青ざめる独裁者たち 習近平降ろしがついに始まった【矢板...

青ざめる独裁者たち 習近平降ろしがついに始まった【矢板明夫:WiLL HEADLINE】

 中国で今年秋、5年に1度の共産党大会が開かれる。習近平総書記は党大会で3期目の任期に突入し、毛沢東以来の長期政権を目指す予定だが、最近になって雲行きが怪しくなった。

 中国の官製メディアである人民日報や新華社通信などで、習氏の個人を持ち上げる記事が激減する一方、習氏のライバルで、来年春に首相を退任する李克強氏の経済政策に関する長文談話を大きく宣伝するなど、風向きの変化が見られた。

 人事面でも、習派といわれる人物は次々と重要ポストから外されることになった。最も象徴的な出来事は、南部、広西スワン族自治区の共産党委員会は4月に「習近平思想」と称する小冊子に市民に配ったが、5月になってからすべてが回収された。

 小冊子の配布は広西スワン族自治区のトップ劉寧氏が主導した。劉氏は習近平氏の側近、陳希・共産党組織部長(幹事長に相当)に抜擢された幹部で、党大会を前に、習氏の擁護運動を盛り上げようとしたが、追随するほかの省はなく、党内の反発は想像していたより大きかったという。

 「『習近平思想』の小冊子は文化大革命中に配られた『毛沢東語録』を連想させ、『個人崇拝』につながる行為だ」といった批判が殺到し、党の規律検査委員会から劉氏にストップがかかり、わずか1カ月で回収することになった。習派にとって大きな挫折といえる。

 北京在住の元共産党幹部によれば、習指導部は最近、ウクライナ戦争、コロナ対策という2つの問題での対応が、党内からの不満を募らせている。「習氏とその周辺を批判する声が大きくなっている」と話す。
 ウクライナ戦争に関しては、習氏は開戦前の2月4日、ロシアのプーチン大統領と会談し、ロシア支持を全面的に打ち出す「中露共同声明」を発表した。ロシアによるウクライナ侵攻が始まった後も、ロシアに対する経済制裁に参加せず、欧米など国際社会との違いを浮き彫りにさせた。習氏が主導する親露路線は中国の孤立を招き、中国の対外貿易に負の影響を与えるほか、国際社会から制裁対象になりかねないリスクがある。最近、中国に友好的だった韓国や、シンガポールなども米国に接近し始めている。

 3月、党長老の朱鎔基元首相によるとされる「習氏の外交姿勢を批判する手記」がインターネットに出回った。真偽は不明だが、党内の改革派の意見を代表しており、影響を広げている。

 一方、コロナ対策に関しては、最近、欧米や日本など国際社会は、新型コロナの消滅は不可能だという前提で、ワクチン開発・接種、治療薬の開発によって、ウイルスと共存・共生しながら社会を正常化していく方針に転換している。しかし、習近平指導部だけが「ゼロコロナ」の政策に固執し、上海など複数の都市で長期間にわたってロックダウン(都市封鎖)を実施、市民生活と経済に大きな負の影響を及ぼしている。
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青ざめる独裁者たち 習近平降ろしがついに始まった【矢板明夫:WiLL HEADLINE】

厳しすぎる「ゼロコロナ政策」の継続で、人々の不満が高まっているのか―(写真は閑散とする上海市)
 このまま何もせず、秋の党大会で習氏の3期目を許せば、「中国の経済発展が失速するだけではなく、外交も四面楚歌の状態になる」と考えた党内の改革派は、党内で「習近平降ろし」の動きも見せ始めたという。その中心的存在になっている人物は2人おり、1人は李克強首相、もう1人は、党の規律委員会のトップだった趙楽際氏といわれる。趙氏はもともと習氏に近いとされていたが、数年前、趙氏の地元で起きた大型汚職事件の捜査方針などをめぐり習氏と対立したため、最近は李氏に接近している。

 「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」。反習派がまず狙ったのは、習氏の側近と言われた人たちだ。習氏の元部下で、湖北省のトップだった応勇氏が4月に退任し、閑職の全国人民代表大会(国会に相当)の憲法・法律委の副主任委員に追いやられたほか、習派の若手ホープ、天津市の廖国勲市長が4月末に自殺したことも、中央規律委員会による汚職調査と関係しているといわれる。中国で汚職調査を理由に政治家を自殺に追い込むことはよくあるが、政権主流派がその標的になることは珍しい。

 これからは、習派による激しい反撃も想定され、権力闘争はいよいよ白熱化する。天王山となるのは、8月上旬に河北省避暑地で開かれる北戴河会議とみられる。北戴河会議は、現役指導者のみならず、党の長老も参加する重要会議だ。

 前出の元共産党幹部は「習近平続投は既定路線なので、彼をトップの座から引きずり下ろすことは難しいかもしれないが、反習派が結束すれば、その外交と内政路線を変更させることは可能だ」と話している。
矢板明夫 (やいた あきお)
1972年、中国天津市生まれ。15歳の時に残留孤児二世として日本に引き揚げ、1997年、慶應義塾大学文学部卒業。産経新聞社に入社。2007年から2016年まで産経新聞中国総局(北京)特派員を務めた。著書に『習近平 なぜ暴走するのか』(文春文庫)などがある。

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