【朝香 豊】菅政権「対中」政策のスピード感

【朝香 豊】菅政権「対中」政策のスピード感

矢継ぎ早の「対中」政策

 菅義偉総理が新しい総理大臣に選ばれた時に、親中派の二階自民党幹事長を留任させたことなどから中国寄りの政治運営をする懸念が上がっていたが、私はこのWiLLオンラインYouTubeのWiLL増刊号でそれは杞憂(きゆう)に過ぎないと述べてきた。

 この私の見解に対して見方が甘すぎるという厳しい批判は山のようにあったが、菅総理が就任してわずか1カ月足らずの間に対中政策として、どのようなことを行ってきたのかを具体的に見ていくと、その批判が適切なものだったかどうかの判断ができるのではないかと思う。

 実は菅総理は矢継ぎ早に対中政策の強化を打ち出している。

①先端技術の輸出規制を提案

 菅政権はアメリカ、ドイツ、イギリス、オランダなどの技術先進国に、先端技術の輸出規制の新たな枠組みを提案する方針を打ち出した。現在でもワッセナー・アレンジメントという軍事転用の懸念のある機器、部品についての国際的な輸出管理システムがあるが、参加国数が多いために規制の決定が迅速に進まないきらいがあった。これをわずかな技術先進国だけで決める枠組みにすれば、素早く連携が取れ、懸案が浮上した場合のフットワークが軽くなるというのが、菅政権の提案である。
 半導体技術で高いレベルに達している韓国をこの中に入れていないのも面白い。親中的な態度の国家をこの枠組みに入れれば、合意形成の邪魔になるから排除したということだろう。

 対象となる主たる技術は、AI、量子コンピュータ、バイオ、極超音速に関連する技術で、これが中国にやすやすと渡ることを阻止する実効性のある枠組みをつくるという提案だ。
 2021年にも発足できるように準備を進める予定である。これはアメリカの対中輸出規制を積極的にサポートするものとなる。

②経済安全保障の推進

 また、経済安全保障を推進する法案の、次期通常国会への提出準備を始めた。これにはサプライチェーンの組み換えのみならず、サイバー攻撃対策、知的財産の流出防止策なども含む包括的なものだが、当然対中国が念頭にある。
 一気にやるには無理がある現実との間で、改正すべき法律を列挙して工程表としてまとめるプログラム法から始めることになるかもしれないが、それにしても早い動きだ。

 来年度(令和3年度)から政府が購入するドローンについては、運航記録や撮影した写真の外部への漏えいや、サイバー攻撃による乗っ取りを防ぐ機能を備えた機体でなければならないという方針を固めた。名指しはしていないが、これは事実上中国製ドローンの排除である。

③外国人留学生に対するビザ審査の強化

 さらに中国人留学生などのビザ審査の強化方針も打ち出し、疑わしい人物について省庁横断で情報共有するシステム構築も行うことを打ち出した。アメリカではこの2年ほどでこの点の規制が急激に強化されたが、この流れに日本も倣い、日本から中国への技術流出を抑制する方針だ。

④省庁を横断した安全保障の枠組み

 経済産業省も企業や大学が持つ軍事転用可能な最先端技術の流出を防ぐための技術管理支援を行う方針を発表したが、これも菅政権の動きのよさを示すものとなっている。国家安全保障局も経済班の人員を拡充し、経済安全保障の対応能力を高める。

 防衛省は「経済安全保障情報企画官」を新設し、防衛省が経済安全保障に乗り出すことになった。さらに防衛省は令和3年度から全国8カ所に電磁波で敵の攻撃を防ぐ「電子戦」の専門部隊を設置するが、このうち3カ所は南西諸島(奄美大島に1カ所、沖縄本島に2カ所)とし、残りのうち2カ所も九州北西部に置かれる。
 この2つは北朝鮮や韓国のことも頭にはあるだろうが、やはり主たる対象は中国であると思われる。つまり、全国8カ所のうち5カ所が対中国の布陣となっているわけだ。

⑤外国資本による土地取得への監視強化

 安全保障上重要な土地について、中国・韓国などの外国資本が取得することに対して監視強化を目的にした新法を制定する方針も固めた。国境離島や自衛隊関連施設、原発などを「安保上の重要施設」に指定し、周辺の土地を調査対象とし、土地買収計画の届け出を求めることが検討されている。できれば、政府による土地収用権により、すでに購入済みの土地についても政府の判断で強制収用できるようにしてもらいたいが、これはもう少し先の課題になるのかもしれない。

 日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国の外相会談が東京で開催されたことも特筆したい。「自由」「人権」「民主」「法の支配」という基本的価値観を共有する国々が連携することで、中国の膨張を抑止しようという日本発の構想は、広い支持を集めるようになった。
 国連総会での一般討論演説においても、菅総理は「法の支配」が秩序の基盤だと述べ、名指しはしないものの中国の体制に対する批判を示した。

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対中政策だけでない=今までとは違うスピード感

 これらの方針の大半は、当然ながら安倍政権時代に準備をしてきたものについて、菅総理が実行に移しているという側面も強い。そうだとしても、新政権が発足して1カ月足らずでこれほどの対中政策を決めているスピード感は半端ないだろう。

 中国人民解放軍はこうした中国封じ込めの動きを菅政権が積極的に進めていると分析し、対抗策を取る必要性を訴えた。それほど中国には菅政権の動きは脅威と映っているようだ。中国はまた、菅政権が敵基地攻撃能力の保有を模索している動きにも敏感に反応している。

 当然ながら、菅総理は対中政策だけをやっているわけではない。携帯料金の引き下げを求めて厳しい姿勢を携帯大手3社に突きつけ、日本学術会議の闇にも手を突っ込んだ。行政のデジタル化を5年で完了させるとして、すでにざっくりとした工程表まで用意した。
 
 ドイツの首都ベルリンに設置された慰安婦像の撤去にもすぐさま動き、地元自治体から設置団体に撤去命令を出させるところまで成果を出した。中小企業に対する金融機関の出資規制緩和の方向を打ち出し、中小企業金融の新たなあり方をつくり出した。

 沖縄振興計画の既存事業の成果検証を行い、振興予算に切り込みを入れる姿勢も見せている。香港に代わる国際金融都市として東京を育てるための、税体系の変更を含めた具体的な方向性も打ち出している。

 どの分野においても、今までとはスピード感が全く違う内閣が誕生したことがわかるだろう。今後も菅政権に大いに期待したい。
 (3021)

朝香 豊(あさか ゆたか)
1964年、愛知県出身。私立東海中学、東海高校を経て、早稲田大学法学部卒。
日本のバブル崩壊とサブプライム危機・リーマンショックを事前に予測、的中させた。
現在は世界に誇れる日本を後の世代に引き渡すために、日本再興計画を立案する「日本再興プランナー」として活動。
日本国内であまり紹介されていないニュースの紹介&分析で評価の高いブログ・「日本再興ニュース」( https://nippon-saikou.com )の運営を中心に、各種SNSからも情報発信を行っている。
近著に『左翼を心の底から懺悔させる本』(取り扱いはアマゾンのみ)。

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