【朝香 豊】危機迫る中国――出生率激減のウラにある経済...

【朝香 豊】危機迫る中国――出生率激減のウラにある経済のカラクリ

取りやめられた出生人口データの公表

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界的に出生数を大幅に減らした。日本もその例外ではなく、政府は日本の2020年の出生数は2019年よりも2%減少したのではないかとの推測をしている。この件については、実態をはるかに上回る危機を煽ったことの問題を、まじめに冷静に考えるべきではないか、というブログ記事を私もまとめている。

 ところで出生数の大幅な低下という点では、中国の受けている影響は日本を遥かに超えているのは確実だ。あまりのショックのせいか、中国の国家統計局は2020年の出生人口データの1月の公表をとりやめた。例年通りであれば、1月18日にGDP統計などと並んで前年の出生数のデータを公表するはずなのにだ。

 それはともかく現段階では国家全体としての出生数のデータは出ていないのだが、一部の都市のデータはすでに出ており、それをまとめた記事が中国で報道された。これによると2020年の出生数は温州市で前年比マイナス19%、合肥市でマイナス23%、銀川市でマイナス12%、台州市でマイナス33%、平湖市でマイナス21%、寧波市でマイナス19%、濰坊市でマイナス26%、黄山市でマイナス17%、貴陽市でマイナス32%、広州市でマイナス9%となっている。はっきり言って、日本のマイナス2%など霞んでしまう数字ばかりが並んでいる。これだけのデータでは粗い推計しか出せないが、中国全体の出生数が前年比マイナス20%程度に達しているのではないかと想像させる。

疑わしい「経済成長」

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本当に「経済成長」しているの?
 中国の出生数の落ち込みがなぜここまで大きいのだろうか。それは中国の経済状態が、中国政府が公式に発表しているようなものとはまるで違っていることが大きく関わっているのではないか、と私は疑っている。

 中国政府は2020年の中国の経済成長率は2.3%に達し、主要国の中で唯一経済成長した国であると公式には胸を張った。2020年の10−12月期に至っては、前年比、つまりコロナの影響がまったくなかった2019年の10−12月期と比べてさえ、6.5%も経済成長したと発表している。

 だが現実に手に入る信頼できるデータによれば、2020年の自動車の販売台数は前年比マイナス6.8%の1929万台に留まり、スマホの販売台数も前年比マイナス20.8%の3.1億台にとどまったことがわかっている。こうした数字を見れば、中高所得層も低所得層もみな消費を手控えているのが中国の現実なのだということがわかるだろう。そしてその苦しさはわれわれが感じている苦しさを遥かに上回るからこそ、われわれを遥かに上回る出生制限を中国の人たちは選択していると解するべきだと考える。

適切な対応が「バブル崩壊」を早める?

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深圳市の住宅にはとても庶民の手は届かない
 北京大学光華管理院の梁建章教授は、中国の住宅費と教育費が高すぎるため、出産可能年齢のカップルが子供を産む意欲が全般的に落ち込んでいると指摘している。そして梁教授は高すぎる中国の住宅価格の一例として、深圳市の住宅価格が年収の35.2年分になっていることを挙げた。飲まず食わずで年収35.2年分を払わないと、住宅を手に入れられないのである。

 これに対して、梁教授は複数の子供を持つ家族には、住宅購入時に土地使用権料を無料にすることを提言している。マンション価格の5割以上が、地方政府が徴収する土地使用権料なのであり、これを複数の子供がいる世帯には無料にするならば、住宅購入費用は大きく引き下げられるというわけだ。

 梁教授がどこまで意識しているかはわからないが、これを実際に行ったら安い価格での購入を悪用しようとする動きが起こるのは確実であり、中国の不動産バブル崩壊を早めてしまうことになるのは避けられない。少子化対策は待ったなしの状態にはあるが、現実的には出せる手立ては限られている。こういう壁に中国経済がぶつかっているということを、われわれは知っておくべきではないだろうか。
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朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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