

総理候補・河野太郎氏の女系天皇容認論に異議あり!

「女性天皇」と「女系天皇」は違う

 本年8月23日、河野太郎防衛大臣は、自身のYouTubeチャンネルにおいて、皇室の継承問題について言及した。その中で「男系での皇位継承が一番望ましい」としつつも、

「雅子さまや紀子さまを見て、皇室にお嫁入りしてくれる人が本当にいるだろうかという問題もあるし、結婚したはいいけど、男の子を産めっていうすごいプレッシャーがかかってくる」「男の子がいなくなるという可能性は、もう確率的にあるんだと思う。男の子がいなくなった時には、もうしょうがないから愛子さまから順番に、その女性の皇室のお子さまを天皇にしていくということを考えるというのが一つある」

 と、場合によっては、女系天皇を容認する姿勢を示したのだ。
 
 ポスト安倍の1人と言われる高官の発言だけに、賛否の声が上がっており、今後も波紋を呼びそうだ。女性・女系天皇を容認する風潮は、近年高まっており、朝日新聞社の全国世論調査(2019年)によると「安定した皇位継承のために、女性天皇や母方だけに天皇の血をひく女系天皇を認めるか?」との質問に対し、女性天皇については76%、女系天皇は74%が「認めてもよい」と回答したという。(2017年の調査でもほぼ同程度の結果が出ている)。

 女性・女系天皇を容認する国民が増えているわけだが、どれだけの人が、女性天皇と女系天皇の違いや、女系天皇になるということは一体どういうことなのか、そういった事をしっかり理解したうえでアンケートに回答しているかは疑問である。マスメディアの世界、番組をつくる側のスタッフの中でも、女性天皇と女系天皇の違いについて、はっきり分かっていなかったとの話も聞いたことがある。知識がない状態で、安易に「女系天皇容認」と言えるほど、皇位継承の問題は軽いものではない。なぜか。約2000年続けてきた皇位継承のあり方を一変させるからだ。

 皇室は、これまで全て男系できた。つまり、父方をずっと辿っていくと神武天皇(初代天皇)に辿りつくというのが男系である。女系は母方を通してしか、歴代天皇に辿りつくことはできない。愛子様は、お父様が天皇陛下なので、男系女子である。
 しかし、愛子様が北条さんという民間の方と結ばれ、お子様が誕生すれば、そのお子様は北条さんの家系となる。そのお子様がもし将来即位(女系天皇の誕生)すれば、神武天皇以来、126代も男系で続いてきた皇室が様変わりすることになるのだ。「そのくらい良いではないか」という国民もいるかもしれないが、今、記したことは王朝の交代、つまり新しい王朝の誕生を意味するのである。

 例えば、イギリスにおいては「アングロ・サクソン朝」「プランタジネット朝」「ランカスタ朝」「ティーダ朝」「ステュアート朝」「ウィンザ朝」など度々、王朝名が変わっているが、これはなぜかと言えば、女王に婿が来てその子供が継いだからなのだ。
 中国も王朝交代(例えば、元・明・清など)が頻発する「易姓革命」の国であるが、他姓の有徳者が天子の位につくことは、王朝の交代を意味するのである。女系天皇が即位するということは、王朝が交代するに等しいことだということを、日本人は肝に銘じておくべきだろう。

男系維持は「確率論」なのか

 河野太郎氏が皇位継承問題について言及するのは、今回が初めてではない。2016年10月にも自身のブログにおいて「皇室の危機を回避する」との文章を執筆している。
 この文章の中には「たしかに我が国の皇室は男系を貫いてきた。しかし、男系天皇を維持することができるかどうかは、このままいけば確率の問題になってしまう」「今後とも男系天皇を維持すべし」という意見がある。

 しかし、「言うのは簡単だが、現実は容易ではない」との一節がある。宮家創設についても「仮に運よくこの方法で宮家が1つ、2つ増やせたとしても、継続的にできるわけではなく、男子が生まれる確率が多少高まるにすぎない」と消極的だ。
 そして最後には「男系の維持が困難であるならば、次善の策は、男系、女系に関わらず、皇室の維持を図るべきではないか」との結論となるのである。河野氏は、YouTube動画において「男系での皇位継承が一番望ましい」と語ったが、このブログからは(あくまで私の感想であるが)、男系での皇位継承を命懸けで推進していくという気概を感じることができない。

 河野氏は旧宮家について「旧宮家は1430年に即位した後花園天皇の弟貞常親王の子孫であり、それ以来、600年近く、現皇室との間に男系の繋がりはなく、その男系が皇室を継ぐことが国民的に受け入れられるだろうか」とブログに記す。

 河野氏は「今の天皇家と旧宮家が分かれたのは1400年代」(YouTube動画)との認識をお持ちのようだ。よって、旧宮家の男性が皇室を継ぐことが正統性が薄いと感じているのだろう。1947年に皇籍離脱した旧皇族11宮家の源流は、江戸時代後期を生きた伏見宮邦家親王(1802〜1872)である(もちろん、伏見宮家自体は、室町時代に出来た。初代当主は崇光天皇の皇子・栄仁親王。伏見宮家の第3代・貞成親王の王子は、後に御花園天皇となる)。
 邦家親王は、伏見宮貞敬親王の子として生まれ、光格天皇の猶子にもなっている。

 南北朝時代から江戸時代の日本の皇室において、当代の天皇との血統の遠近にかかわらず、代々親王宣下を受けることができる「世襲親王家」が存在した。桂宮・有栖川宮・閑院宮そして伏見宮がそうであった。旧皇族11宮家の源流は、伏見宮家。
 そしてその伏見宮家は、中世・近世・近代において、天皇家との関りも深かったのである。旧宮家を天皇家との関りが薄いかのように言うのは誤りだ(皇位継承に不具合が生じた場合、江戸時代においても、例えば伏見宮家の人が皇位を継ぐことは十分考えられた。邦家親王の父・貞敬も皇位につく可能性があった)。

 皇統の断絶を防ぐために、先人がとった行動は何かというと、それは新たな宮家を創るということだった。例えば、閑院宮家の創設がそうである。皇統の安定を図ろうとした新井白石(江戸時代中期の儒学者・政治家。六代将軍・徳川家宣に仕え、幕政を補佐した)の建言を受け入れて、幕府は家領千石を献じる。そして1710年、勅命によって一家が創設される。これが閑院宮家である。東山天皇(1675~1710)の第六皇子・直仁親王が初代となった。

 そしてこの閑院宮家から江戸時代後期に光格天皇(1771~1840)が誕生する。前代の後桃園天皇が崩御した時、内親王しかおらず、世襲親王家から新たな天皇を迎えることになったのだ。傍系と言われた閑院宮家だが、この宮家の系統が現在の皇室まで続いているのである。

「(旧宮家は全て伏見宮系だが)伏見宮はいまから600年以上前に天皇家から分かれた家である。したがって、近・現代の天皇との男系の血縁関係はきわめて遠い」と主張する人は河野氏以外にもいるが、伏見宮家出身者でも、江戸時代においては十分、皇位を継ぐに相応しいと認識されていたことは念頭においてもらいたい。何より先人は、天皇家と血縁が近いからといって、近衛家や鷹司家の人を天皇にすることはなかったのである。

 我が国の先人たちは「女系天皇」を容認しなかったのに、今の日本人が簡単にこれを覆しても良いものであろうか

「民意」がすべてなのか

 河野氏は、最近のブログにおいては「2019年11月に共同通信が行った世論調査では皇位継承を男系男子に限る現在の制度を維持すべきだという意見は18.5%にすぎず、こだわる必要がないと答えた割合は76.1%にのぼります。こうした世論のなかで、600年から250年前に皇室から分かれた家の男子を養子に迎えて男系を維持することが大事なのだということを国民にしっかりと伝えることができるでしょうか」(皇統の議論・2020 年8月24日)と述べている。「できるでしょうか」と疑問形で書かれているが、河野氏の発言を見るに、おそらく彼は「できない」「かなり難しい」と感じているのではないか。

 世論調査や曖昧な民意なるものに政治家が流されることは危険である。(国民の一人として)私は何も民意を馬鹿にしているわけではない。
 ただ、正しい民意もあれば、間違っている民意もあると思っている。そして、この世論調査の結果は、前述したように、回答者が真に皇室のことを学び、女系天皇等の意味を理解して回答しているとも思えないのだ。そうした不確かで曖昧な「民意」なるものを重んじ、政治家がその片棒を担ぐことはあってはならない。

 政治家たるもの、何が正しい民意か、間違った民意かを見抜き、間違った民意であるならば、如何にそれが多勢であろうとも、立ち向かっていく、説得していくことが責務であろう。ましてや河野氏は「男系を維持できるものならば、それに越したことはありません」と主張しているのであるから、旧宮家の復帰を含めた男系維持のプランこそ早急にまとめるべきではないか。新たな宮家の創設は、皇統の安定に寄与するであろう。女系云々の話は、それでも皇統が安定しない時にするものだろう。私はそう思うのである。

 河野氏には消極的な見解を改めてほしいが、氏はツイッターをやっていて、気にいらない意見の人を頻繁にブロックしてるようだ。
 本人は会見で「誰をブロックしてるか、いちいちそこまで見ておりません。誹謗中傷うんぬんについてはブロックしています」「個人が暇つぶしでやってるものについてとやかく言われることはない」「不愉快な思いをする必要はない」と話しているようだが、私には河野氏の度量の小ささと軽さが露わになっているように感じる。「謎めいたツイート」などが人気を博している河野氏だが、ウケ狙い・人気とりのように思えて、私は初めから冷めている。

「自分と少しでも違う意見を持つ人を罵倒したり、中傷したり、否定してみても世の中の理解は進みません」「男系を維持すべきだと主張するならば、今やるべきは、国民の理解を得る努力をすることです」と河野氏はブログで述べているが、これはその通りである。

 話を戻すが、皇籍離脱された方々のご子孫で、男系男子の血統を引いている人は今もいる。そうした方々に新たな宮家を創設して頂く、昔、徳川御三家(尾張・紀伊・水戸)というものがあったように、三家(もしくはそれ以上)創設して頂くというのが理想である。皇位継承順位については、11宮家の臣籍降下前の順位を参考にすれば良い。
 宮家の名称は、廃絶した宮家の宮号を継承するのである。私は「平成の新井白石」の登場を待っている。
(主要参考・引用文献一覧)
・衆議院議員 河野太郎公式サイト ブログ「ごまめの歯ぎしり」
・阿部岳「ブロックされた「沖縄タイムス」記者が問う、河野太郎防衛相のツイッター何が問題か」『文春オンライン』(2020 ・3・9)
・「皇統の危機、早い段階で考えて」河野大臣が訴えた“女系天皇容認論” 国民的議論はなぜ進まないのか」(ABEMA/『ABEMA Prime』2020 ・8・26)
・女性議員飛躍の会『皇位継承』(展転社、2020 )
・所功『皇位継承のあり方』(PHP研究所、2014)
・浅見雅男『皇族と天皇』(筑摩書房、2016)
・新田均『皇位の継承』(明成社、2018)
・竹田恒泰・谷田川惣『入門 「女性天皇」と「女系天皇」はどう違うのか』(PHP研究所、2020 )
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本人はこうして戦争をしてきた』、『日本会議・肯定論!』、『超口語訳 方丈記』など。

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