日本学術会議が謳う「学問の自由」の矛盾

日本学術会議が謳う「学問の自由」の矛盾

「防衛力強化研究」も学問の自由なのでは?

 菅義偉総理が日本学術会議の新会員について、学術会議側が推薦した105名のうち6人を除外して任命したことに波紋が広がっている。「学問の自由を脅かす極めて重大な事態が起こった」「任命の拒否は違法、違憲の行為だ」として、政府の決定を極めて危険なもののように描く報道が相次いでいる。この問題について考えてみたい。

 学問というものは事実ベースで論を組み立てるべきことは絶対的な前提である。事実に基づかない思い込み・先入観によって組み立てられるものはもちろん学問とは呼べない。ただその上でどのような組み立てをするかは完全に自由であり、むしろ従来にないような組み立てを行うことにはより高い価値が見出されるべきものである。
 それにより、ものの見方が多様化し、新たな可能性を広げるからだ。つまり学問の自由にとって自由な思考はかけがえがないほど大切なものであり、本来は学問を行う立場の人たちは、この点について特別に敏感であることが求められる。

 特に日本においては師事した恩師の理論や主流派を否定するような考えを持つと、学問の世界でなかなか認めてもらえないということは普通のことであり、この点をどう改革していくかは日本の学術界の大きな課題である。

 にも関わらず、日本学術会議が従来にない見方を提出する研究者を支援するという、学問の自由にとって最も大切な取り組みを行ってきた形跡はない。逆に日本学術会議は特定のイデオロギーに基づくとしか思えない方針を度々発表してきた。例えば、2017年には「軍事的安全保障研究に関する声明」を発表し、軍事に関わる科学研究は絶対に行わないとの従来の姿勢を再確認した。

 戦力の均衡によって平和が保たれるという考えが絶対的に正しいとは言えないとしても、絶対的に間違っていると決めつけることもできない。中国が急速に軍事力を強化し、その軍事力を背景に周辺諸国に不当な圧力を掛けていることは周知の事実であり、わが国もそのような圧力を受けている国である。この中で我が国の防衛力の強化に資する研究を行いたいという思いを研究者が持ったとしても、別段おかしなことだとは言えないであろう。だが、こうした方向性について頑なに拒絶してきたのが日本学術会議なのである。

イデオロギーを持っているのはどちらだ

 さて、この「軍事的安全保障研究に関する声明」において、「科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実」を学術会議は求めている。

 ところが、この学術会議が「研究の自主性・自律性、研究成果の公開性」などまるでない中国との関係構築に非常に積極的であるのだ。例えば、日本学術会議は2017年には中国科学技術協会との協力促進の覚書を締結している。「軍民共同」どころか「軍民融合」をスローガンに民生技術の軍事転用を積極的に進めている中国との協力は、日本の高度技術の軍事転用を中国側に行わせるのに大いに役に立つ。

 中国には有能な研究者のヘッドハンティングプランである「千人計画」というものがある。他国の優秀な研究者を高額な年俸で招聘し、本国の研究室と同等以上の研究室を用意し、研究者に思う存分研究してもらい、研究成果を全部吸収していこうとするものである。

千人計画」への参加自体が秘匿化されることが多く、日本の研究者でも密かに参加している人は数多いと考えられている。こうした懸念があるにもかかわらず、日本の高度技術が中国が進める軍事技術研究に使われる懸念を日本学術会議が問題視した形跡はない。

 中国人留学生が中国政府のコントロール下にあり、日本に留学する中で身につけた技術や知識を帰国後に中国人民解放軍のために差し出すことは当然考えておくべきことである。だが、日本学術会議が中国人留学生のこうした問題点に警鐘を鳴らしたこともない。

 2016年に核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮への制裁として、日本政府は京都大学・原子炉実験所の男性准教授について、北朝鮮に渡航したら再入国を禁止する措置の対象に含めた。この准教授は北朝鮮と密接な関連がある「金萬有科学振興会」から核技術に関する研究で奨励金を得ており、自らが研究した核技術に関わる成果を北朝鮮に渡していた疑いは極めて濃厚だ。

 軍事に関わる研究は絶対に行わないとの姿勢を持つ日本学術会議からすれば、こんな疑惑は絶対に放置できないはずであり、徹底した真相究明を行うべきであろうに、そんなことを行なった形跡もまるでないのである。

 日本の国民と国土を守るために必要な軍事研究には頑なに否定的な立場を取りながら、日本の安全を脅かす立場の軍事研究に協力することには抵抗がない日本学術会議のあり方は、日本国民の普通の感覚では理解できないものがある。

 日本学術会議は、建前としては特別なイデオロギー色を持たない、純粋な学者たちから構成される機関ということになっているが、現実にはイデオロギー色を強く持ったグループが大きな影響力を持ち、その推薦によって新メンバーが選ばれる仕組みになっている。その仕組みに変更を加えようとすれば、問題が多いと思われる人選を拒絶して、そのイデオロギー色を薄めることしか現実的な対応はないだろう。

 菅総理の判断の是非については、ここまでの理解をした上で現実に即して考えてもらいたい。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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